理念・政策・実行力を持つ日本を想像する 服部良一

保守的な時代にあって労働者の権利の擁護者の一人である服部良一は、日本における民主的オルタナティブ実現の担い手である。
服部良一

保守的な時代にあって労働者の権利の擁護者の一人である服部良一は、日本における民主的オルタナティブ実現の担い手である。2009年、服部は大阪3区から衆議院議員として選出された。現在は社会民主党(社民党)の国際担当をつとめている。

服部は日本国憲法の平和条項を護るための運動に幅広くかかわり、自衛隊の海外派遣に反対している。

鳩山由紀夫元首相とも親しい服部は、アジア諸国、とくに韓国・中国との密接な交流促進に尽力している。

これまで、より広範な対話を実現するために日本の政治家やNGOメンバーからなる代表団を率いてきた。彼は日本の帝国主義によって被害を受けたすべての人々に対する相応の補償、植民地支配の清算を求めている。

また、服部は沖縄の普天間米軍基地撤去のために闘い、辺野古の新基地建設に反対している。彼は米軍基地に関連した事故や米兵の犯罪の被害者への補償と基地をめぐる日米合意の見直しを主張している。

服部は1960年代に京都大学に在学していたが、当初は社会問題にとくに関心はなかった。だが1969年に中国を訪問し、社会を良くしようと努力する中国の学生たちを目の当たりにして、社会を改善するために最善を尽くす義務があると考えるようになった。

彼は大学2年のときに大学を去り、躊躇なく低賃金の労働者たちと働く道を選んだ。

パストリッチ

テロが世界各地で発生しています。捜査も進行中で真相がよくわからない中で、これを政治的に利用しようとする勢力もあります。大変危険なことだと思うのですが。

服部 

その通りです。フランスでの事件後、政権与党幹部から「共謀罪」を国会に上程する話が出ました。

実際に行為に及ばなくても話し合いをしただけで犯罪者にするもので、ひどい法律です。ますます警察力を強くし、生きづらい社会になります。フランスも米国も排外主義が広がっています。世界中に冷静な視点で対応する共通の価値観とネットワークが必要かもしれません。

パストリッチ

とくに心配なのが東アジアにおける従来型軍事予算の増大です。

一方で、今回のパリ会議をつうじて気候変動対策に膨大な予算が必要なことがわかりました。従来のような兵器にお金を使う余裕などないのに、どうして従来型の軍事力を重視するのか、私は非常に不思議なのですが、服部さんはどうお考えですか?

服部 

人類が力と力の対立、軍事拡張の競争に陥るのは悲しいことです。それは20世紀の遺物にしなければならなかったのに、まだそれにとらわれている人たちがいます。とくに東アジアは朝鮮半島の分断のために伝統的な冷戦が完全には溶けていません。

日本は戦後平和憲法のもとで非侵略的な政策を続けてきて来ていたのですが、安倍政権の好戦的政策、「戦争法」成立は間違いなく東アジアの平和と安定を壊す行為です。また日本は大量のプルトニウムを保管しており、潜在的核抑止の政策をとっています。核武装のドミノになる可能性もあります。

しかし一方で日本は少子高齢化社会で福祉予算が肥大化し、軍事力に回す予算は限られています。しかも米国の言うがまま自衛隊を海外に派遣すれば、ますます軍事費は拡大します。国民の間に深刻な矛盾を抱え込むことになります。

そしてご指摘のように、地球の温暖化対策に巨大な予算が必要なのは言うまでもありません。

パストリッチ

長期的視野でものを考える人がとても少ないように思います。

企業経営者もそうですし政治家や公務員も、大学教授でさえもそうですね。ですが、原子力問題、環境問題そして農業問題を考えれば非常に深刻な状態になりそうです。

いかにすれば、未来(30年後、60年後)を考える人を育て、その人たちを日本社会において活用できるのでしょうか?

服部 

そのとおりですね。

政治が人気取りになっており、目の前の支持率に一喜一憂して、長期的な視点で考えることができなくなっていますね。

しかし、今日本は人口1億3千万人ですが、2050年には9千万人を切ることが予想されています。そうすると労働力人口や福祉予算や様々な問題に直面することは明らかです。経済成長の考え方も修正しなければなりません。

一部学者のなかでは「縮小社会研究会」という形で経済や生活、社会のありかたを将来にわたってどう展望していくのかの議論が始まっています。

農業や日本の食料自給率の問題で言うと、この間アメリカ主導で進んでいるTPPは問題が大きいと思っています。日本の農業はつぶれてしまいます。農業が疲弊すると日本の緑豊かな自然も破壊されます。心配です。

パストリッチ

安倍さんが安全保障問題について、どのように考えているのか気になります。日本企業の海外権益を守るため、あるいは米国の要望に従って自衛隊を世界中に海外派兵することが目指されています。そのため、なんとしても憲法九条を変えたいというのが最大の政治的願望のようです。

しかし、冷戦が終結して戦争の危機は遠ざかりました。日本の国内世論は憲法九条改悪には反対です。これに対し、中国との衝突の危機が強調されています。

ですが、目の前に実在する危機としての気候変動への対応に必要な膨大な費用を考えれば、仮想の危機である中国との衝突にそなえる予算などないと思うのですが。

服部 

おっしゃる通りです。

予算で言えば、日本の防衛費は5兆円を突破して安倍政権下で最高水準に達していますが、まず何よりも少子高齢化社会で福祉予算への圧迫になることは間違いありません。そのために消費税を10%に上げ、一方で年金や福祉の予算を切り下げる政策をとっています。これはやがて国民の大きな不満になってきます。当然、地球規模で必要とされてる温暖化対策にも莫大な予算が必要となってきますね。

中国は日本にとって最大の貿易相手国です。常識的には戦争をすることなど考えられません。しかし、安倍さんの憲法九条改悪の意図からすれば、多少の衝突は必要と思っているかもしれませんね、非現実的ですが。

そして、福島の復興はまだまだです。流出しつづける汚染水の対策や廃炉作業、避難者への補償、放射能による健康被害への対応などに莫大な費用が必要です。原発事故の処理のために数十兆円という資金が必要と言われていますが、電力会社だけで支払うことは出来ませんから、様々な形で国の税金を投入しています。

海外へ自衛隊を派遣し、意味のない戦争にお金をつぎ込む余裕はありません。 にもかかわらず、安倍さんは、どうしても仮想の安全保障を現実の安全保障よりはるかに大事に思っているようです。

昔の自民党にはいい意味でも悪い意味でも派閥があり、多様な考えがあって、平和、リベラルな考えの人もいましたが、最近は小選挙区制の影響もあって、首相官邸の意向が強くなってしまっています。日本会議という核心右翼=歴史修正主義者が安倍内閣の大半を占めています。

パストリッチ

日韓関係悪化により、文化交流も減少しています。なぜ両国間の葛藤は繰り返されるのでしょうか?また、健全な交流、歴史問題の相互理解、今後の協力のためにどういった努力が必要でしょうか?

服部 

政治の責任だと思います。金大中大統領と小渕総理時代に未来志向の日韓関係がうたわれ、サッカーのワールドカップや韓流ブームで民衆同士の親近感や交流は大きく進みました。小泉首相の靖国神社参拝によって冷や水をかけられましたが、それでもまだ交流は進みました。

民主党鳩山政権が誕生し、「東アジア共同体」構想が打ち出され、ウインウインの将来を展望する機運も生まれていました。しかし、雰囲気が変わってきたのは野田政権の時に、領土問題をあえてクローズアップし対立をあおりました。そして安倍政権の誕生で決定的になったのではないでしょうか。

総理就任と同時に靖国神社を参拝し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定、そして「戦争法」を強行成立させました。これはアジア諸国に警戒心を呼び起こし緊張をつくっています。

日本の過去の侵略行為や植民地支配の清算をしようとしないだけでなく、その歴史そのものをなかったものとして居直り続けています。日本の若い子ども達に真の歴史教育をしようとせず、むしろヘイトスピーチを助長しています。しかしこうした試みは国際社会からも厳しく批判されるでしょう。

では、我々は何をなすべきかです。日本にも影響力の強い良識のある多くの知識人もいます。政治家・学者・知識人が時の政権の政策にふりまわされずに、日常的な意見交換を東アジア規模で強めなければなりません。

昨年8月ソウルであった東アジア平和国際会議に参加しましたが、そのコンセプトは<東アジア非核平和構築・東アジア平和共同体の構築・日本国憲法守護・脱原発>でした。ぜひ継続を期待しています。

私は、議員生活3年目に東アジア青年交流プロジェクトをつくりました。将来の日本を担う政治家や市民運動・労働運動の卵である若い人達の交流がとりわけ重要だと思っています。

もちろん、若者の交流だけではありません。自治体同士や地方議員、市民運動、様々な課題別の交流など多元化を図っていかねばならないと思っています。

パストリッチ

アメリカは日本および韓国と同盟関係にあります。ですが、気候変動の恐怖に世界が取り組んでいる今日、戦争を前提にして共通の敵を探すような「同盟」という考え方そのものが現状にそぐわないと思います。

今後の日米関係のあるべき姿とはどういったものでしょうか?

服部 

そうですね、東アジアはまだ「脱冷戦」ができていない証左ではないでしょうか。地球的・人類的な課題に挑戦しなければならない時代に、古いイデオロギー対立にとらわれているわけですね。「同盟」はあくまで「軍事同盟」を意味します。軍事緊張が続くことで儲ける人達がいるということでしょうか。米国の軍産複合の経済や、日本が武器の輸出に踏み切る流れを見るとそう感じます。

日米同盟=日米安保条約は、日米平和条約にかえる必要があります。また憲法九条を世界に広げる必要があります。時間もかかりハードルも高いかも知れませんが、いつか必ず実現すると信じています。

パストリッチ

もしも日本が世界のリーダーになるとしたら どのようなリーダーになればいいでしょうか?21世紀のリーダーとはどういったものだと思いますか?

服部 

一言で言えば、平和と人権・環境のリーダシップをとれるのかでしょう。

平和について言えば、本来「憲法九条」を持ってる日本は、その理念を世界に広げることが可能ですし、必要です。日本の平和憲法は戦争の反省にたって、もう二度とアジアを侵略しない、戦争しないという国際公約であると同時に、国際紛争を武力で解決しない、軍隊を持たず外交の力で平和をつくっていくというまさに人類社会の崇高な理念でもあります。

日本は現実には自衛隊を持ち、世界有数の軍事装備を持つまでになりましたが、少なくとも今日まで国権の発動としての武力行使をせず、戦争によって一人の自衛隊員も殺されず、また他国の人を殺していません。それが70年も続いてきたことは世界に誇るべきことです。そのためにも安倍政権が強行した集団的自衛権行使容認や「戦争法」を今からでも止めなければなりません。

また平和外交の前提としては正しい歴史認識が必要です。歴史の真実から目をそむけず反省し謝罪すると同時に、二度と誤った歴史を繰り返さないように次世代への教育が必要です。

2点目の人権の重視は言うまでもありません。格差社会でなく、一人一人の人権が大切にされ福祉が充実されなければなりません。しかし、日本の現実はそうではありません。沖縄人やアイヌ人、在日韓国人・中国人などマイノリテイへの差別があり、とくに最近は激しいヘイトスピーチが横行しています。人権社会を世界に誇れる日本にしなければなりません。

3つめは地球環境分野でのリーダシップです。日本は温暖で緑と水の多い恵まれた環境にあります。原子力や化石燃料によらずに自然エネルギーですべての電気を供給することが可能です。(私が中心となり作成した社民党2011年脱原発アクションプログラムでは2050年自然エネルギー100%の日本を提唱しました)。また、省エネなどの環境技術も進んでいます。世界に見本を示すことも出来ます。

日本が世界でリーダシップを取るためには、上の3点できちんとした理念・政策・実行力を持つことだと思います。日本にそれが可能か?潜在的に可能です。しかし、今の政治の現実は逆行しています。すなわち、世界の信用を失う方向に向かっています。ですから、日本の中で我々が頑張ることが大切です。

パストリッチ

安全保障委員会を安全保障気候変動委員会にするというのは、いかがでしょうか?

服部 

もちろん、いいアイデアですね。「安全保障」の概念を「軍事」だけでとらえるのは間違いです。

「食料」の安全保障もあります。食料の自給率や食の安全の問題などです。最近「人間の安全保障」という言葉もよく使われるようになりました。自然環境が人間の生命に大きな影響力を与えます。地球との共生が、まさに人間にとっての安全保障です。

服部良一(はっとり・りょういち)

元衆議院議員。現在、社会民主党全国連合常幹(国際担当)・大阪府連代表。

1950年、福岡県八女市生まれ。久留米大学付属高校卒業後、京都大学中退。その後、大阪で労働運動・市民運動の活動を続ける。

国会議員秘書を経て2009年、第45回衆議院議員選挙で当選し衆議院議員として一期務める。

現在も様々な市民運動に関わる。

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