胃瘻やポートをめぐる問題をどう考えるか?

おなかに穴を開け、チューブを通して直接胃に栄養を送り込むための胃瘻(いろう)や高カロリー輸液を入れるために皮下に埋め込むポート。口から食事を取ることが困難になった場合に行われているこれらの処置の是非について、どう考えるか。

おなかに穴を開け、チューブを通して直接胃に栄養を送り込むための胃瘻(いろう)や高カロリー輸液を入れるために皮下に埋め込むポート。口から食事を取ることが困難になった場合に行われているこれらの処置の是非について、どう考えるか。

・口や喉の障害(神経疾患や腫瘍など)で物理的に食事が取れない方

・嚥下機能が低下し、食事摂取の意志はあるものの食べると誤嚥し、肺炎となる方

・認知症や全身衰弱が進む中で食事摂取が十分にできなくなる方

このような方は全て胃瘻もしくはポートの対象になる。

胃瘻やポートのような処置はひと昔前なら、延命こそが至上と考えられ、医師からの「やらないと死にます」の説明で有無を言わさず造設されていた。しかし、今になっていろいろと問題になっている。医療と人権に関する考え方が多様化し、人間の尊厳の問題や「人としての生き方」に対する価値観の違い、社会制度などが複雑にからんできており、さらに、スウェーデンやアメリカなどに比べ、日本での胃瘻造設数が異常に高いことが判明し「日本では高齢者に対して何をしているのか!」という声が上がっているからだ。

その適応について、高齢者を中心に考えてみよう。比較的若い方や自分の意志をはっきり告げられる方を対象に含めると話がややこしくなるので、ここでいう「高齢者」は、80~90歳前後、介護度5(寝たきり)、重度認知症、その他疾患などで予後も比較的短い、という方を想定する。

まず、家族が胃瘻またはポート造設を強く希望するという場合は、あまり問題にならないことも多いので割愛。

問題は、家族、親戚も絶対に胃瘻を造ってほしくない、本人の以前の生き方を考えてもそのような処置は希望しない、主治医も別に造りたいとは思っていない、というような方でも胃瘻またはポートを造らざるを得ない状況というのはある、ということである。

例えば、施設入所中で、経口で食事を取らせようとすると必ず誤嚥し、退院しても数日で熱が出て戻ってきてしまう患者さん。「胃瘻は嫌、もう年なんだし、なるべく自然な形で診てもらいたい」と家族(ただし末梢点滴くらいはしてほしい)。

病院側としては、長期の入院となれば診療報酬が取れなくなるため、誤嚥を繰り返す患者さんには、二度と誤嚥をしない方法を講じて、早く退院してほしい。末梢点滴だけで数カ月とか入院されても困る、と主治医へプレッシャーがかかる。

介護施設は基本的に経口摂取が十分できない患者さんは診ないことが多い。胃瘻の患者さんは条件付きで可、末梢での点滴やポート造設で高カロリー輸液の患者さんは不可というところが多いので、「胃瘻造設なら受け入れます、それ以外は退所」と言われたりする。

療養型病院はポート造設で高カロリー輸液の患者さんもOKだが、ベッドは長く待たないと空かないことも多く、また入院の費用が高い......。

つまり、胃瘻を造ることを誰も望んでないにもかかわらず、現在のシステムの中では「自然な形で」と望んでも、「自然な形で」診ることのできる場は在宅以外にないという場面も多い。

ただ、もちろん全ての家族が在宅で診られるわけではない。結果、医師からの勧めで胃瘻造設し施設に帰る、という選択肢を選ばざるを得ないという状況である。

これを読み、何を一番問題に感じるだろうか。そして、どう解決するのが適当だろうか。

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【医師プロフィール】

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西 智弘(にし ともひろ) 腫瘍内科

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科

2005年北海道大学卒業。室蘭日鋼記念病院での家庭医療を中心とした初期研修、川崎市立井田病院での総合内科/緩和ケアの研修を経て、2009年より栃木県立がんセンターにて腫瘍内科の研修を受ける。2012年より現職。緩和ケアチームの業務を中心に腫瘍内科・在宅医療に関わる一方、地域において「健康×まちづくり」をコンセプトとした「+Care Project」のチーフマネージャーを務める。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医

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