1960~1970年代のアポロ計画において、月から持ち帰った表層土壌にアミノ酸が含まれていたことはよく知られたことです。しかし、そのアミノ酸がいったいどこから来たものかは長らく謎でした。
NASA の研究者は現在の技術でふたたびアミノ酸の性質を分析し、それらが宇宙で作られたものではないと発表しました。
アミノ酸は基本的な生命の源として知られます。タンパク質を構成して身体をつくり、食物を消化するのに使われ、和食においては重要な旨味成分であったりします。
アポロが月から持ち帰った土壌には、グリシンやアラニン、アスパラギン酸といったアミノ酸が含まれており、このアミノ酸がどこからやってきたのかは当時の技術では解明できませんでした。今回分析にあたった NASA の研究者 Jamie Elsila は、土壌に含まれるアミノ酸の由来に対し、次のような可能性を考えました。
宇宙飛行士の身体または宇宙船など地球からの汚染
ロケット燃料や太陽風によるアミノ酸前駆体の形成
隕石や小惑星との接触
まず、土壌中のアミノ酸の量は宇宙船からの距離にかかわらず一定であったこと、表面と少し掘った部分においてアミノ酸の含有量が変わらなかったことから、ロケット燃料や太陽風の可能性は消えました。
また地球からの由来か、隕石などの衝突によって来たのかを判別するには、土壌に含まれるアミノ酸の性質を知る必要がありました。
アミノ酸にはまったく同じ分子構成ながらその並びが鏡に写したように左右逆となる鏡像異性体が存在します。地上の生物が作るアミノ酸はほとんどが L型とされています。一方、その鏡像異性体は D型と呼ばれ、小惑星などで発見されるアミノ酸はほぼすべて D型です。
Jamie Elsila はこの点に着目し、土壌を分析しなおしました。そして検出されたアミノ酸がほぼ L型であることを確認しました。さらに、このアミノ酸に含まれる炭素同位体も地球由来のものと一致していました。つまり持ち帰られた土壌は宇宙飛行士との接触や、採取後の取り扱いの際に地球からのアミノ酸に"汚染"されていたということになります。
Jamie Elsila は「この分析結果は地球外から持ち帰るサンプルの成分が地球由来の成分に覆い隠されてしまう場合があることに気づかせてくれた」としたうえで、持ち帰られた土壌には D型のアミノ酸もわずかに存在することを示し、「今後のミッションでは"地球汚染"の影響を切り分けて、サンプル物質が形成された環境の痕跡を調査していかなければなりません」と語っています。
ちなみに宇宙から持ち帰ったといえば、小惑星探査機はやぶさがサンプルリターンに成功した小惑星イトカワの微粒子が記憶に新しいところ(といってももう5年前ですが)。こちらはこれまでの分析では地球由来以外のアミノ酸はみつかっていません。
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(2015年10月30日「Engadget日本版」より転載)