2019年08月29日 12時04分 JST | 更新 2019年09月06日 12時07分 JST

企業のCSRはここまで進化した。世界中の企業がお手本にするセールスフォース・ドットコムの社会貢献

セールスフォース・ドットコムが創業時から実施している独自の社会貢献モデルは、今や多くの企業の模範となっている。ビジネスで得た知見や利益を、社会に還元する取り組みとは。

企業がボランティアや寄付活動などを通じて社会に貢献するCSR(Corporate Social Responsibility)はすっかり定着した。

そんな中、CSRのお手本としてGoogleなどからも注目を集める企業がある。セールスフォース・ドットコム(本社・アメリカ)だ。

その秘けつは、従業員の就業時間の1%、製品の1%、株式の1%を社会貢献に充てる「1-1-1モデル」というユニークな仕組み。
「1%」の社会貢献とは、いったいどんな内容なのか。日本法人の社員たちが実践するその「現場」を訪ねた。 

ITの知見で未来を変える

8月上旬。関西有数の海水浴場、和歌山県・南紀白浜にあるセールスフォース・ドットコムのオフィスで、社員の吉野隆生さんが地元の中学生4人と向かい合っていた。

Yasujiro Suzuki
パソコンよりも、スマートフォンやタブレットを使う機会の方が多いという4人も、プレゼンの準備ではパソコンを使いこなしていた。=8月1日、和歌山県西牟婁郡白浜町

この場所にセールスフォース・ドットコムの「サテライトオフィス」がオープンしたのは4年前。総務省の「ふるさとテレワーク」の取り組みの一貫として同社でプロジェクトが発足した。 

ここ「白浜オフィス」を拠点に、同社は様々な地域貢献活動に取り組んでいる。

この日あったのは中学生らを招いた職場体験プログラム。教育分野での貢献は、同社が最も力を入れている取り組みの1つだ。

吉野さんは子どもたちにパソコンの使い方を教えながら、国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)について話し始めた。

「和歌山といえば海。今日は海洋プラスチックごみを減らすにはどうしたらいいのか、一緒に考えよう」

SDGsの中で最も注目されている課題の1つを吉野さんは取り上げた。

中学生たちはインターネットを使って調べ、写真やデータを使って資料を作り上げた。自分なりの改善策をまとめ、テレビ電話を通じて東京や大阪、福岡のオフィスにいるほかの社員たちにプレゼンしてみせた。

「子どもたちは普段、パソコンを使う機会が多いわけではない。ここまでできるようになるとは本当に驚いた。白浜でもこうした経験ができることはとても貴重。子どもたちもいつか実感するでしょう」。見学していた教員は目を細めた。

Yasujiro Suzuki
セールスフォース・ドットコム セールスディベロップメント本部営業戦略室の吉野隆生室長。「海が一望できるロケーションに一目惚れして、白浜にオフィスを設けることを決めました。ここでは、社員も役場も地域の方もみんながOhanaになれています」

吉野さんは「子どもたちがITに触れる機会を作ることで、彼らの夢や将来の選択肢を広げたい。彼らが白浜の、そして日本の未来を変えていくと、本気で思っていますよ」と話す。

同社が得意とするIT分野を通じた地元貢献の対象は子どもだけではない。同じ日、教員向けの研修も開いた。

「教職員間の情報共有や予定管理がうまくできない」「学校での会議が多すぎて、時間が上手に使えていない」……。そんな悩みを教師たちから聞き取った吉野さんは、社内で使っているオンライン上の情報共有システムなどを提案した。

「先生や保護者にもITを活用した『未来の働き方』についての講演を続けています。今すぐに生まれる変化はほんのちょっとかもしれない。でもこうした活動を長期的に見れば、地域のIT意識が底上げされ、ビジネスが未来を作るということになる。日本のシリコンバレーも夢じゃないと思うんです」

「1%」だからできること

同社の社会貢献を支えているのは、「1-1-1モデル」だ。

従業員の就業時間、製品、株式のそれぞれ1%を社会貢献に役立てるという独自の取り組みで、創業者で共同CEOのマーク・ベニオフ氏が考案した。

すべての社員に年56時間(7日)の有給ボランティア休暇を与え、非営利団体や学校などに資金提供するほか、子供を対象としたプログラミングなど、吉野さんのようにIT技術に関する教育の場も設けている。

また、非営利団体や学校、社会福祉法人などに、株式の1%分を資金として寄付したり、自社製品の1%分を無償もしくは割引価格で提供したりもしている。

NGO・PLAS
セールスフォース・ドットコムの製品を使う「特活エイズ孤児支援NGO・PLAS」のメンバー。同社のツールを導入した団体に対して、社員がボランティア時間を利用してサポートをすることもあるという。

同社のテクノロジーによる支援を受けた団体は現在、世界で約4万にのぼる。国内でも約1250団体あり、アフリカのエイズ孤児を支援する東京のNPO法人「特活エイズ孤児支援NGO・PLAS」には、自社製品を提供することで、事務作業にかかる時間を年240時間短縮する効果を上げた。

その結果、PLASは本業に集中できるようになったという。

同社は、支援によりどのような効果があったか、また、新たに生じた課題も含めてフィードバックを受け、支援先に対して継続的なサポートを行なっている。

世界的企業のモデルケースに

こうした社会貢献のあり方は、自社だけにとどまらず、投資先の企業にも利益を社会に「還元」するよう促している。「Pledge(誓約)1%」という仕組みで、賛同する企業は世界で約8500社におよぶ。

「ビジネスは、世界を変える最高の手段」──。これは、創業者で共同CEOのマーク・ベニオフ氏が創業以来、訴えているメッセージ。この考えのもと、独自の社会貢献モデルが生まれ、その輪が世界規模で広がっているのだ。

企業の設立時から組み込まれているこうした社会貢献はほかの企業からも評価され、同社の取り組みをモデルケースとする企業が相次いでいる。その中には、Googleなどグローバル企業もある。

ここ数年、国連が掲げるSDGsが注目を集めているが、その内容を見れば、経済主体である企業に対する要請は強い。

社会貢献に取り組むかどうかを考える時代は終わり、実践していることはもはや前提だ。利益を追求しつつも、いかにそれを進化させるかが企業の死活問題になってきた。

その意味で、セールスフォース・ドットコムのモデルは今後さらに注目が集まりそうだ。

Salesforce.com
白浜オフィスの従業員は、海岸のゴミ拾いや、ITの知見を広める講演活動など、多岐にわたるボランティアを続けている。決められた活動に参加するのではなく、それぞれの得意分野を生かした社会貢献を行なえるのも「1-1-1モデル」の特徴だ。