藤戸孝俊先生は、医師を目指していた時から地域づくりに興味を持っていました。そして大学6年生の時から参加しているミュージカルを通して、石巻に新たなコミュニティをつくり、それを地域づくりに発展させていこうとしています。ミュージカルがどのように地域づくりに活かされているのでしょうか?
-地域づくりの一環として、藤戸先生はNPO法人のミュージカルに参加されていると伺いました。
「コモンビート」というNPO法人が主催する、ミュージカルプロジェクトに参加しています。このミュージカルの目標は、ミュージカルをただつくり上げることではなくて、100人の大人が100日間でミュージカルをつくることを通して、多様なものを認め合い、価値観を共有することで、多様な人が認め合うような社会をつくることです。現在の公演拠点は、大阪、名古屋、東京、福岡、宮城県石巻市です。
精神科医という切り口から「生きやすい社会」をつくりたかったので、学生時代から医療の世界に留まっていてはだめだと考え、外の世界の人たちと関わることをずっと意識してきました。そんな中、友人がコモンビートに出演しているのを観に行って、自分も大学6年生の時に参加しました。
大学、研修病院が関西だったので、大学6年生、研修医1,2年目は関西のコモンビートに参加していました。そして研修後の病院に石巻市立病院を選んだので、現在は石巻のコモンビートに参加しています。
-コモンビートがどのように地域づくりに活かされるのですか?
石巻の人々は、津波で住んでいた街を失ってしまいました。同時に、地縁、血縁というつながりも失った方がたくさんいます。そのため石巻には、新しい人と人とのつながりが必要です。
地縁、血縁ではないつながり、コミュニティは何かと考えると、学校のクラブや部活動のようなテーマ型のコミュニティが有効なのではないだろうかと思ったんです。マラソンなどの趣味でつながる。今僕が参加しているコモンビートというミュージカルも、まさに趣味でつながるコミュニティです。
石巻でのミュージカルは他の地域と違って震災支援の目的もあり地域のつながり作りをより意識しています。出演者のうち70人ほどは石巻の方です。ミュージカル出演者はこのミュージカルの練習を通してつながります。そして石巻の人口15万人のうち1200人が観に来てくれて、その中からまた新たにコモンビートに参加する人が出てきて、新しいつながりができます。
さらに、ここには若い人だけでなく50代の方など幅広い世代の方々が参加しています。上の世代と若い世代のつながりは、上の世代が高齢者となった時に「若い世代が高齢者を見守る」ことにシフトしていくので、10年後20年後に大きな効果を発揮します。
このように石巻の方たちが、小さくも新しい趣味でつながるコミュニティをつくっていくことが、地域を形づくることに活かされているのです。そして僕は、石巻のコモンビートに参加しミュージカルを盛り上げていくことで、石巻の地域づくりに関わっていこうと思っています。
(聞き手 / 北森 悦)
◆◆◆おすすめ記事◆◆◆
【プロフィール】 藤戸 孝俊 家庭医
2012年、京都府立医科大学卒業。済生会吹田病院で初期研修終了後、2014年から宮城石巻市開成仮設診療所にて後期研修中。日々研鑽の傍ら、NPO法人コモンビートのミュージカルプロジェクトに積極的に参加することで石巻市民との親交を深め、「こんなに地域の人と交流している医師はいない」と地域住民から慕われている。