左からサイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久、千葉市長 熊谷俊人氏。
「チバラボ」(千葉市ビジネス支援センター)で開催された「第3回地域クラウド交流会」より、電気通信会社社員、市議会議員を経て31歳のとき当時全国史上最年少で市長となり現在2期目を務める熊谷俊人氏と、18年前26歳で起業しイクメン社長を自称するサイボウズ 代表取締役社長の青野慶久との「地方創生と働き方」をテーマにした対談を届けます。前編は「男の育児」と「地方創生」についてです。
時間単位の有給休暇で働き方を柔軟に
熊谷:青野さんは、お子さんが生まれたばかりだそうですね。
青野:いま5歳、3歳、0歳の子がいます。0歳は、今年の1月末に生まれました。昨日も夜の3時にミルクをあげていました。
3人子どもがいると上の子を送り迎えしないといけないので、16時で切り上げて迎えにいくというスタイルの育児休暇をとっています。
熊谷:私も毎朝子どもを保育所に送っていきます。私の場合は、月に3日か4日ぐらいですが、早めに上がって迎えにもいきます。
青野:すごいですね。
熊谷:よく首長の育児休暇がニュースになりますが、とっているのは3日ぐらいですから。 もっと長い期間とらないと。
青野:子育てをやっていて思うのは、本当に大事なのは継続するということです。
熊谷:青野さんが16時に上がるというのは、普通の企業でいえば2時間休。部分休業かもしれないですね。サイボウズは、有給休暇を1時間、2時間単位でとれますか?
青野:1時間、2時間? うちは適当ですよね。
熊谷:実は、この時間休というのが男性の子育てを支援すると思うんです。
青野:なるほど。
熊谷:日本の企業の10%程度しか時間休がないんですよ。あっても半日休ですよね。
青野:あー、半日休まないといけないという。
熊谷:時間休が使えると仕事と両立が柔軟にできるんです。
千葉市は男性の育休取得が5割を超えるようにしたいので商工会議所などを通じてお願いしています。育児支援にも、グラデーションがあります。最初の入り口として、そういうところから男性がやってもいいじゃないかと力を入れています。
青野:いいですね! 確かに1、2時間あれば保育園に行き連れて帰ってくることができますからね。
戦果をあげるまでは帰れないマインド
青野:少子高齢化というと男性が家事・育児するところにシフトしてきましたね。女性管理職を増やしても男性が家事育児をしないと女性の仕事が増えているだけやんけと。何かいい手はないですかね? 価値観を変えないといけないですよね。
僕も育児休暇をとっていますが、頭の中は昭和なんです。『太陽にほえろ!』をみて育っていますから、男は職場で殉職するものだと。あれをどうしたらいいのかと。
熊谷:職住近接が大事です。通勤電車に乗っていると戦場に行くような気持ちになっちゃうんですよ。
家庭を離れて戦いにいくから戦果をあげるまでは帰れないみたいになっちゃう。 もし隣に会社があったら絶対にそんな意識にはならないと思うのです。
青野:確かに。
熊谷:我々日本は家庭と職場が諸外国に比べて大きく離れてしまっているがゆえにワークライフバランスという考え方に至りにくい。
青野:職場から早く帰るのも「おまえ戦場から早く帰るのか」という空気になりますよね。 行ったり来たり戻って来られるなら「また来てね」ぐらいにもなるのでしょうけれど。
熊谷:大企業のほうが福利厚生がしっかりしているから女性が戻りやすいとか管理職になりやすいとかいわれますが、実は1人から10人までの小さい企業の方が、大企業並かそれ以上に女性が長く働けるんです。
なぜかというと職場が近いからです。職住が近接していると女性も仕事を続けられるし男性も家庭を意識します。
職住近接でワークライフバランスを
青野:なるほど。それはわかります。先日、『日経ビジネス』に子宝率(*)調査が載っていましたが都会のほうが悪いわけです。地方や小企業にいくほど子宝率は高かったんです。
熊谷:地方創生は確かに正しいんですよ。東京の山の手線の中に企業があると職住近接がなかなかできないので。男性の育児や女性の活躍推進などがしづらく少子化を防ぐことができないんですよね。職住が近接できる場所に移していくのが大事です。
我々が地方創生に異議があるのは、東北や四国、九州にもっていこうとすることです。いきなりそれは無理なんですよ。まず山の手線の外に本社を移すほうが現実的ではないかということです。
千葉市にはイオンさんの本社があります。東京と比べると同じ給料で広い家に住めますし通勤時間は少ないから社員の満足度や健康度が違うんですよ。
青野:なるほど。そういう意味では千葉は立地的には最高ですね。
熊谷:ワークライフバランスがまさに実現できる場所です。畑もあります。
青野:土に触るだけでも相当ストレスが下がるらしいですね。東京に集中するのは悪循環ですね。サイボウズも移転しないといけない。
地域クラウド交流会には5歳児も名刺を持って参加。
熊谷:お待ちしていますよ。
青野:サイボウズは各地に拠点を増やしています。適当な会社なので、社員がつくりたいといったら拠点ができるんですよ。
以前、福岡出身の人が、「お父さんの具合が悪くなったから福岡に戻ります」といったときに「福岡拠点つくる?」といったら、つくりましたし、今度、仙台にもつくります。みんな住みたいところにできたら一番ですよね。
熊谷:いいですね。通勤時間を短くするのは、あらゆる分野にいい影響を与えます。
温暖で広々、待機児童ゼロの千葉市
青野:千葉市は待機児童数が減ってきたらしいですね。
熊谷:ゼロを達成しました。2年連続(*)に向けて頑張っています。
青野:ゼロになったら引っ越してくるんじゃないですか?
熊谷:来るんですよ。
我々は、東京や横浜と違って保育所の質は落としていないんですよ。東京や横浜は児童一人あたりの面積を緩和せざるをえないんです。千葉は広い空間の中で受け止めているので子どものことを考えたら千葉市のほうがいいですよね。
青野:素晴らしい。けっこう保育所の差がありますよね。私も10箇所ぐらい回りましたが、半分ぐらいは子どもを入れたくないなというところでした。
本当に窮屈で日も当たらないし、無理やり押し込んでいる人もいるとは思いますが、幸福な感じはしなかったですね。
熊谷:我々はそういうところも含めて数値化をしないといけないと思っています。
千葉市の校庭の面積は、横浜、川崎と比べ何平米広いかデータで出しています。その結果、体育の50メートル走の数値は千葉市のほうが速いと出ているんです。そういう相関関係はあります。
地域クラウド交流会のスタートはラジオ体操から。プロレスラー 大和ヒロシさんと一緒に参加者全員でラジオ体操。
青野:ブランドが上がっていますね。
熊谷:数値化してPRしないといけない。例えば、千葉市は温暖で住みやすいというだけではだめで、冬の平均気温が埼玉と比べてだいたい3度違いますというデータを示さないと。
青野:ブランドについての数値化は、わたくしの耳にも入ってくるようになりました。正直、これまで千葉市の印象は薄かったんです。
熊谷:千葉市に来る人がどこから来ているかというと、ほとんど千葉県内からなんですよ。江戸川を渡ってはなかなか来ない。青野さんも千葉に会社を構えると思い浮かばなかったでしょ?
青野:横浜は思い浮かぶんですけれど千葉は思い浮かばない。なんなのでしょうね?
熊谷:最初に選択肢から落ちるんです。東京と同じ通勤距離でも千葉は安くて穴場です。ただいつまでも穴場とはいってられない。本社を呼ばないと。
青野:あとは起業ですよね。
文:渡辺清美 撮影:野水克也
(サイボウズ式2015年5月25日の掲載記事「男性の育休取得、5割を超えたい──千葉市長×サイボウズ社長、本気のイクボスが語る育児と地方創生」より転載しました)