ノルウェー新設「移民大臣」が難民受け入れ施設を訪問

これまで人種差別的だと捉えられていた進歩党の党首が、もし首相になることがあったら?ノルウェーの政治は、歴史の教科書に載る、大きな転換期を迎えることとなる。

12月15日、ノルウェーの内閣改造で第二次ソールバルグ内閣は、深刻化する難民問題に伴い、新たに「移民・社会統合省」を設けた。大臣となったのは、シルヴィ・リストハウグ氏。移民・難民排斥を掲げる極右・進歩党メンバーだ。かつてないほど支持率が急上昇している進歩党が連日メディアを騒がせているノルウェーでは、「移民に寛容な国」という国際的なイメージが多きく変わりつつある。

「難民管理を強化することが、楽しみだわ」、リストハウグ大臣は内閣改造の発表日に笑顔で記者たちに答えた。同氏は、これまでも移民・難民に否定的な態度を露わにしている。左派勢力の政党や人権団体にとっては、同氏が移民・難民問題を取り扱う最高責任者になったことは脅かしいことだ。

21日、リストハウグ大臣は、首都オスロから電車で約50分ほど離れたところにある、国内最大級の難民管理施設を視察に訪れた。10月に緊急に設けられた施設で、難民申請者はここで身分証明などの登録作業を2~3日で終えた後、国内各地の受け入れ施設に送られる。

Photo:Asaki Abumi

施設管理社、警察、移民局は、大臣に施設内を案内した。どのような手順で登録が行われているのか、どこで難民申請者が寝泊まりしているかなどを説明した後、登録作業においての今後の課題点も話し合った。

「身分をカンニングする者がいる。別の名前に変えて、ノルウェーに渡ってこようとしたり、複数の人が同じパスポートを修正し何度も使うのを防ぐために、指紋管理を強化させます。ノルウェーにくるのを難しくさせる」と大臣は報道陣に語った。大臣は、「カンニング」、「厳しい規制措置」という言葉をこの日に何度も連呼した。

移民・難民排斥を支持する極右政党と、寛容な左派政党。どちらの勢力の党員が「移民・社会統合大臣」になるかで、その印象は大きく変わる。「国民全員」に支持される移民大臣になることは、まず無理だろう。

リストハウグ大臣と、イラクから逃れてきた難民申請者たちが笑顔で記念撮影をしているこの写真を見た時、人はどういう印象を持つだろうか?

イラクから逃れてきた難民申請者と大臣 Photo:Asaki Abumi

今回の視察には報道陣も同行できたが、後を追っていて感じたのが、「滞在者と交流するために来たのではないのだな」ということだった。リストハウグ大臣は、側に難民申請者がいても、自ら進んで声をかけることはなかった。

滞在者と一緒の写真や交流している光景は、映像を欲しがったノルウェーの報道陣がそうしてほしいとお願いしたからだ。

報道陣の前で、シリアから逃れてきた難民の家族と短い会話をした大臣 Photo:Asaki Abumi

リストハウグ大臣の肩書きは、難民寛容派にとっては矛盾している。なぜなら、「移民大臣」と「社会統合大臣」が共同しているからだ。「社会統合」は、背景が異なる人々が共存するノルウェーで頻繁に使用される言葉だ。内閣改造前は、「子ども・平等・社会統合」省が管轄していた。つまり、人々が共存しあっていくことを目指す。だが、進歩党が目指す国の未来は、かならずしも「純粋なノルウェー人」(移民などではないノルウェー人)が、移民・難民と共存しあう社会ではないことを、国民は知っている。

難民の受け入れに寛容な姿勢を見せていたノルウェー。しかし、申請者が急増し、自分たちの住む生活圏内に難民受け入れ施設ができる可能性が高くなったことを実感しはじめた途端、進歩党の支持率は急上昇した。

国民の不安が続く限り、進歩党党員たちから笑顔が消えることはないだろう。極右政党が支持され始めたことは、ノルウェー社会の不安定さを反映している。

2年後の国政選挙で、これまで人種差別的だと捉えられていた進歩党の党首が、もし首相になることがあったら?ノルウェーの政治は、歴史の教科書に載る、大きな転換期を迎えることとなる。

Photo&Text:Asaki Abumi

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