便秘の研究が進むにつれ、直腸の角度が排便に重要であることがわかってきました。歴史を遡ると、和式トイレのように、かがむタイプのトイレの地域は便秘が少なかったそうです。和式、洋式どちらを選ぶと良いのでしょうか。
世界に引けをとらない「トイレ文化」を持つ日本。ウォシュレットだけでなく、実は和式トイレの良さも再注目されています。
慢性的な便秘の定義は多々ありますが、特に他の病気や手術歴がない特発性の場合、「便排出困難型」と「結腸通過時間延長型」の2つに大別されます。 特に前者は、直腸から肛門にかけての筋肉の協調運動や、排便時の腸の角度が問題でスムーズな排便につながらないことが原因といわれ、該当する患者はそれなりにいると考えられています。
そこで注目されてきているのが、トイレ時の姿勢。理想は前かがみ35度と言われています。しかし洋式トイレでは便器の高さの関係などで、その角度が 保ちにくいことがあります。ところが、和式トイレのような「かがみ姿勢」の方がよりそのような理想姿勢を取りやすいことがわかってきました。
元々「トイレは座るもの」という文化がある欧米人が、和式トイレと洋式トイレを比較した研究をご紹介しましょう。
排便時の力み具合を3つのポジションで比較
Comparison of straining during defecation in three positions: results and implications for human health.
Dig Dis Sci. 2003;48:1201-1205.
<方法>
対象:28名腹部症状がない健常者(男性14名、17歳-66歳)
トイレポジション:1)通常通り 2)10cm高の足台 3)スクワット(和式に近い状態)
記録:トイレで腹圧をかけたところから、排便終了までの時間を計測
<結果>
排便時間、便排出のいきみ具合について、ともにスクワット姿勢が他の2姿勢よりも有意に軽減されていた。
◆欧米のトイレ文化が広まり、日本人に便秘が増えた?
アフリカの田舎で働いた欧州の医師たちが、その地域での便秘の少なさに驚いたとの論文があります。(JAMA 1974;229:1068-1074) その後、アフリカやアジアなど、かがむ姿勢のトイレ文化がある地域は便秘が少ないとも言われてきています。
日本でも便秘が増加してきた原因として、欧米の食生活が取り込まれてきたとありますが、同時に「洋式トイレ」の普及も関連していると考えられます。
◆アメリカでは、既にトイレでの足台が販売されている
薬も大した努力も必要とせず、日々のトイレ環境を変えるだけで便秘が改善するかもしれない。そのような期待を抱かせてくれるこの研究。その後、BMJという有名雑誌にも掲載され有名になりました。(BMJ 2009;338:b831)
現在アメリカのショッピングサイトでは、"Squatty Potty"という名前で足台が販売されており、なんと1200以上のレビューが付き、評価も余裕で4を超えています。研究の結果を反映しているのかもしれません。
もし御興味がある方は、家のトイレに台でもおいて試してみると良いかもしれませんね。
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【プロフィール】 田中 由佳里 消化器内科
2006年新潟大学卒業、新潟大学消化器内科入局。機能性消化管疾患の研究のため、東北大学大学院に進学。世界基準作成委員会(ROME委員会)メンバーである福土審教授に師事。2013年大学院卒業・医学博士取得。現在は東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門助教。被災地で地域医療支援を行うと同時に、ストレスと過敏性腸症候群の関連をテーマに研究に従事。この研究を通じて、お腹と上手く付き合えるヒントを紹介する「おなかハッカー」というサイトを運営。また患者の日常生活課題について多職種連携による解決を目指している。
おなかハッカー:http://abdominalhacker.jp/