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2020年02月12日 08時52分 JST

海外支援は、ハードルが高い? そう悩んだ女性が「1人100円から」の国際支援にたどり着いた

カンボジアの農村に希望をもたらす「ため池」をつくろうと、クラウドファンディングで支援を呼びかけている。

男手や若手が出稼ぎに出る中、村に残って家庭を支える女性たち。

めざましい経済成長を遂げるカンボジア。首都プノンペンでは急速に都市化が進んでいる。一方、開発の波から置いていかれた農村地域では、現在も貧困が深刻な問題となっている。

水が不足する乾季は農業ができず、収入がほとんどなくなってしまう家族も少なくない。現地で支援活動に取り組むNGO「日本国際ボランティアセンター」(JVC)は、一年を通じて水が確保できる「ため池」をつくろうと、クラウドファンディングで協力を募っている。

 

アジアで過ごした幼少期。いつも助けてもらったから、いつか自分が恩返しを

家庭教師のビルマ人の先生と小さいころの大村さん

JVCは2007年、行政やNGOの支援が届いていなかった農村地域の貧困エリアに現地事務所を開設した。現在は6つの村を対象に農業技術を教えることなどに取り組んでいる。

「カンボジアの農村部ではまだまだ貧しい生活が続いていて、働き手の男性は都市部や隣国に出稼ぎに出ています。村に残っているのは、お年寄りと女性、子どもばかり。人手不足などから自分の家で食べる分の作物も満足に収穫できない家も少なくありません」 

そう話すのは、カンボジア事務所の現地代表を務める大村真理子さんだ。

大村さんは父親の仕事の関係で、バングラデシュやシンガポールで幼少期を過ごしたことが、活動の原点にあるという。

「幼いながらも、世の中にはいろいろな国の人がいて、宗教もそれぞれだと感じながら育っていました。小学生のときにひとりで買い物に行って、言葉がわからなくて困っていたりしても、みんなが助けてくれる。そんなふうに助けてもらった経験を重ねるうちに、いつか自分も何かお返しがしたいな、と思うようになったんです」と幼い頃の自分を振り返る。

中学で日本に帰国し、美容師、企業の営業職など多忙な毎日を過ごす。そのうち、「数字を追いかける営業の仕事はやりがいがあるけれど、同じ8時間働くのであれば、小さい頃に思い描いていたような誰かとつながって、役に立つことに関われたら…」という漠然とした思いがわいてくるように。 

「たまたまインターネットで、“海外”“ボランティア”というようなキーワードで検索をしたら、JVCでインターンを募集しているのを見つけたんです。好奇心もあって応募したのが2013年。29歳のときでした」

当時の上司の理解も得られ、週2日、JVCでインターン、残りの3日はそれまで通り会社で働くという毎日がスタートする。

 

海外支援に協力してくれる人の裾野を広げたい

東京で広報をしていたころの大村さん

インターン時代は広報アシスタントとして、イベントのチラシなどを制作したり、企業とやり取りする業務を担当。あっという間に1年が経つ。そのうち、広報チームに欠員が出て、正式に職員として働かないかという誘いを受けることに。その後は広報担当として、約4年のキャリアを重ねる。そこで感じたのが、活動が「遠くに届かない」という限界だ。

「例えばイベントでも、足繁く通ってくださるのは決まった方々。ありがたいことである一方でその先になかなか広がらず、常連の支援者の先にいる人たちに興味を持ってもらうことがとても難しかった。当時の同僚と試行錯誤を続けていましたが、なかなか思うようには進みませんでした」

行き詰まりを感じる中、海外で現地の活動に直接関わるポジションへの挑戦を決めた。当時、欠員があったカンボジア事務所に異動願いを出し、2017年12月からカンボジアへ。

「東京本部としての支援活動については、ある程度理解ができた。次は現地での活動に入り込むことで、何か還元することに役立ちたい。それが支援の裾野を広げることに繋げられる新しい視点を教えてくれるのではないか、と」

 

年間を通じて、水を確保できるため池の掘削を

現地のため池。雨季には水が満杯になる。左:2019年3月、右:2019年10月

大村さんたちが事務所を構えるチークラエン郡は、プノンペンから車で4時間半ほどの場所。ちょうど事務所を引き継いだときは、事業の過渡期だった。

「限られた資源で農作物を栽培していますが、自給自足するのにも十分な収穫が得られないのが大きな課題でした。農業に欠かせない水を確保できない人たちも多く、水がなくても育ちやすい作物の栽培技術などを研修するも、自宅に帰れば農業用水の確保が難しく、やる気があっても実践できない人が少なくありませんでした」 

そこで新たに取り組んだのが「ため池」の掘削だ。雨季に水をためておき、乾季はその水を利用することで、安定的に作物を収穫できるようになる。 

もともと2015年からJVCはため池支援をおこなっており、大村さんが赴任した頃には既に25のため池が掘削されていた。多くのため池が上手く活用されている状態で、それまで雑草しか生えていなかった家庭菜園から一年を通して作物が収穫できるようになり、余剰分を売って現金収入につなげている人も。

この結果をうけて、改めて6つの村で調査をおこない、未だ十分な水が確保できていない人びとのために新規でため池掘削を進めることを決めた。

完成したため池の前での記念写真

大村さんとは東京広報時代からの付き合いで、パレスチナ・ガザ地区にも一緒に訪れたジャーナリストの堀潤さんも、カンボジアを訪問している。 

「大村さんが、文化や生活様式の違い、言葉の壁を乗り越えながらとても丁寧に、そして朗らかに地域の皆さんとコミュニケーションを取っているのがとても印象に残りました。なぜ支援が必要なのか。一人一人が向き合う悩みと一緒に向き合う姿勢が、独りよがりな支援とは異なる、命を繋ぐ関わりだと実感させられました」

「急激な経済発展で農村部でも現金がなくては病院にさえ行けない状況。自給自足とは異なる変化で、土地を担保にお金を借りざるを得ない人たちもいました。夜逃げのような格好で空き家になった家屋を前に、大村さんが自問自答しながら支援のあり方を模索する姿も印象に残っています。息の長い活動を支えることができればと、伝えなくてはと僕も背中を押された思いです」と堀さんは語る。

 

現地の人が、自分たちの手で家族の健康と暮らしを守る

カンボジアで活動する大村さん

池を掘るには、候補地となるエリアの家を一軒、一軒訪ねるところからスタート。男性がいるのか、水がどれくらい必要かなどを細かく調査する。また、候補地となる土地で池が掘れるのか、土地所有者の意向はどうなのか。調査結果を書き出した地図を囲みながら、行政、村長、村の住人全員と一緒に話し合い、どこにため池を掘るかを決めるという。そうしてできたひとつのため池は、数世帯が共同で利用する。 

「それまでの農業研修に加えて、ため池の水を利用することで、生活が変わっていくことに村の人たちが自信と喜びを感じてくれています。村に残っている女性たちから、『JVCの研修を受けて、作物を育てて家族に食べさせたり、自分の手で収入を生み出したりできるようになった』『新しい知識を得ることで家族の健康を自分で守れることがうれしい』という言葉を聞けるのは、本当にうれしいですね」 

貧困地域から抜け出すことは至難の業で、このエリアで暮らしていくことは多くの困難が伴う。しかし、「それでもあきらめずに、少しのチャンスでもチャレンジしようとする現地の人びとの姿勢に、私自身、大きな影響を受けています。かっこいいなと。これからも一緒にできることがないか考えていきたい」と大村さん。

 

寄付金は100円から。できるだけ多くの人に支援を呼びかけたい

ため池の水を使って育てた作物から得た収入で、ポンプを共同購入した人たち

ため池をひとつつくるのに、だいたい30万円ほどの費用がかかる。ため池の掘削費用のためにスタートしたクラウドファンディングでは、100円から寄付が可能に。設定金額を100円から設けているのが、このプロジェクトの大きな特徴だ。 

「海外支援というと、どうしても大きなことと捉えられがち。そのハードルを少しでも下げて、誰でも気軽に参加しやすくしたいというのが狙いです。自分も以前まったく違う仕事をしていて、興味はあったけれども具体的なアクションをとることはなかった。 

もっと無理なく簡単に寄付ができる機会をつくることで、参加してくれる人の裾野をひろげていきたい。これは、東京で広報をやっているときからの、私の目標でもあります」 

同じ30万円の寄付でも、1人で30万や3人で10万円よりも、30人が1万円ずつを寄付してもらえたら。3,000人が100円を寄付してくれたら。応援してくれる人が多いほど、村の人たちの励みになると大村さんは実感している。

ため池の水を使って農業に取り組む女性

「現地で『マリコ、ありがとう』と言われると、『私ではなくて、日本にいる何百人、何千人の人たちが力になってくれて、実現できていることだ』と伝えるようにしています。そうやって多くの人が心を寄せていることを伝えることも、自分ができることのひとつなのかなと思って」 

たった100円の寄付でも大勢の善意が集まることで、物理的、そして精神的にも大きな力になる。大村さんたちのクラウドファンディングでの新たな挑戦は、私たちにも遠くのどこかとつながる新しいきっかけを与えてくれるものとなりそうだ。 

クラウドファンディングによる支援は2月15日まで受け付けている。プロジェクトページはこちら

(取材・執筆 工藤千秋)