オウム真理教元代表の麻原彰晃(本名:松本智津夫)死刑囚の遺体を誰か引き取るのかをめぐって、綱引きとなっている。
地下鉄サリン事件など数々の事件を引き起こした首謀者として死刑が確定していた麻原死刑囚の死刑は、7月6日に東京拘置所で執行された。
共同通信や毎日新聞などマスコミ各社は7日から8日かけて、麻原死刑囚が刑が執行される直前に自らの遺体を、四女に引き渡したいと拘置所職員に言い残していたと報じた。いずれも関係者の証言だという。
しかし、麻原死刑囚は裁判で意味不明な言動を繰り返すなど、精神状態が異常で、裁判を受ける能力を失った可能性があるとする声が識者から出ていた。遺体の引き渡しを求める麻原死刑囚の妻らは「特定の人を引き取り人として指定することはあり得ない」と拘置所側の主張に反発している。
■各社の報道を並べると...
麻原死刑囚が四女に遺体を引き渡すように伝えたという各社の報道のうち、代表的なものを抜粋すると以下の通り。
<共同通信> オウム真理教教祖の松本智津夫元死刑囚=執行時(63)、教祖名麻原彰晃=が6日の執行直前、東京拘置所職員に、自身の遺体を四女に引き渡すよう伝えていたことが7日、関係者への取材で分かった。
<毎日新聞>松本智津夫(麻原彰晃)元死刑囚(63)が6日の刑執行直前、収容先の東京拘置所の職員の聞き取りに対し、自身の遺体の引き取り先として親族の一人を指定していたことが関係者への取材で判明した。
<読売新聞> 関係者によると、元死刑囚は東京拘置所で刑を執行される直前、担当官から「遺体と遺品を誰に受け取ってほしいか」と問われると、「四女」と答えた。さらに、担当官が四女の名前を告げて確認すると、元死刑囚はうなずいたという。
■麻原被告の四女とは?
松本聡香(さとか)さんのペンネームで知られる麻原死刑囚の四女は、記者会見で教団との決別を宣言し、松本元死刑囚ら両親と「縁切り」している。
四女は7月6日、「松本死刑囚は一度の死刑では足りないほどの罪を重ねましたが、彼を知る人間の一人として今はその死を悼みたいと思います」とコメントを発表していた。
■四女と長女以外の家族からは反発の声
一方、死刑が執行された麻原死刑囚の妻らは7月7日、東京拘置所に安置されている遺体の引き渡しを求めて、上川陽子法相と同拘置所長あての要求書を提出した。一審で、麻原死刑囚の主任弁護人を務めた安田好弘弁護士が明らかにしたと朝日新聞デジタルが報じた。
要求書は妻のほか、6人の子どものうち長女と四女を除いた4人の連名だという。6日に死刑が執行された松本元代表の遺体について「極秘の安置所に安置し、葬儀などの儀式はせずに弔い、遺骨は金庫に厳重に保管管理する」としている。
毎日新聞によると要求書には「家族や弁護人が現実に認知した精神状態からすれば特定の人を引き取り人として指定することはあり得ず、到底納得できない」としている。
■麻原死刑囚の精神状態をめぐって論争になっていた
麻原死刑囚は裁判でも公判中に居眠りをしたり、意味不明な独り言を繰り返していた。一審の死刑判決の言い渡しの瞬間、松本死刑囚は立ったままうつむき、身動きもしなかった。
かつて教団内で「アーチャリー」と呼ばれた三女の松本麗華さんは、最後に会った時の父の様子についてAbemaTVの番組で以下のように話していた。
「面会室に連れてこられた時はオムツを着け、荒れた肌はめくれあがっていた。耳が聞こえているのかも分からないような状態で。大声を出しても全く気が付かない」
刑事訴訟法では死刑執行について「心神喪失の状態のときは、法務大臣の命令によって停止する」と規定されている。
6月29日には 田原総一朗さん、森達也さんらが呼びかけ人になり「オウム事件真相究明の会」を結成した。麻原死刑囚が精神に異常を来たし訴訟能力を失った可能性があるとみて、「死刑執行前に精神疾患に対する治療を速やかに行い、その情報を公開することを要請します」と政府に要請していた。
一方で、産経ニュースでは7月6日、関係者の証言として「風呂や運動については、刑務官に声をかけられると自発的に歩いていっており、精神的な問題はなかった」と報じている。