左より次世代社会研究機構代表理事 西田陽光さん、テックファーム株式会社 人事部部長 金丸美紀子さん、サイボウズ株式会社 人事部 松川隆さん、ママプロぐんま事務局長 都丸一明さん、慶応義塾大学特任助教 若新雄純さん
2020年、働き方はどう変わっているのか? そんな問いをテーマにしたTWDW2014「2020組織の未来」より、慶応義塾大学特任助教 若新雄純さん、ママプロぐんま事務局長 都丸一明さん、サイボウズ株式会社 人事部 松川隆さんら新しい働き方に挑戦している男性たちと次世代社会研究機構代表理事の西田陽光さん、テックファーム株式会社 人事部部長 金丸美紀子さんら男社会の中でキャリアを築いてきた女性リーダーたちとのトークセッションをお届けします。
起業、離婚、実験、それぞれの学び
西田:西田陽光と申します。17年前に「構想日本」という政策シンクタンクを立ち上げ、社会的テーマの世論形成を仕事としてきました。よろしくお願いいたします。
金丸:テックファーム株式会社で人事部長をしております金丸と申します。平成元年に社会に出ましたので、もう4半世紀、組織の中で仕事をしています。4社ほど会社を変わり、その中で働く価値観は大きく変わってきました。
プライベートでは、一回結婚しているのですが、失敗しています。昭和的働き方で、家庭と仕事の両立ができなかった世代です。自分の失敗から学んだ大切にしていることをお話できるかなと思っています。どうぞよろしくお願いします。
松川:サイボウズ株式会社の松川と申します。大学を卒業して銀行に入りました。ドラマ『半沢直樹』のような世界がちゃんと繰り広げられてきました。
約9年間務めましたが、独立して何かしたいと考え、小さい広告代理店を経て40手前でテニススクールを立ち上げました。
無計画なもんですからうまくいくわけでもありません。世の中の荒波だけを理解して、サラリーマンに戻ることにし、縁あってサイボウズに入社しました。
都丸:都丸一明と申します。高卒で大手電力会社に入り、エンジニアをやっていました。その後、慶応のSFC(湘南藤沢キャンパス)に入って起業しました。
最初は株式会社を起業しましたが、今は個人事業主として、大きな組織における新規事業のプロモーションや、有期専門職をやりながらWebの仕事をやっています。こどもは6歳です。子育て支援を通じた地域づくりをやっています。
若新:若新雄純と申します。僕は、大学生のときに先輩と会社をつくりました。ユートピアをつくりたいと思っていたのですが、組織には適合できない人間だということで追い出されました。僕らは仕事を通じてもっと多様であってもいいのではないか と考えるようになって、大学院で組織心理学の研究をしました。
週4日休む「ゆるい就職」、全員がニートで取締役のNEET株式会社など、既存の枠組みからはみ出した人・はみ出したい人と、社会システムの外から新しいワークスタイルを模索できないかと実験的な取り組みをやっています。
当事者同士のコミュニケーションの開発を重視していて、外部から先生を呼ばない、正解を持ち込まずにルールやヒエラルキーをリセットしてからゼロから作り直すということを試行錯誤している段階でございます。
自殺者がでるストレス過多な職場
西田:都丸さんのいた会社は命を断たれる人もいるなどストレス過多の方が非常に多い組織といわれていますが、高校を卒業された若いときに何をご覧になりましたか?
都丸:僕が務めていたのは水力発電所でした。開発しきっていて、いろんなものがマニュアルで規定されていました。 自分自身がいかに代替可能な存在であるかすごく実感しました。あるとき、小学生のこどもをもつ直属の上司が、出勤しなくなってしまった。山の中で首を吊って死んでいました。うちの同期にも自殺する人は多かったですね。
組織として成熟していて機械が検出できないところだけをやる。システムの中にいないといけない。僕としては飛び出したくなり、そもそも自分は何がしたいのかと大学にいきました。
西田:大学では何をしたんですか?
都丸:大学ではコミュニティをテーマにいろんな活動をしました。システムをつくり、立ち上げる人たちにひたすら会い、どういう価値基準でやってきたのかとインタビューしてはイベントをやり、自分もそうなりたいと起業しました。
西田:松川さんは、エリートとして安泰のとき、日本の金融を支えてきた尊さと同時に少しクエスションも垣間見られたと思うのですが教えてもらえますか?
松川:合併する前の会社は長髪や金髪の人もいましたし、通信教育の期日が遅れても常務になった人もいました。
銀行が合併すると、ワイシャツは白、課長が昼休みに席を立つと全員が立つという文化が多数派になり、通信教育をださない自分は「君アウトだね」といわれてしまうんですよ。一生いるつもりだったのですが、いけてないほうにいる。「あの人は、ああだから」といわれていてはやめるしかないなと。
プライベートを忘れがむしゃらに働く
西田:四半世紀、第一線でポジションをとるのは、並大抵ではないでしょう。男社会の徹底した体育会系をやりきる方がほぼポジションをとっているんですが、金丸さんはいかがですか?
金丸:最初の会社は化粧品メーカーでした。バブル期まっただ中でしたが、女性総合職でマネージャーがいる会社は当時少なかったです。上昇志向がありましたので化粧品業界なら女性が活躍できるのではと入社しました。「24時間働けますか?」を地でいって土日も休まず仕事漬けの生活を送っていました。
全国転勤を前提にしていましたが、地元の福岡支店で6年間転勤がなく、最初の内示を受けたのが20代後半でした。30代を前に、このまま全国転勤をしながら働き続けるのは難しいと考え、転勤がない地元の会社でキャリアを積みたいと福岡の会社に転職しました。そこでは若気の至りですが、比較的大企業から中堅企業への転職だったので「なってない」と声をはりあげながら、男性社会の中でがむしゃらにプライペートを忘れて仕事をしました。
西田:プライベートの解散はそういう要素が多かったですか?
金丸:今は働くママを応援しようとかワークライフバランスとか、いい時代になったなとしみじみ思っています。当時は、働く気がないならとっとと辞めなさいという社会でした。
30代半ばぐらいで、家族がいないことで耐え切れない孤独感に襲われました。突如結婚したくなり、念願かなって結婚したのですけれど、仕事のスタイルを変えられなくて。当時は若かったので上手にバランスをとれませんでした。
僕らがコンビニのおにぎりだとしたら
西田:若新さんは、あり方、生き方というのはどうですか?
若新:都丸さんは代替可能な仕事だったと、松川さんは銀行が合併してスタイルが画一化されたということでした。
替えがきく、画一的というと嫌な印象をもつじゃないですか。それは僕らが幸せなあまり寝ぼけているからだと思うんです。実はそれを求めてきたのは僕ら自身のはず。僕らはどこでも通用する替えがきく存在になりたかったんですよ。男女でどうかははっきりは言えませんが、それはとくに男っぽいと思うんです。
若新:僕らがコンビニのおにぎりだとしたら、棚のグレードは気にすると思うんですよね。軍手とかビニール縄でなくレッドブルがおいてあるところがいい。レジ横のチロルチョコのところがいいと。棚が必要だったんですよ。
なぜかというとぼくらの弱さだと思うんです。男がつくってきた社会だとしたら弱虫の集まりだと思うんです。僕が女々しいせいかもしれないですが、精神的には、圧倒的に女性のほうが強かったですよ。周りをみても、男のほうが強いなんて千分の一ぐらいだった。
男社会は弱虫が弱虫であるのがばれないように必死でつくってきた社会なのではないか。 もちろん一概には言えませんが、女性のほうが本質的に考えることが多い気がします。どこに並ぶかより、どんなおにぎりになろうとするかを考える。僕らは敗北宣言をしたほうがいい。全部ポストを譲って、せめてお金くらいもらって慰めてもらうようにしたらいいんじゃないかと思いますね。
二拠点居住の幸せ
西田:都丸さんは、今、東京と沼田を行き来し曜日によって全然違うライフスタイルを送っています。そのへんを教えてもらえますか?
都丸:起業してから8年間二拠点居住しています。オフィスで寝泊まりし、新幹線で上毛高原に帰り、空気が違うなと感じながら子供と思いきり遊ぶという生活をしています。雇用は安定的ではないですがすごく幸せです。楽しいです。 稼ぐというところでは東京のおいしいところをもらっています。四季が感じられ人が面白く土地も食費も安い群馬県で暮らす。本当にいいなと思っています。次の世代の人にも自分がいいなということを一つ一つ積み重ねていって幸せをみつけてほしいです。
若新さんがいっていましたけど、僕も奥さんには全然かなわない。子供目線で暮らしを見直したときの幸せ感はほんとにすごくて、いろいろなことが発見できるんです。子どもから面白さ、楽しさ、豊かさとか、子を思う母親から何を大切にしているか、何を捨てるのかというところを学ばせてもらっています。
西田: 自然と広さといい空気とじじばばつきですよね? じじばばがついているのは非常にメリットですね。
都丸:親は暮らしを楽しんでいます。核家族でふるさとがない人もいるかもしれないけれど、じじばばが健在で孫が生まれたのなら、子供との暮らしの中にじじばばを巻き込んだほうがいい。じじばばのDIYや野人スキルを、子供をだしに学んでいます。
西田:人類が進化したのは、人生におけるリスク管理を世代を超え学んできたから。生きる知恵を小さいときから聞いていくのはすごく大事です。
浮世離れしていた銀行員時代
西田:松川さん、大企業のすごさはどういうのがありました?
松川:率直にいうと、すごい給料をもらいますよね。30歳ぐらいのときに1000万円ちょい。当時独身でしたが都心の一等地の社宅が月2000円。目にみえないものをいれるとけっこうあります。
なんでこんな金額をもらうのか麻痺していました。公的資金が入っている。メディアに毎日叩かれても、「なにがいけないんだ」と不愉快にみていた。すごく浮世離れしていたなと思います。
西田:大企業の経験は独立した後にどのように役立ちましたか? あだとなったのでしょうか?
松川:自分を出して注意されたことが数知れずあり、30歳を過ぎてなんとなく染まり、おとなしくなっていました。 自分がもっている能力が100あるとならば60か70でもいい給料やいい待遇をもらえるし、危険を冒さなくてもよい。仲間をみても、余力を残したまま生きているなと感じます。
今の会社は個性を重要視しているので、画一的に人材をみていないところがあります。自分のもつ能力を100出していると感じられます。
西田:今の会社は面白い制度があるときいたのですが?
松川:サイボウズでは、働く時間や場所も選べます。若い人がやめても戻ってこられる制度もあります。大阪出身なので大阪に帰りたいというならば部署をつくっちゃう会社です。モチベーション高く働いてもらうために、やりたいこと、できること、会社がやってほしいことが合わさったところをとことん追求しています。
西田:社長さん子育てで大変有名ですね。ちゃらっとしたイメージでしたが素晴らしい会社なのですね。
性差は意識したほうがうまくいく
西田:男社会では男性は徒党組むのが得意ですよね。ポジションとりのときは連携する力がある。金丸さんは、男社会の嫌な経験や学んだことはありましたか?
金丸:私は、本当の意味の派閥がある大企業で働いたことはありません。そこまでの日本型の男社会というのはないんですね。
男性はネゴシエーションでやるけど、女性のほうが正論をいえるからいいとか立派とか思ってバチバチやっていたんですね。
ただ、それだけだと組織の中ではうまくいかないなと経験しました。組織の中では、個人で正論を述べるだけでは人はついてこない。柔らかさ、協調性を出しながらやったほうがうまくいく なと経験値で身につけました。男性にはなれない。いい意味で女性らしさが武器となり、男性とは違う社内調整や、ネゴシエーションをしたほうが結果的には上手くいくと。
男性と女性の性差はあるとは思うんですよね。女性はプロセス重視ですし、女性部下には、コミュニケーションコストはかかります。性差があるなと意識したほうがうまくいくのではないかと思います。
西田:若新さんは、組織と個をどうとらえているのですか?
若新:銀行の話をきくと「30歳で1000万かよ。いいな」と思うじゃなでいですか。そもそも現代社会は、利権の奪い合いだと思うんですよ。勉強して競争して、知的に武装して、僕らは安全でラッキーなポジションを奪い合っている。
でも、一人で考えてもなにも答えがないのが男の寂しいところですよね。僕らはなんのために奪い合ってきたのか......、あるときハッと気づくんじゃないでしょうか。
頑張っておいしいポジションをゲットした男性を、さらに女性がゲットするという構造になっている。
女性に仕えること、そもそもは、邪魔な岩をずらすとか肉体的に危険な仕事をすることが男の仕事の起源。女性がこどもを産むための安全な環境をつくるのが仕事だったんです。
そもそも、おいしいポジションをゲットするのはなんのためだったのか、「家族」と切り離せないと思うんですよね。都丸さんはけっこう早いときからそれを考えていたのではないかなと思うんですけれど、どう思います?
都丸:自殺してしまった上司をみて僕も34歳ぐらいのときは、ああなると思ってしまったんですよね。
暮らしの中のものが揃っている今、これ以上時間を使って稼ぎ、メディアにでてフォロワーができて、誰が喜んでくれるのか? 息子に原体験を提供する時間を逃してしまってまで仕事をすることに豊かさがあるのかなって疑問に思いました。 起業、結婚、子供をもつことを1年くらいに同時にしていました。創業したての2年半は全然家庭を顧みないし、ひどい状態でした。あれ、自分はなんのために? 家庭こんなんだぞ? とはじめてきづきました。
西田:江戸時代は、多忙なんていけないよ。心を亡くしてはいけないというのを大事にしてきました。
若新:なんのために戦っていたのかわからないから自殺しちゃったりする。今こそ、あえてもっと脱力するのが重要な気がします。
ゆるいなにかがいいといいながら、一番、武装しているのは僕。みてください。こっけいな姿を。脱力するのは難しい。 戦いそのものがおかしいんです。僕はかわいそうな女性に、男を代表して謝っています。
西田:いろんなことが混沌としますが、どう生かしていくかが知恵です。ダメンズだって使いようです。ある人にとっては反面教師かもしれません。
撮影:内田明人 文:渡辺清美
(2015年1月8日のサイボウズ式 「組織の未来はどうなる?──企業を離脱した男性×男社会でポジションを築いた女性の本音トーク」 より転載)