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2015年09月02日 01時13分 JST | 更新 2016年08月31日 18時12分 JST

天然醸造醬油にこだわる。龍馬とともに世界へ 現存する最古の醬油屋「室次」の挑戦

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旬の刺し身につけて。冷や奴にかけて。卵かけご飯にひと回し。煮物、炒め物、焼き物、漬物、たれ......。和食のあらゆる場面で登場する、世界に誇る調味料「醬油」。台所で、食卓で、登場しない日はないくらい、私たち日本人は日々醬油を消費している。

■奥深き醬油の世界を知るプロジェクト

そんな醬油の奥深さに触れられるプロジェクトが、クラウドファンディングサイト「A-port」で始まった。手間ひまかけた無添加の「天然醸造」醬油の良さを知って欲しいと、「世界で最初の醬油屋」をうたう福井県福井市の老舗「室次」が、新しい醬油ボトルの制作費を募っている。白崎裕嗣社長が大ファンである坂本龍馬をかたどったボトルのデザインにする予定だ。

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■全生産量の1%、天然醸造の醬油とは

天然醸造醬油とは、酵素や食品添加物を一切使わず、原料の大豆と小麦を微生物の力で自然に醗酵させて醸造した本醸造醬油のこと。JAS規格により、この条件を満たす醬油だけが「天然醸造」と表示できる。

白崎社長によると、室次の天然醸造醬油は、福井に流れる白山山系の地下水、福井県産の丸大豆と小麦を使い、添加物を使わず、自然発酵で作っている。日本酒同様、冬に仕込んで寝かせ、四季の移り変わりを経て次の冬に搾る1年がかりの製法は江戸時代と同じだ。福井は米どころ、日本酒の産地としても知られ、酒同様の醸造を行う醬油の製造にも向いているという。

現在大量生産されている醬油には、温度を調節し短期間で発酵させる方式で作られているものも多く、一度の生産にかかるコストは抑えられる。天然醸造は大変な手間と時間がかかり大量生産に向いていないため、現在では全生産量の1%に満たないという。老舗中の老舗が天然醸造にこだわる理由は、幾多の困難を乗り越え、今こそ「本物の醬油で世界に打って出たい」との思いがあるためだ。

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■創業440余年、室次の歴史

天正元年(1573年)、越前の戦国大名・朝倉義景の家臣だった当主が、織田信長との戦で討ち死にし、残された女性と子どもが「室屋」を創業。現在の福井市田原で醸造業を興し、酒や醤油、味噌などの製造販売を始めた。このころの醤油は味噌の下に溜まる「溜まり醤油」で、非常に高価だったという。元禄2年(1689年)、室屋4代目が最新醸造法を学び、本格的に醤油の大量生産を始め、醤油の専門醸造場として屋号を「室次」とした。この頃から一般庶民も醤油を使うことができるようになり、急速に広まった。

■幕末には世界へ、戦禍・震災・水害も

幕末には室次の醬油が海外に進出。福井県最大の醬油屋として、長崎の出島からヨーロッパに室次の醬油を輸出したことにより、傾いていた福井藩の財政を立て直したとの話が伝わる。1863年、坂本龍馬が福井藩主・松平春嶽を訪ね、現在の福井市にあった莨屋(たばこや)旅館に宿泊した。当時、莨屋旅館の北隣には室次の分店があって醬油を卸しており、龍馬も室次の醬油を味わったと伝わる。

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その後室次は数々の災害や戦禍に見舞われる。明治35年(1902年)には福井大火、昭和20年(1945年)7月には福井大空襲に遭い、蔵が焼けるなど壊滅的な被害を受けた。さらに再建途中の昭和23年(1948年)6月にはマグニチュード7.1を記録した福井大震災が起き、7月には福井大水害で浸水。冬の豪雪による被害もあった。戦前は約1200坪もの広大な敷地に大きな蔵が並んでいた室次だが、数々の災害や接収で、いつしか敷地は半分以下になってしまった。

■大量生産の工夫、「にせものだ」

戦後は原料の大豆が手に入りにくく、本格的な醬油づくりは難航。高度経済成長時代には、需要の高まりを受け、大手メーカーが醬油の大量生産に乗り出した。醸造を促進させて年に数回醸造したり、搾った醬油にグルタミン酸ナトリウムなどのうまみ調味料や人工甘味料、着色料、保存料を加えたりといった、安くておいしい醬油づくりの工夫が生まれた。再建に励む室次も、こういった新しい方式の醸造法での製造を採り入れていった。

白崎社長の先代の俊輔さんは、自らの意志とは逆方向に進む醬油づくりに常々葛藤していたという。「今の醬油はにせものだ。本当の醬油をつくりたい」。でも「こだわった高い醬油なんて売れない」と言われていた。生き残りのため、室次は醬油業以外にガソリンスタンドも始めていた。同業者の中には、醸造業をたたむ者も少なくなかった。

■時が来た。再び世界へ

5年ほど前、俊輔さんは「時が来た」と感じた。健康志向の高まりから、無添加の食品にこだわる人が増えてきた。新しい設備を導入し、思いきって天然醸造の醬油をつくりはじめた。「そんな醬油つくって、大丈夫?」と周囲から言われた。コストはこれまでの3倍かかったが、それでも幕末、世界に輸出した、福井が誇る室次の醬油をもう一度作りたかった。

そうして現代の設備を使い、江戸時代の製法でつくる天然醸造醬油「幕末のソイソース」が生まれた。天然醸造の醬油を仕込み、次の冬の完成を前にして急逝した俊輔さん。15代目が遺志を継いだ。

1年間天然発酵させた醬油は香りが良く、300種類以上のアミノ酸を含むという。無添加のため甘みは少なく、キリッとしたうまみが特徴だ。食の安全や健康にこだわる人から徐々に問い合わせが増え、海外からも「本物のソイソースを味わいたい」と問い合わせや注文が相次ぐ。

■世界へ勝負「龍馬」ボトル制作へ

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そんな天然醸造醬油の良さを伝えたいと、白崎社長はクラウドファンディングで支援を求めている。幕末の坂本龍馬との縁から、龍馬をかたどった天然醸造醬油のオリジナルの磁器ボトル(500㍉リットル入り)の制作費を求める。「越前龍馬会」にも所属しており、大の龍馬ファンという白崎社長。プロジェクトは、坂本家九代当主で坂本事務所代表・坂本登さんも了解済みだ。「世界を見据えていた龍馬の開拓精神に見習い、龍馬のボトルで天然醸造醬油をどんどん世界に広めていきたい」

■支援金額につき、お得なリターンも

3800円の支援につき、オリジナルボトル1本が贈られる。ファンディング成功後は1本5千円前後で販売予定。そのほかにも、1千円の支援で天然醸造醬油「龍馬」(125㍉リットル)が贈られるなど、リターンも魅力的だ。目標60万円で、9月18日まで。

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