2021年04月12日 12時20分 JST | 更新 2021年04月12日 12時20分 JST

二人に一人は「がん」になる。患者が自分らしく生きるために必要なことは?

「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」 アフラックは、保険会社の役割を超え、多様な領域の人々と協働して解決していく「キャンサーエコシステム」の構築を進めている。

2018年5月から2019年12月まで、がん患者の問題解決に向けて議論を重ねてきた「『がん患者本位のエンゲージメント』を考える会」。

今回、本研究会の報告書『「がん患者本位のエンゲージメント」を目指して 〜がん患者が社会で自分らしく生きるための3つのビジョン〜』が上梓されたことを機に、メンバーとゲストによる座談会が開催されました。

がん患者を取り巻く現状を、より良いものとするために必要なこととは? オンライン座談会の模様を通じてお伝えします。

■ 参加者

山口 俊晴
公益財団法人がん研究会有明病院 名誉院長

天野 慎介
一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン 理事長
一般社団法人全国がん患者団体連合会 理事長

細田 満和子
社会学者 星槎大学 教授

松井 秀文
認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワーク 理事長

宇都出 公也
アフラック生命保険株式会社 取締役上席常務執行役員

がんと関わりのある有識者が集まった研究会の成り立ち

──「『がん患者本位のエンゲージメント』を考える会」はアフラックが事務局を務めていますが、どのような成り立ちがあるのでしょうか?

宇都出(すべて敬称略):弊社のチャールズ・レイク代表取締役会長が、研究会の座長を務められた武藤徹一郎先生との対話の中で、がん患者さんの療養や生活にはまだまだ課題が多く、それらは医療者だけでは解決できず、社会全体の関わりやつながり、まさに「エンゲージメント」が重要だ、と伺ったことがありました。

アフラックは、「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という想いから、創業された会社です。当然、武藤先生の問題意識に共感し、がん患者さんを取り巻くさまざまな社会的課題を解決するための「エンゲージメント」における新たな価値の創造に貢献すべきだ、と考えた次第です。

アフラック生命保険株式会社 取締役上席常務執行役員 宇都出 公也氏

山口:私はビジネス界でよく使われるその「エンゲージメント」という言葉が、がん医療にどう関わるのか、実はあまり理解できないまま参加しました。まるでゴールの見えないレースに参加したような気持ちでしたが、一緒に走るランナーの方々の錚々たる顔ぶれに、「これはおもしろいレースになりそう」と思ったのが最初の印象です。

細田:私は社会学の視点から、患者の方々にとっての病いの経験や健康とは何かについて研究しています。その中で、患者の方々から、医療制度が十分でない点や、医療者の方に理解してもらえないといった問題を耳にすることも多くありました。

そんな折にこの研究会のお話がありました。がんに関わる各領域のトップの方々が、患者本位に考えていこうとする会ができるだけでも素晴らしいのに、さらにこの会のメンバーになって、皆様のお話を聞けて意見交換もできるということで、喜んで参加させていただきました。

山口:毎回多角的な議論が行われる中で、私は意識が変わりました。消化器がんの専門家としてある程度の自負はありましたが、皆さんのお話を聞く中で今まで知らなかったことを知り、以前とは変わったのだと気付くことができました。

小児がんを例にとると、私が40年以上前に小児外科をローテーションしていた頃の小児がんの治癒率は大変低いものでした。しかし、松井さんのお話で「今では治癒率が70〜80%になっている」と知り、その進歩をうれしく思うとともに、生存者には成長とともに新しい問題が生じていることにも気づかされました。

松井:『小児がんのエンゲージメント』をテーマに、講演の依頼をいただいたときは、成人がんが中心の研究会で小児がんをテーマとして依頼いただけるのはとてもありがたいことと思いました。一方で、医療者ではなく、家族に小児がん患者がいるわけでもない私が、お話ししていいのかなと少し悩みました。以前、研究会で天野理事長がお話ししていたニューズウイーク日本版元編集長の竹田圭吾さんのお言葉を借りれば、私は「あちら側の人間」ですので。

ただ、支援団体として活動する中で、患児・経験者や家族がどういう思いを持ち、どんな課題を抱えているかを身近に感じているので、小児がんの実態を知っていただく機会になるのではと思い、お引き受けしました。山口先生に「意識が変わった」と仰っていただけると、私の拙い経験の中でお話ししたことが少しは役に立ったのかなと思い、大変ありがたい機会でした。

天野:松井理事長が仰っているのは、竹田さんがツイッターで、がん患者であるご自身と周囲の方の間に「こちらとあちら」で境界線が引かれると表現したエピソードですね。私は20代のときにがんに罹患しました。家族や友人、職場の同僚といった周囲の人がとても心配してお見舞いにきてくれていましたが、同じように孤独を感じずにいられませんでした。ですので、竹田さんの書いた「こちらとあちら」は共感できたし、これを埋める努力が必要だとも感じています。

こうした話をすると、がん患者vs.医療者という対立的なとらえ方をされる場合がよくあるのですが、そうではなく、両者は共にがんを治すためのパートナーとして歩むべき存在。もっと言うと、がん患者と医療者だけでなく、両者の周囲で関わる人たちにがんのことを少しでも知ってもらい、さらにはその輪が広まらない限り、がんやがん医療が社会に受け入れられることにはならないのではないでしょうか。そういった意味でも、この研究会という取り組みは大切だと思います。

「がん患者本位のエンゲージメント」とは?
実現には何が必要?

──基本的なことになるのですが、そもそも「がん患者本位のエンゲージメント」とは、どのようなものなのでしょうか?

細田:この研究会の座長、(がん研究会有明病院 名誉院長の)武藤徹一郎先生が書籍の中でも説明されていますが、がん患者の方がより良い人生や生活を送ることを共通の目標とし、がん患者自身を含めて関係するすべての人たちや社会全体で取り組んでいこう、というのがエンゲージメントです。

患者自身も、病気になったからといって病人として存在するだけでなく、自分らしい人生について考え、周りから支援を受けながら、やりたいことをやっていき、希望を叶えていく。そして周りの人は、生きる意欲や生きたいという希望を持つ患者を受け入れ、支援する。こうしたことが、エンゲージメントという言葉には込められていると思います。

社会学者 星槎大学 教授 細田 満和子氏

──書籍の中で、社会全体でがん患者を生涯にわたって支えていくために、がんを一つの疾病ではなく、「がん患者を取り巻く状況の問題」と捉える必要があると表現されていますが、これはなぜでしょうか?

細田:がんに限らず病気を持ちながら生活するには、医療や医学だけあればいいわけではなく、さまざまな領域で環境が整うことが必要です。生きるためには治療だけでなく、家族との生活や友人関係、地域社会、企業、働いている場所や行政など、社会のあらゆるところが関わることになる。そういう意味で、がん患者の方々を取り巻くすべての状況が「患者を支える」という共通の目標でつながることこそ大事なのだと思います。

今や、二人のうち一人ががん患者になると言われ、がんは普通に見かけるものとなりました。どんな病気や障害でもそうですが、困っている人がいるならそれを支え、一緒に解決できる社会をつくることが大事なのではないでしょうか。

山口:高齢化社会を迎え、がん患者が増加するとともに、その治療成績も向上してきています。私が医学部を卒業した1973年ごろは、がんになって助かる確率は15~25%程度でしたが、今は75〜80%が生還して長生きする時代になりました。

一方で、治療による後遺症が出ることもあり、身体的な悩みを抱える人、また経済的な悩みを抱える人が増えています。「子どもがまだ小さいのに、フルに働けなくなって苦しい」など、悩みは多様化しています。かつては発見して治すまでががん患者の目指すところでしたが、助かる時代になって問題が増えているからこそ、解決すべき問題を分担し、協力していく体制をつくることが大事になってきたのだと思います。

松井:助かる時代だからこそいろいろな問題が出るという点では、小児がんは治療が終わってからの期間が70年、80年と長い分、問題も多いと言えます。治療を終えても約半数の子どもは「晩期合併症」と言われる障害を抱え、生きていかなくてはなりません。また、小児がんの場合は、治療中の学業だけでなく、学籍の問題、退院後の学校の受け入れの問題なども生じます。

また治療後の期間が長いからこそ、成長して社会へ出たときに周囲に理解してもらえないと、就労、結婚、出産といった場面ごとに、さまざまな課題を抱えて生きていかなくてはならないことが多いのが現状です。

がん研有明病院に見る、がん患者中心の「チーム医療」

山口:がんの治療も複雑化しているため、患者も自身の病気についてしっかり勉強していないと、医療者から「こういう治療方針でどうでしょう」と言われてもすぐには判断できません。ただ、これは医療体制にも問題があります。外科へ行かせたり内科へ行かせたり、あちこち複雑な説明を沢山聞かせた上で、最終的に「さあ、どうするか自分で決めてください」と言っても、患者は途方に暮れるばかりです。

こうした問題を解消したのが、我々がん研究会有明病院で構築した「キャンサーボード」です。もともとはアメリカ・テキサス州にあるMDアンダーソン病院を視察して取り入れたものです。ひとりの患者に対して複数の診療科の医師が集まり、ディスカッションして治療方針を決めたり、チームを作ってがん治療にあたったりするシステムです。我々は臓器別にキャンサーボードを作り、内科、外科、専門治療など、各専門家が参加し、みんなが総合的に適切と思える治療を行うようにしています。

公益財団法人がん研究会有明病院 名誉院長 山口 俊晴氏

山口:このチーム医療の方式を取り入れたことで診療が迅速化し、受診から1週間以内に治療方針が決まって手術などの治療の予定が組めるようにもなりました。医療の効率化に伴って経営上のメリットも生まれています。そして、何より大事なことは医療の透明性が格段に向上したことだと思います。キャンサーボードに出すと担当医だからといってその意見が優先されるわけではなく、キャンサーボードの参加者に担当医としての考えを説明し、十分議論したうえでなければその先の治療には進めない仕組みになっています。このように担当医が他の専門家と議論を交わすことで、新たに解決すべき問題も明らかになり、それに対する新しい医療の創造という点でも良いシステムとなっています。

キャンサーボードはいろんな大学に設置されていますが、決してすべてがうまく働いているわけではありません。最大の原因は、キャンサーボードに最終決定権を持たせないために、キャンサーボードにおける結論が必ずしも強制力を持たず、各診療科の教授がその結論を受け入れないことも可能な状態になっていることです。こうした旧態依然の仕組みを変えないと、医療体制の抜本的な改革は実現できないと思います。

「がん」「がん患者」へのスティグマを与えないために

──がん患者本位のエンゲージメントに向けて、細田先生は研究会で『がんについての社会学的考察の試み』をテーマに講演されています。社会学において、「常識を疑い、偏見やステレオタイプに疑問を呈すること」が重要であると書かれていますが、がんに対する偏見やスティグマ(負の烙印づけ)はまだまだあるとお考えでしょうか?

細田:ドラマや映画などでも、がんと診断されると周囲はショックで落ち込み、本人も悲哀に満ちた表情になるという描写が出てきたりするので、今なお「がん=不治の病」というステレオタイプはあると思います。診断されただけで仕事を辞めたり、趣味を諦めたりする人もいます。これはもったいないことだと思います。この負のイメージを、メディアや映画、小説などから変えていくことも必要ではないかと思っています。

天野:私も以前、メディアから取材を受けたときに「どうも患者っぽくない。もっとしんどかった経験はないか」と言われ、とても驚いた経験があります。メディアの方でも「がん患者=ガリガリに痩せた人、死に向かって行く人」といったイメージを抱かれている。

ある乳がん患者の方から伺った話では、ホルモン療法の薬による副作用で体型がふっくらしていくのを気にしていたとき、上司に「がんなのにどんどん太って、元気そうじゃない」と言われたそうです。上司としては、目の前の彼女ががん患者のイメージと違って元気そうだから、励ますつもりだったのかもしれません。しかし、彼女からすれば当然とてもショックな言葉で、その女性は抑うつ状態になって休職したと伺いました。

当たり前ですが、患者も一人の人間。「普通に社会生活を送っていますよ」「あなたたちが思っている以上に周りにたくさんいますよ」ということを、もっと伝えていかなくてはと思います。

宇都出:スティグマは、とても本質的な問題ですよね。病気になると身体的な苦痛を伴うのと同時に、周囲の病気への無意識な前提や思い込みに苦しめられることもある。書籍の中で細田先生も書いていらっしゃったように、病気としてのスティグマが現実にどれほど患者を苦しめていることか。

人間は、いろんな無意識の中の固定観念だったり、社会的に形成された言説だったり、といったものの影響を受けてしまうもの。そういったスティグマになるような無意識の固定観念などを取り除いていくことも、とても大事なエンゲージメントだと思います。

一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパン 理事長 一般社団法人全国がん患者団体連合会 理事長 天野 慎介氏

細田:がんになる前からのがん教育も、とても大切だと思います。がんのことをきちんと理解してスティグマを払拭すれば、実際に自分がなったときに、今していることをすぐに諦めたりせず、家族ががんになっても慌てないという心構えができるはずだと思います。勤務校には中高保健体育の教員免許状取得を希望する学生も多いので、いずれ子どもたちに伝わればいいという意図から、公衆衛生学の授業の一環としてがん教育を行っています。こうした取り組みが、多くの学校で広まると良いですね。

コロナ禍で、がん患者本位のエンゲージメントは変わるのか?

──新型コロナウイルス感染症の問題から、がん検診を受診する方の数が減っているという話を聞いたことがありますが、皆さんはいかがでしょうか?

山口:受診の遅れから、がんが進行した状態で発見される例はありますね。行動の自粛を促すために、必要以上に不安をあおるような報道を受けて外出に不安を感じている人が増えています。体調がおかしいと思いながらも受診しなかったり、術後に必要な通院をしなかったりという方も散見されます。コロナは注意すべきものではありますが、日本では1日に約1000人ががんで亡くなっていることも事実ですから、勇気を持って受診していただきたいですね。

入院したときに付き添いができないことも心配です。がんの治療や検査のために、身体的にも精神的にも辛い時こそ、そばに寄り添う人がいてほしいのに、それが叶わない状況が続いています。看護師さんも患者さんに精神的なケアが必要とわかっていますが、コロナ禍の今はできるだけ接触を短時間にせざるを得なくなっています。

天野:私も昨年に入院しましたが、、SNSやビデオ通話を使うことでまだ救われました。所属している患者会でもウェブ会議用システムを用いた交流会を開催していて、つながりが広がっています。アフラックさんも、がん経験者のコミュニティサイト『tomosnote(トモスノート)』を運営されていますよね。こうした場も、一種のピアサポート(=仲間同士の支え合い)。とはいえ、ネット上のつながりではカバーしきれない部分もあるし、そういったツールがない高齢者の方などは、みるみるうちに社会性が失われてしまいます。

松井:リモートの普及は、高校生のがん患者にとってもメリットがあります。高校生だと院内学級がほとんどないため、現在は学習環境を整えるのは難しいのですが、オンライン学習ができるようになり、この仕組みを拡げることで、がんに限らず病気で入院している高校生には非常に役立つと思います。

また、コロナの影響で親の収入が減ったり、本人がアルバイトをできなくなったりして経済的な問題も生じています。コロナに限ったことではないですが、ゴールドリボン・ネットワークでは小児がん経験者の大学生等への奨学金制度を設けているほか、遠方の病院へ治療で行く際は一定条件のもと交通費と宿泊費の補助などを行っているので、是非、利用していただきたいですね。

認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワーク 理事長 松井 秀文氏

終わりに

──最後に、今回の書籍を通じて、アフラックとしてはどのようなことを実践していこうとお考えでしょうか?

宇都出:がん保険の会社として、日々、保険のご請求などで数多くのお客様と接する中で、「がん保険があって助かった」というお声だけではなく、社員や代理店が、お客様それぞれの状況に耳を傾け、適切な対応を心掛けることに対しても、感謝の声を数多くいただきます。
保険会社として、給付金・保険金を正確迅速にお支払いすることは当然ですが、「がん患者本位のエンゲージメント」とは、そうした本来の役割を超えて、がん患者さんやご家族に接したときに感じる「お役に立ちたい」という、同じ一人の人間として社員や代理店の気持ちを具現化することです。
保険の機能だけでは解決できない社会的な課題に対しても、多様な領域の方々と協働して解決していく「キャンサーエコシステム」の構築に努めていきたいと考えています。

「『がん患者本位のエンゲージメント』を目指して」の発行概要

発行日 :2021 年 1 月 12 日
著者 :「がん患者本位のエンゲージメント」を考える会
発行 :株式会社日経 BP
定価 :2,200 円(税込)