【アメリカ大統領選挙】WSJ編集長から見た大統領選

発言一つ、行動一つで大きく流れが変化するアメリカ大統領選挙。今後の展開も見逃せません。

9月12日(月)グランドハイアット東京にて行われた「U.S. Election 2016 Roadshow Tokyo: 大統領選で変わる世界」に参加してきました。

このイベントでは、ウォール・ストリート・ジャーナル(以下、WSJ)編集長兼ダウ・ジョーンズ経済通信局長であるジェラルド・ベーカー氏とWSJ東京支局長であるピーター・ランダース氏がかつてないほどの注目を浴びているアメリカ大統領選を振り返り、それがどのように米国の政治、国全体、そして世界に影響を及ぼしているか語られました。

また、WSJによる大統領選挙取材の裏側まで紹介されました。周りを見渡してみると、スーツ姿の40・50代の紳士・淑女ばかり。アウェイ感満載ながらもノースフェイスのリュックを背負ってニューバランスの靴で現地に向かいました。

最も特別かつ特異な選挙

ベーカー氏が最初に発した言葉。過去最高の盛り上がりを見せ、異例づくしのアメリカ大統領選をWSJ編集長が語りました。それをまとめます。

ドナルド・トランプという存在

ベーカー氏が今回の選挙の特異さを説明するのに、共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏を取り上げました。

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ベーカー氏の見解:「変化を求める国民」

過去70年の政権を振り返ってみても、一つの政党から代表者が3人続いたことがありません。ベーカー氏によると、国民は「政権の凝り固まり」に対して強い嫌悪感を抱くという。

さらにアメリカ国民は現オバマ政権への不満もあります。例えば、イラク戦争、アフガニスタン紛争、テロの拡大などオバマ外交が主な理由です。一方国内事情を見てみると、経済成長率は2%を維持しており、さらに失業率も8年間10%を切っています。しかし、中間層の収入が変化しておらず、そこから現政権に対する不満が高まっていると説明されました。

こうした現状では、「Changeのトランプ」と「Containのヒラリー」という認識が国民に広く行きわたります。ヒラリーは2008年から国務長官としてホワイトハウスを出入りし、「今までと変わらない政治」を行ってきた一員であるのに対し、トランプは「今までと変わらない政治」の外部の人間であることから「新しいアメリカ」を築いてくれるのではないかという期待感が国民の中で高まっています。

アメリカ大統領選挙は民主党が有利??

まずアメリカ大統領選挙の仕組みを振り返ってみます。選挙制度は端的に言うと、間接選挙方式です。有権者は、投票日に特定の大統領候補への投票を約束している選挙人団に投票します。選挙人とは、本選挙で大統領と副大統領のペアを選出するための選挙人集会に参加する人を指します。選挙人は各州に人口比率で割り当てられており、その数は上下議員と下院議員の数と同数の535人です。

また、首都ワシントンD.C.には上下両院議員は存在しませんが、3人の選挙人が割り当てられています。つまり、全国の選挙人は538人となります。勝利するにはその過半数である270をとる必要があります。1992年~2012年までの過去6回の大統領選挙では、民主党候補が勝利した州は、19州とワシントンD.C.で選挙人数は242に達します。

一方、共和党は13州でその選挙人数は102に過ぎないのです。つまり、スタートラインに立った時点で140も差を開けており、民主党は28の選挙人で勝利することになります。こうした状況を踏まえた上で、両候補にとって重要となるのはSwing state(激戦州)のアイオワ州、フロリダ州、ペンシルバニア州、ノースカロライナ州、オハイオ州の5つです。

ヒラリー氏から見ると、上記の5つの州で1つでも勝てば、トランプ氏が大統領になることを防ぐことができます。一方、トランプ氏は5州すべてで勝利しなければ、大統領になりません。

どうしてそんな構造になるのか

ベーカー氏は下記の3つを原因にあげました。

  1. アメリカ全体の教育水準が向上し、また教育水準が高い人ほど民主党に投票する
  2. 若者が民主党に投票する傾向がある
  3. 白人票の減少とヒスパニックの増加によって民主党に有利に働いているという。共和党はヒスパニックからいかに投票してもらうかが今後の選挙戦を左右します。

大統領選はヒラリーの勝利??

ベーカー氏の見解:NO

ここまでの話を聞いていると、ヒラリーが勝利を収めるように聞こえますが、ベーカー氏の予測としては「NO」です。9月8日に更新された世論調査によると、ヒラリーが45.6%、トランプ氏が42.9%とヒラリーが少し上回っています。しかし、8月28日のピーク値48.4%から3%近く低下しているのに対し、トランプは8月9日の39.9%から3%上昇しているように、トランプが追い上げてきています。

さらに、先ほど紹介した5つの州を見てみると、8月はヒラリーが全勝であったのに対し、9月は以下の通りです。

フロリダ...ヒラリーが0.3%優位

オハイオ...ヒラリーが1.0%優位

アイオワ..トランプが0.8優位

ノースカロライナ...ヒラリーが0.8%優位

ペンシルバニア...ヒラリーが6.2%優位

ベーカー氏がトランプ勝利を予測した理由としては、やはり「変化を求める国民性」から説明していました。とはいえ、ベーカー氏は今回の選挙を「最も特別かつ特異な選挙」と位置付けています。トランプ勝利予測はあくまで予測に過ぎません。

今後の行方

2016アメリカ大統領選挙の立候補者と聞かれると、ほとんどの人が思い浮かべるのはヒラリー・クリントン氏とドナルド・トランプ氏ではないだろうか。

しかし実はもう二人、候補者がいます。ニュース番組で「アレッポってなに?」と驚くべき無知を露呈したリバタリアン党のゲーリー・ジョンソン氏とアメリカ緑の党のジル・スタイン氏である。WSJが行った世論調査によると、ゲーリー・ジョンソン氏とジル・スタイン氏の支持率の合計は15%で、過去の選挙における民主・共和党以外の政党支持率と比べると高いという。その15%が本選挙で民主党・共和党どちらに動くのかが鍵を握ります。

さらに9月26日(ニューヨーク州)、10月9日(ミズーリ州)、10月19日(ネバダ州)に行われるテレビ討論会は選挙戦の流れを大きく変えます。発言一つ、行動一つで大きく流れが変化するアメリカ大統領選挙。今後の展開も見逃せません。

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