江戸時代、姫路藩に「高砂染」と呼ばれる染め物があった。最盛期には幕府や朝廷に献上されるほどの品だったが、昭和初期に失われてしまったという。
この幻の染め物を復活させようというプロジェクトが、地元・兵庫県高砂市の「エモズティラボ」によって進められている。朝日新聞社の「A-port」でクラウドファンディングを実施中だ。
同社によると、高砂染は地元の高砂神社境内にある「相生の松」を主なモチーフとし、型染めという技法で染め出した伝統的な染め物。江戸時代後期、姫路藩の財政再建に尽力した家老・河合寸翁(道臣)の特産品奨励策で大きく発展した。
元々は複雑精緻な文様の高級染め物だったが、明治維新以降に藩の保護を失ってからは一般大衆向けの木綿地のものが中心となり、文様も簡素になっていった。産業としては昭和初期に廃絶したと考えられている。
姫路城周辺は戦争中に空襲にあったため、昔の着物は焼けてしまったものが多い。現存している高砂染めの絹の着物は縮緬地の1着のみ、木綿地の古布もまれに見つかる程度だという。
多様な色彩は高砂染の特徴の一つ
エモズティラボは2016年夏に設立。高砂染のデザインを取り入れた様々な商品の開発をしてきた。より本格的に高砂染の復刻に取り組むために今年6月に株式会社化し、今回のプロジェクトをスタートした。
絹の羽二重地の高砂染は古布が見つかっていないが、伝統工芸の職人や研究機関と協力しながら、できる限り当時の技法で復刻することを目指す。高砂染のルーツには大きく2説あり、それぞれで創業家とされる家が違うが、プロジェクトには、二つの創業家がともに協力しているという。
復刻の様子は動画や写真などで記録に残す。また、復刻した技法をベースにして、現代ならではの新しい高砂染めの商品を「a.m.ta.」のブランド名で製造・販売していくという。
最初の型の糊を置いたまま、2つめの型と糊を置く「ふた型染」で描かれた精緻な文様
エモズティラボ代表の寄玉昌宏さん(32)は高砂市で生まれ育ったが、高砂染については昨年まで知らなかった。創業家で展示されているのを見て、「地元にこんなんあるんや」と感動したという。
寄玉さんは「謡曲の高砂と同じで、高砂染めで使われている松の模様や吉祥紋は言祝ぎ、祝いの心が本質にあると思う。地元の人に誇りに思ってもらえるように高砂染を再興したい」と話している。
クラウドファンディングのページはhttps://a-port.asahi.com/projects/takasagozome/。