DMM.comラボのUXデザイナー 富井満雄氏。彼が語ったガチのしくじりは、空気にのまれ、曖昧なコンセンサスしかとらず、期待された成果物がつくれなかったという経験。そんなゾッとする失敗をしないために大切なのは、勇気をもって意思表示すること。シンプルながら奥の深い教訓がそこにはあった。
現場の空気にのまれた2年目UXデザイナー|DMM.comラボ
※2017年6月に開催された「UX Failcon 〜先人たちの偉大な失敗と成功〜」よりレポート記事をお届けします。
2006年にアルバイトとして、DMM.comラボに入社。2015年からUXデザイナーとして働き始めた、富井満雄氏。彼の口から語られたのは、心境の変化による失敗談だった。
UXデザイナー1年目の頃、富井氏の頭の中にあったのは、「経験不足による不安」「早く仕事を覚えなければ、という焦り」だった。そのため、慎重に仕事を進めていきながら、着実にスキルを身につけていったという。
そんな初々しさが残るUXデザイナーだった富井氏だが、翌年、心境に変化が起きた。HCD‒Net(人間中心設計推進機構)が認定する「⼈間中⼼設計 スペシャリスト」の資格を取得したことで、昨年とは打って変わって、「早く自分で結果を出したい」「もっといろんなことがしたい」という気持ちになってしまったのだ。
「1年目は慎重に仕事を行っていたんですけど、2年目でそれができなくなってしまったんです。頭の中にあったのは、『ユーザービリティテストがしたい』『インタビューがしたい』というテクニックをいかにレベルアップさせるかが先行していました。はっきり言って、天狗になってたんですよね......」
そんな折、富井氏のもとにデザイナーから「すでに動いているプロジェクトなんだけど、登録ページの改善に協力してくれないか?」という相談が舞い込んできた。
「とにかくやる気に満ち溢れていたので、相談されるや否や、『よしきた!』と思い、すぐにデザイナーと一緒に調整に入りました。」
「ただ、蓋を開けたら、石川で働く自分を除いて他のメンバー全員が東京だったんです。遠隔での仕事はテレビ会議やチャットツールを駆使しつつ、必要なときに出張すればいいだろう、という甘い見積もりで引き受けました。結果的に毎週木・金に出張するという、ものすごい過酷なスケジュールになりました(笑)。かなりしんどかったです」
こうして、登録ページの改善プロジェクトに加わった富井氏。まず行ったのは、進捗状況の確認だった。チームメンバーに確認をとったところ、プロジェクトの要件はFIXしており、ほぼ完成に近いペーパープロトタイプも作ってある状態だったという。
「個人的には『すぐにユーザビリティテストを始める感じかな」と考えていました。ただ、プロジェクトに加わったばかりの自分がいきなり『UXを仕切ります』と言ってもおかしいと思ったので、一旦、「メンバー全員の顔合わせとプロジェクトの最終確認を行いましょう」と言い、東京に出張することにしました」
しかし、ミーティングに参加したのはディレクターとデザイナーのみ、ステークホルダーとシステムは不参加だった。
「あれ、全員参加と言ったのにおかしいなと思って確認したら、要件自体はチーム内でFIXしているからデザイナーとディレクターだけで進めても問題ないと言われたんです。そのときの自分は『なるほど、今回はこういう流れなんだな』とすぐに頭を切り替えちゃったんですね。経験則で勝手に判断し、そのまま進めていくことにしました」
そして、次に確認したのがプロジェクトの目的。簡単にまとめると、下記の4点に集約されたという。
1. 新規登録者数の増加、離脱率の軽減
2. 今あるページを改善
3. 開発工数をなるべく少なく
4. リリース前に使い勝手を確認したい
「ディレクターとデザイナーの2人に目的を確認していたのですが、2人の間に認識のズレが全然なかったので、自分は『チーム内で合意形成はできているんだな』と思いました。」
その後、富井氏はすでに出来上がっているモックを使い、ユーザーテスト・インタビューを実施。そして、そこで吸い上げた意見をもとに改善・修正を図っていった。
「今回の仕事を依頼してくれたデザイナーは、すごく協力意識が高くて、『これやりましょう、あれやりましょう』と、どんどん提案をいただいていました。ユーザビリティテストも設計段階から協力いただいたり。結果とてもスムーズに動きました。石川と東京という遠隔ではあるんですけれども、デザイナーが中心となってモック化、被験者リクルートを滞りなく進めてくれたんです。」
このプロセスを繰り返していき、順調に成果物が完成。そしてステークホルダーに納品したところ、驚きの言葉が発せられた。
「『想定していた成果物はこれじゃない』と言われたんです。よく確認してみると、ステークホルダーの要望は現状のページを改善するのではなく、フローを一新したいというもの。合意形成が曖昧なまま進めてしまった結果、求めていたものと全く違うものを作り上げる、ということになってしまいました」
結果的に、この改善は問題点の洗い出しに使えるということで、再利用されることになったが、大失敗に終わってしまった。
「この失敗を振り返ってみて、プロジェクトメンバーが全員集まった状態での合意形成が不足していたことに尽きるのかな、と思います。UXという言葉を聞くと、調査、分析、作成、評価というものが目立ってしまいます。しかし、目的の確認、設定が何よりも重要です。プロジェクトを進めていく前に、目的をしっかり定めておくことができれば、私のような失敗は起きないと思います」
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