環境のバロメーター、鳴り砂を守るために
みなさんは「鳴り砂」(鳴き砂とも言う)をご存知だろうか? 歩くと「キュッキュッ」という音がする砂を指し、これは砂の中に含まれる「石英」という鉱物が表面摩擦を起こして音が鳴るものだ。鳴り砂の海岸は全国に約30カ所しかなく、貴重な存在だ。たばこの灰が混じったり、海水が汚れていたりすると音が鳴らなくなるため「環境のバロメーター」とも言われている。
菊地富子さんは、北海道では4カ所しかない鳴り砂海岸の一つ、室蘭市イタンキ浜の環境保全活動を行う「室蘭イタンキ浜鳴り砂を守る会」会長だ。
室蘭は、日本でも有数の工業都市でありながら、周囲は美しい海・山に囲まれ手つかずの自然が残る珍しい街だ。その魅力が知られ最近は映画やCMの撮影スポットとなることも多く、イタンキ浜もその一つだ。その美しい自然が50年後、100年後も続くように...と菊地さんは、日々保全活動に勤しんでいる。
菊地富子さん。自宅のリビングには、毎年開催される「全国鳴き砂サミット」で訪れた各地の鳴り砂が飾られている。
ごみ袋が50個分も!
同会は海岸清掃を主催しており、4月〜10月までの6ヶ月の間、月2回ほど浜辺でごみ拾いをしている。現在会員は71名。しかし、会員以外にもイタンキ浜近くの町内会や小中学校の生徒、室蘭工業大学の学生らが団体で参加するため、年間1000人近くが活動に携わっている。
1回のごみ拾いで、30リットルのごみ袋が約50個も集まる。そのほとんどが、ペットボトルや漁具などプラスチック類のごみだ。これらは風化すると細かい破片となり、砂に混じってしまう。砂浜の性質が変わると、名物の砂が鳴らなくなる原因となる。そうなる前に拾わなければならない。
1日で集まったごみの量にびっくり!
参加者には手書きのはがきを
ごみ拾いというと地道な活動で、なかなか腰が重い作業かもしれない。菊地さんは、初めて清掃活動に参加する人や家族連れには「砂の音を鳴らしてみましたか?」「こうすると鳴りますよ」などと声をかけるようにしている。黙々とごみを拾うだけではなく、海を眺めたり水に触れたりして、気分をリフレッシュしていってほしいという思いからだという。そんな思いが通じるのか、参加者はみな「楽しかった」「癒されました」と笑顔で帰っていくそうだ。ポジティブな思い出は、砂浜に愛着をもたらす。こういった些細な変化が海をきれいにしていく一歩になるのだろう。
菊地さんの配慮はそれだけに留まらない。清掃に参加してくれた人にお礼の言葉を添えた手書きのはがきと、今後も気軽に参加してほしいという思いを込めて次回以降の清掃スケジュールを送っているのだ。
街角で会った大学生に「たった1度ごみ拾いに参加しただけなのに、手書きのはがきをもらい嬉しかった。また参加します」と声をかけられたこともあるという。「人との出会いを大切にする」菊地さんの心配りが、活動の輪が広がる理由の一つと言えそうだ。
イタンキ浜に立つ菊地さん。清掃時は黄色のジャンパーが目印だ。
美しい自然を次世代に
会のモットーは「見守る・伝える・訴える」。このうち、菊地さんが今後最も力を入れていきたいのが「伝える」ことだ。現在、清掃活動のほかに年3回ほど、地元の小中学校で出前教室を開いている。教室にはイタンキ浜の鳴り砂や海岸で拾ったものをトランクいっぱいに詰めて持参する。海の近くに住んでいても、鳴り砂を知らない子どもたちに、まずは砂に触れてもらうことから始めている。
海岸で拾ったきれいな石やガラスの破片を欲しがる子どもたちに「これは私の宝物だから、みんなも海に行って見つけてごらん」と言うと「海に行って自分で宝物を探してみる」と約束してくれるのだとか。子どもたちにはどんどん自然に触れてほしいと菊地さんは願っている。一人ひとりの力は小さくても、世代を超えて大きくなっていくことで、自然は受け継ぐことができるはずだ。
室蘭イタンキ浜での「AQUA SOCIAL FES!!」は今年9月26日(土)の開催で3年目となります。学生や小さい子どものいる家族連れなど、普段の清掃活動時よりも多くの若い世代が集まってくれることに菊地さんは期待しています。「子どもたちや若い方に、自分の暮らす街の美しさを知ってほしい」と、今年もいろいろな世代の人たちとの交流を楽しみにしています。
詳細は公式ホームページ(http://aquafes.jp/projects/151/)をご覧ください。
(監修 北海道新聞社 小岩井直)