サラリーマンは「75歳引退」で老後生活は安心できる。(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)

死ぬまで打ち込める仕事を持てることは幸せだ。そんな働き方ができるのは天職を得ている人たちだから。

政府は70歳までの雇用を推進している。将来的に100歳近くまで生きられることを考えると、70歳とは言わずそれ以降も働くことを考えておいた方がいい。

そうなると、これからの生き方は従来とまったく変わってくる。サラリーマンは引退時期が60歳からさらに10年以上先に延びるのである。今の会社の定年制や年金制度は「人生85年、60歳引退、年金受給65歳」で組まれている。もっとも「60歳引退」は、雇用延長で実質すでにないと言える。

従来の生涯収入のままで引退時期が延びるなら、働く期間を延ばすしかない。ではどれだけ働けばいいか。結論は、本人次第だ。お金があればすぐ引退すればいいし、働ける環境と意思があればいつまでも働く。

こう言うと「死ぬまで働かせるのか」と言われそうだが、むしろ死ぬまで打ち込める仕事を持てることは、個人的には幸せだと思える。そんな働き方ができるのは天職を得ている人たちだから。

多くの人は自分の意思にたがう仕事に長時間をつぎ込むのは苦痛で、とても死ぬまで働く気になれない。会社員を勤めあげた人が引退後は相応の時間を確保し、勤務時代には叶えられなかったことに没頭する、あるいは無為の日々を楽しみたいと思うのが普通だろう

では、いつまで働くか。これは完全な引退時期をいつにするか、ということである。なかなか決められない人に1つのパターンとして「75歳引退」を挙げてみたい。

■「75歳引退」のパターンを考える

「75歳引退」と言うと、75歳はおろか70歳でも働く場があるのかといぶかる人が多い。厚生労働省の最新統計によると、70歳以上でも働ける制度のある企業は27.6%(調査対象156,989社)だという(平成30年「高年齢者の雇用状況」集計結果)。数字的にはまだ少数だが、今後この数字は確実に増えていくだろう。 

ではなぜ「75歳」か。1つには健康な人なら知力・体力をこの年齢まで十分保てるからだ。もう1つは、老後資金づくりに負担がかからないということが言える。これまでの60歳引退とした場合、老後の必要資金は夫婦で大雑把に3000万円と言われた。これは60歳から85歳までの25年間でかかる生活費の総資金のうち、公的年金等の収入総額を差し引いた金額である。これはあくまで平均的な数値から引っ張ったものだ。

寿命が将来100歳まで延びるとして、完全な引退期間を25年とすると、逆算して引退時期は75歳となる。同じ25年間でも60~85歳と75~100歳では、健康の度合いが違うので同一視できないが、それを踏まえたうえで従来の60歳引退と75歳引退では資金設計はどう変わるか。

■サラリーマンには3つの引退段階がある

まず、引退後の生活費を現役最終時の何%にするかを決めることだ。そのうえで資金設計の運用率を考える。以下では計算を簡単にするため夫婦同年齢とし、現行制度のうえで60歳から65歳までの期間を「前引退」、65歳から75歳までを「準引退」、75歳以降を「完全引退」と言うことにする。

「前引退」

60歳の定年退職で継続雇用となっても、形式上いったんは引退と考える。退職給付金が支給されるうえ、給与体系は別扱いとなり最終給与の5~6割となるのが一般的だからだ。現在のところ65歳までは雇用の継続が保障される。

「準引退」

現在、継続雇用を65歳までとする企業が多いが、将来的には法改正(高年齢者雇用安定法)も含めて70歳くらいまで延びる可能性がある。また、継続雇用でなくても週2~3日や時短勤務の条件で就職することもある。そうした場合、収入は「前引退」の1~2割は下がるだろう。

「完全引退」

文字通り完全な引退である。もはや働かず、趣味や娯楽、生きがい、友人や家族との生活が中心となる。考えたくないが、心身が健康でなくなっていく時期でもある。

■各引退段階での生活設計

この3つの引退段階を前提にしたうえで、現役最終年収を600万円(月額50万円)としてみる。「前引退」(60~65歳)の収入を現役時の6割とすると、単純に月額30万円の生活費となる。この期間は退職一時金がなければ、新しい給料だけで生活することになる。配偶者がフルタイム勤務でなくても収入があれば、夫婦で十分に生活可能である。

次に「準引退」(65~75歳)の期間。この期間はさらに収入減額となり月額25万円(現役最終の5割)くらいになるかもしれない。不足分を65歳からの老齢年金を充ててもいいが、ここは凌いで70歳までの繰下げ受給を選ぶ。5年先に延ばすことで本来受給の142%の年金額となり、82歳以上生きれば(本稿は寿命100歳を前提としている)、生涯受給額でより多くもらうことになる。この時期は退職年金も始まり、その一部をまわせば月額30万円の生活は妻の収入なしでもやっていくことは可能である。

最後に「完全引退」(75~100歳)の期間である。前2つの引退期間と同様、月額30万円の生活費を維持すると、単純計算で総額9000万円(30万円×12カ月×25年)かかる。夫婦の将来の公的年金額を月額20万円と少なめに見込んだとして、不足額は「3000万円」である。

■現役時代からのキャリアと準備にかかっている

同じ必要資金額でも60歳からの3000万円よりも、75歳からの3000万円の方が資金づくり上は有利となる。60歳から75歳までの15年間で余分に運用できるからである。仮に退職一時金なら、受取額2500万円を元手にして60歳から75歳まで1%で複利運用すると約2900万円になる。2%運用では約3360万円である。運用効率が上がればもっと有利になる。また退職年金なら65歳から75歳までの受取分を積立運用していけばいい。

さらに、退職給付制度として確定拠出年金(DC)があれば、企業型の現行掛金限度額は年額66万円(月額5.5万円)である。これを30年間(30~60歳)、1%で運用すると約2300万円、2%運用で約2680万円となり、上の元手資金はほぼこれでつくれる。

このように、「完全引退年齢」「引退生活レベル」「現役~引退時代の運用率」を長期スパンで考えると、75歳まで働くことで無理のない資金づくりができる。ただし、このパターンはすべてのサラリーマンに当てはまるわけではない。第一、これには個々人の状況、知力・体力の健康度、そして何よりも個人の幸福観を考慮していない。

あとは、これを基盤にしてどのように(時間や場所)、どんなこと(仕事の内容、形態)を決めるかである。定年退職して各引退段階に入ると、自分の思うような仕事に就けるとは限らない。本来やりたかった仕事をこの段階で始めるか、単に生活のお金のためだけで我慢して仕事を続けるか、その人の現役時代のキャリアと準備にかかっている。

キャリアといっても単に高収入をめざすことではないはずだ。つまるところ、自分が各引退段階でやりたいことをやるための経験やスキル、学習、交友、そして生きがいや健康づくりのことだと思える。

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野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

【プロフィール】

個別の金融資産の推奨・販売をしないアドバイザリー型のFP。個人のリタイアメントプランを実現するための運用設計およびトータルなライフプランの提案。ほかに働き方、お金に関するアドバイスの提供。