写真上段左から、ベトナムの現地法人とのジョイント・ベンチャー(JV)で運営している旅行予約サイト「Mytour.vn」のCOO 青木さん。アジアの各拠点と日本をつなぐ役割の深山さん。全社を統括する伊達さん。インドネシアでJV運営している旅行予約サイト「Pegipegi」の小嶋さん。フィリピンでJVで運営している旅行予約サイト「Travel Book」のCEO 村井さん。写真下段左からPegipegiのCOO 中嶋さん、Mytour.vnの日本語も話せるベトナム人のランさん、Travel Bookの飯田さん。Pegipegiの中澤さん
海外に進出する起業が増えるにつれ、外国人を受け入れ、多国籍のメンバーでチームを作ることが必須になってきます。そのとき、組織ではどのような課題が生じ、外国人とチームワークを築くにはどうすればよいのか?
2015年1月、リクルートがアジア各国で展開するジョイントベンチャーの経営幹部を中心に、シンガポールで戦略会議を開きました。そこで議題になったのは「グローバル組織論」。日本企業の海外進出の先駆者の経験とノウハウから、外国人とワンチームになるにはどうすればいいかを考えます。
上司は「絶対的な存在」じゃない
岡:今日は「外国人とワンチームになるには」というテーマでお話を聞きます。日本人の上司(?)のみなさんに遠慮せず、思う存分ご意見を語ってください。と言っても、これだけ囲まれていますし、難しいですかね......。
伊達:おれ、席外したほうがいいかな(笑)
ラン:分かりました。ベトナム人はマネジャーレベルの上司からなにか言われても、それを無視することもありますので(にっこり)
伊達:「外国人とのチームワーク作り」というお題です。まず、各国で働いて体験した、ビジネスの場でのカルチャーショックについて。外国人と働くことになりどんなことが起こったかな?
青木:フィリピンはクリスチャンのひとが多く、クリスマスで盛大に祝うんです。そのことは知っていたのですが、いざクリスマスが近づいてくると、仕事もそこそこに家に帰ってしまいます。
2014年末はまだ「Travel Book」の立ち上げ期で、提携させて頂くホテルの方への営業もままならなかったのですが、「郷に入っては郷に従うしかない」ということで、仕方なくあきらめました。
中澤:インドネシアはムスリムのひとが多いのですが、それでもクリスマスの時期には同じようなことがありました。私にできることといえば、クリスマスイベントで披露するダンスを一緒に練習するぐらいのことでした(笑)
インドネシアと日本ではまったく違いますね。上司がまだ職場で仕事をしているからといって残ったりはしません。「家族」の優先順位が、仕事を圧倒的に上回るんです。頭を悩ませているところでもあります。
青木:フィリピンに来る前は、ベトナムで「Mytour.vn」の立ち上げをやっていたんです。ベトナムのひとたちは、仕事を家に持ち帰ってでもしてくれたこともありました。マネジメントする立場としては、その方が助かるかもしれませんね。
飯田:日本人とフィリピン人で明確に違いが出るのが「体調不良」のとき。風邪で体調をくずしたときに、日本人だったら出社するけれど、フィリピンのひとは風邪ぎみでもすぐにおやすみするという印象があります。本人は、"Feeling bad.(気分がよくない)" と言うんだけど、日本人の基準からすると、本当に体調が悪いのか分からないときがあります。
深山:日本人だったら、会社を休むことに罪悪感がありますよね......。
岡:ランさんはいかがですか。一般的な日本人の感覚から出る本音だと思います。
ラン:ベトナム人は、会社から有給休暇や病欠のためのメディカルリーブ(医療休暇)が与えられているのであれば、かならずそれを使います。
日本ではマネジャーなど上司の立場やそのひとが言うことが絶対だったりしますよね。ベトナムは、そうではありません。たとえ入社して1ヶ月で仕事をやめたとしても、すぐに次の仕事が見つかるからです。
ベトナムの旅行予約サイト「Mytour.vn」のマーケティングマネージャー ランさん
岡:まさに「郷に入っては郷に従え」。アジアの方々と仕事をするときは、ここは受け入れなければいけないのかもしれませんね。
「家族主義」を刺激しないと、チームワークは創り出せない
中嶋:これはインドネシア人の国民性もあると思いますし、自分が会社をうまく運営しきれていないから起こっているのだと思いますが、「報・連・相」をしてくれないことがあります。現場で困ったことが起きたときに、それを解決するための相談をしてくれない。ごまかしたりしてあいまいにするから、のちのち大きな問題に発展することも。
もうひとつ。自分の非を認めたがらない。「他責志向」を感じます。なにか問題が起こったときに、そのボールをできるだけ自分の手から離そうとする。自分の仕事の範囲だけに閉じてしまって、ほかの人と協力して助け合ったり、解決しようとしません
岡:いわゆる「ジョブディスクリプション」ですね。部署を横断して解決しないと行けない問題が発生したときには、特に苦労しそうです。
中嶋:協力しあってもらうためには、自分が背中で見せるしかないのかなと思っています。自分の仕事の範囲外にあるボールを率先して拾いにいく。
もし起こった問題を議論しているときに、「これはだれの責任なのか」といった他責思考的なコミュニケーションが始まったときには、「ここは問題を解決するための話し合いの場であって、責任追及をする場ではない」ということを伝えるようにしています。
インドネシアの旅行予約サイト『Pegipegi』のオンラインマーケティングマネジャーの小嶋さん(左)とCOOの中嶋さん
岡:彼らはどうして自分の持ち場にこだわるのでしょうか。
中嶋:就労観が違うのだと思います。彼らは「就社」ではなく「就職」していると思っている。今の会社でスキルを身につけ、成果を出して、早く次の会社に転職して給料を上げたいと思っているんですね。
岡:助け合うことで培われるチームワークは、給料を上げるためのスキルには見なされにくいのですね。
村井:フィリピンでも、最初はなかなか「三遊間」のボールを拾いにいこうとしてくれないですね。ジョブディスクリプションを大切にするのは、国全体のカルチャーだと思います。ただ、スタートアップのような、日々刻々と状況が変わり、一人が何役も担わざるを得なくなりやすい中においては、その文化の面で特に苦労します。
日本人は、自分の仕事の範囲外のことをやる。それは、その会社にこれからもいることを前提として「将来なにかいいことがあるんじゃないか」という漠然とした期待価値のもと、ボールを拾いにいこうとしますよね。だけど、いまアジアは人材の引き抜き合戦で、転職すれば給料が上がりやすい。その環境ではその姿勢を貫くことが難しい。
岡:すると、チームワークはあきらめるしかないですかね......。
村井:いや、でも最近は、自ら三遊間のボールを拾いにいこうとするひとがあらわれ始めていますよ。
岡:おお、どうされたのですか。
村井:秘訣はチームのメンバーを家族的にあつかうことだと思います。冒頭でも、家族を大切にするというお話がありましたよね。たとえ、営業とオペレ―ションとマーケティングとで部署が分かれていても、飲み会やパーティーをうまく活用して、部署間でのアットホームなつながりを作ってあげることが大切です。
小嶋:そうやって、仕事で成果を出して、自信をつけてもらって、いい連鎖を起こしていくのはいいでしょうね。彼らのほとんどにとって、チームワークは初めての体験だと思うので。
外国人から「本音」を引き出すマネジメント術
村井:「同調圧力」がすごいことにも苦労しました。
中嶋:なかなか自分が思っている本音を語ってくれませんよね。会議の場ではこちらから提案した方針に賛成してくれていたはずなのに、裏では反対意見を言って実行してくれなかったりします。日本人と同じく、和を重んじるところがあるので、対立意見を口にするのを避ける傾向にあると思います。
ラン:それは賛成です。特に頭では考えていることでも、それを口にすることによって自分が不利になる、大変になるときは言わないとか。
中澤:でも、彼らからすると日本人も本音を語ってくれないと思われているかもしれません。以前、中途採用で応募してくれたひとに会社のビジョンなどを話すと、「前の会社では、そういうことをまったく開示してくれなかった」と言っていました。経営陣や上司がどういうことを考えているのか知りたいと強く思っているようです。
青木:ベトナムは言葉の問題もありますから、英語を話せないことが多い現場のひとの本音を知るのはより難しい。そんなときに、私と現場をブリッジしてくれる中間管理職のひとの存在はありがたいです。
ほかにやってよかったのは、これはリクルートが日本でやっている施策でもあるのですが、「WCMシート」と言って、ミッション設定の際に本人の「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やらないといけないこと)」と上長が要望する「Will(やりたいこと)」「Can(できること)」「Must(やらないといけないこと)」の擦り合わせを行います。
それで3ヶ月に一度、自分の振り返りをさせていくと、だんだんとおたがいの考えが合致するようになっていきました。
フィリピンのPegipegi 事業企画マネージャー中澤さん(左)とベトナムの旅行予約サイト『Mytour.vn』のCOO 青木さん(右)
村井:私がやってよかったと思うのは、これもリクルートが日本で行っていることですが「よもやま」という自分が考えていることを共有する場をもうける施策です、最初はなにげない雑談から始めるのですが、徐々に営業やオペレーション、コールセンターでのカスタマサポート、組織全体にいたるまで、話題が多岐に渡っていきます。これで、だいぶ隠れている問題を拾えるようになってきました。いまは週に一度、1時間行っています。
外国人と働いたからこそできた「成長」とは
岡:アジアで外国人と働いてみて、ご自身の中でなにか変化は起こりましたか?
中澤:家族の優先順位がより高まりました。リクルートは仕事に没頭するタイプの人が多い傾向があり、最近では少し変わってきたようですが、昔はプライベートよりも仕事を優先させて働きたがるひとが少なからずいました。だけど、こちらで働くと、まず家族やプライベートを大切にして、そこを守ろうとするようになる。
いまでは、だれでも一度は、自分が勤めている会社ではない社外に出向したほうがいいとさえ思うようになりました。人生に対する価値観がきっと広がるはずです。
中嶋:私は、その国の歴史や文化を学ぶことの重要性を認識するようになりました。彼らがどんなふうにして育ってきて、なぜ職場でこのような言動をするのかを理解できるようになるからです
青木:逆に、あまり変わらないこともあるなと思います。彼らをマネジメントしてゴールに向かって行くときに、やり方や力の加減は工夫するけれど、自分のポリシーや大切にしていることは基本的には変えない。自分の考えをきちんと伝えて、それをみんなで完遂していくことがチームの信頼関係を築いていくことになるからです。ここは外国だから、相手が外国人だからといって、自分の価値観を変える必要はありません。
村井:自分の想定と異なることが起こることに対して、耐性が高まりました。外国人の方と仕事をするならば、そういう状況の中で事業を進めていかなければなりません。他責志向があるひとにとって、きっとそういう自分のコントロールがかならずしも効かない状況はしんどいと思います。正念場でも自分のスタンスを持ち続けられることが大切だと思います。
小嶋:日本では大きな組織の中で、一機能的な役割を果たしていました。しかし、アジアのベンチャーはまだ小さな組織ですから、会社やサービスにかかわることをすべて自分でやらなくてはいけません。より本質的な仕事をやる機会が増えたように感じます。
アジアの支社は日本に比べると売上規模が小さいから行きたがらないひともいますが、私は海外でいろんな価値観を知ることができたのはよかったと思っています。
飯田:私は正直、アジアのベンチャーで働くのと引き換えに、日本で専門的な知識を学べる機会をなくしたことに焦りを感じることもありました。しかしいまは、それ自体が問題なのではなく、どこに自分のモチベーションの重きを置くかが大切ということを知ることができたので、セルフコントロールを学べていると思います。
フィリピンの旅行予約サイト『Travel Book』のITマネージャー飯田ナナさん
深山:私は、海外に進出する日系企業によくある、日本と海外拠点との対立が起こらないようにと考えながら、仕事をしてきました。海外駐在員の口癖と言われる言葉で「OKY=おまえが、きて、やってみろ」というのがあるのですが、そうならないように。これからも、自分が日本と各拠点の間に入ることで、円滑なコミュニケーションがはかれるようにしていきたいです。
伊達:われわれはサービス事業者。現地のひとたちに貢献するサービスを提供することで生活の質を豊かにしていくことが使命、彼らの価値観を理解しようとし続けることが大切だよね。
(2015年2月24日のサイボウズ式「 仕事よりも圧倒的に家族主義──リクルートは東南アジアチームとの価値観の違いをどう乗り越えたか」 より転載)