2021年12月22日 14時00分 JST | 更新 2021年12月22日 14時00分 JST

「片頭痛をオープンに話して、相互理解を築くきっかけに」当事者と周囲の声を見える化した“ヘンズツウかるた”に込められた想いとは?

日本人のおよそ10人に1人が抱える片頭痛(注1)。見た目にはわかりづらい症状、本音を言えず我慢しがちな当事者のつらさ、それをすぐそばで見守る周囲の人たちのもどかしさ――。これらの言葉や数値化しづらい支障を表現した「ヘンズツウかるた」。どんな想いが込められているのか、制作者たちに話を聞きました。

日本イーライリリー

さまざまな病気のなかで2番目に日常生活における支障が大きいとされる片頭痛(注2)。しかしその症状やつらさは数値化することも困難で、周囲からは「たかが頭痛」と軽視されがちな疾患です。

その支障が職場や社会全体に正しく、そして一人でも多くの人に理解されるように、片頭痛の当事者の症状や心情、周囲の人の声・想いを集めて「かるた」で表現した「ヘンズツウかるた」が11月25日に公開されました。

「頭が痛い、だけが片頭痛じゃない。」をコンセプトに制作された同かるたは、片頭痛の多様なつらさや支障を「見える化」して、当事者と周囲の人が見えない痛みを共有し合うことを目指してつくられました。実際のかるたがそうであるように、色んな人がかるたを囲んで対話する。そんなコミュニケーションのきっかけとして「ヘンズツウかるた」を浸透させたい考えです。

本記事では、「ヘンズツウかるた」をはじめて遊んでみた“おためし会”の様子を紹介します。おためし会には、制作に携わった監修医、イラストレーター、日本イーライリリー「ヘンズツウ部」(※)の部員などの幅広いメンバーが参加し、片頭痛にまつわるさまざまなエピソードについて話をしました。

 

片頭痛の当事者と周囲の声を代弁しているヘンズツウかるた

オンライン参加者と会議室を繋ぎつつ、早速かるたの“おためし会”がスタート。それぞれの自己紹介を終えると、和気あいあいとした雰囲気のなか、はじめての「ヘンズツウかるた」が行われました。

「『わ』、わたしの人生半分以上の時間を片頭痛に奪われている」

おためし会をファシリテートする日本イーライリリー・山縣実句さんが札を読み上げます。すると、間髪入れずに「取った〜!」の声が響き渡りました。最初に札を取ったのは五十嵐久佳先生<富士通クリニック 頭痛外来/富士通株式会社 本社産業医/ヘンズツウ部外部サポーター>。

日本イーライリリー

「片頭痛の有病者数は日本で約840万人(注1)とされ、男性が3.6%、女性が12.9%(注3)と高い有病率です。また日常生活に支障をきたす疾患の第2位であるにも関わらず、痛みや支障が周囲から見えづらいことで理解が得られにくいのも片頭痛の特徴。患者さんは疾患のつらさだけではなく、周囲から理解されにくいという社会的なつらさも抱えています」 

「多くの片頭痛患者さんは何年にも渡って片頭痛があるのが当たり前の生活をしているので、そのつらさを医師や周りの人になかなか伝えません。しかし、こちらからお尋ねしてみると、『本当にしたいこと、やってみたいこと、いろいろ諦めてきた』という声を聞きます。さらに『もし片頭痛がなかったら、もっと違う人生を歩めた』、そうおっしゃる方もいるんです。この『わ』の札は、患者さんの心情がしっかりと反映されていることから、私のお気に入りの札です」

五十嵐先生は、片頭痛に悩まされている当事者の言葉を共有するとともに、片頭痛は“たかが頭痛ではない”ことを強調しました。

ハフポスト日本版
「わ」の札。わたしの人生半分以上の時間を片頭痛に奪われている

 

片頭痛による労働障害などを原因とした経済的損失は年間約3,000億円

「片頭痛の症状がある17,071人に行った調査結果(注4)や、国際間比較を行った調査結果から、日本人はとくに片頭痛の症状が出ても、仕事を休む人が少ない傾向にあることがわかりました。

例えば、1ヵ月あたりの頭痛日数が15日以上の患者さんは、労働遂行能力が49.9%に低下しているも、片頭痛を理由に仕事を休んだ時間は全労働時間のうち6.2%だったのです。この状態は、当事者のQOLを低下させるだけでなく、職場全体にとっては労働生産性の損失でもあります。実際、『片頭痛』による労働障害などを原因とした経済的損失は、2005年時点で日本で年間約3,000億円(注5)とも言われているのです」

「一方で、当事者が片頭痛の『痛み』などの体調に合わせて仕事を休むことに対して、周囲の人の許容度は高いという調査結果も出ています。このような『見過ごされやすい病気』を一つの多様性として周囲の人が理解し、お互いに受け入れる環境が大事だと考えています」(五十嵐先生)

 

「休んで大丈夫。健康が一番」の言葉に涙。周囲の理解に救われる

日本イーライリリー「ヘンズツウ部」の部員で、片頭痛を抱える当事者でもある小林舞さんは「し」の札を手に取り、自身の経験を振り返ります。

「『仕事の効率が下がりながらも頑張るのが日常スタイル』。頭痛があるのはいつものことなので、少しくらいしんどくても仕事を休むのに抵抗がある。だから、何ともないふりをするのが当たり前の日常。だけど、発作が突然出たり、脈に合わせてハンマーで叩かれているような我慢できない痛みが発生したり…そんなときは仕事を休むのですが、申し訳ない気持ちでいっぱいになります」

次に小林さんは「や」の札を取り、「頭痛で休んで『またか』と思われたりしないか、すごく引け目を感じていました。ところが上司は、『休んで大丈夫。健康が一番だよ』と言ってくれて、ものすごく救われました」と続け、周囲に受け入れられることのありがたさを語りました。

ハフポスト日本版
左:「し」の札。仕事の効率が下がりながらも頑張るのが日常スタイル / 右:「や」の札。「休んでも大丈夫だよ」という言葉に救われる

「受け入れてくれた上司は、実は腰痛を持っていたのです。『自分も次の日何が起きるかわからないから、申し訳ないとか思わずにしんどいときは休んでいいんだよ』と言われて、本当に涙が出そうでした。片頭痛も腰痛も、どちらも周囲からは症状やつらさがわかりにくい共通点があります。ヘンズツウかるたをきっかけに、一つの病気や症状への理解は、他の病気や症状への理解に繋がるということを再認識できました」と、小林さんは健康課題の多様性にも触れました。

  

「オープンに話せるきっかけに」ヘンズツウかるたに込めた想い

かるたのイラストを担当した、イラストレーター・フジワラアイさんは、自身も重度の片頭痛に幼少期から悩まされているといいます。 

「『たかが頭痛』とか『頭痛なんかで』と自分自身で思い込み、つらさを一人で抱え込んでしまっている人に、このかるたを手に取っていただきたいです」

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「さ」の札。サボり癖があると思われていないか不安。フジワラさんのお気に入りの札の一つ。片頭痛独特の目の奥の痛みを表現するために、左右の目を異なるデザインにしたという

「私だけのしんどさで皆に迷惑をかけられない、時間をとってはいけない…そういう気持ちからSOSを出せない人がほとんどだと思います。ヘンズツウかるたの46枚の札は、当事者やその周囲の人、それぞれの経験があってできています。だからこのかるたを見たときに、『46人の味方が自分についているんだ』と感じていただけたら嬉しいです。そして、自身の症状や経験をオープンに話せるようになるきっかけになってほしいなと思います」

頭痛の患者さんが多く来院する富永病院で看護師長を務め、日々患者さんと接する立場にあることから「ヘンズツウかるた」のアンバサダーに就任した田畑かおりさん<富永病院 看護部 師長/頭痛医療を促進する患者と医療従事者の会(JPAC)共同代表>も想いを語ります。

「このかるたは、片頭痛の多様なつらさを親しみやすいトーンで描いてくれています。多くの人々の手に渡り、気軽に皆で遊んでいただくことで、片頭痛への理解を社会に広める助けになると思っています」

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「ん」の札。がまんがあたりまえの病気じゃない

二人の話を受けて、最後に五十嵐先生が締めくくります。

「片頭痛の当事者は『気を遣ってもらって申し訳ない』『迷惑をかけてしまう』などと罪悪感を抱く方が多いように感じます。でも、一人で抱え込んだ気持ちを打ち明けることで理解が生まれます。それが浸透していけば、罪悪感から来る周囲の人への『ごめんね』が『ありがとう』に変わるはず。当事者の方には同じ悩みを持つ人がいることを知っていただきたいですし、周囲の方と一緒に片頭痛について会話をして、理解を深めるきっかけとして、このかるたを役立ててほしいです」

 

■「ヘンズツウかるた」特設ウェブページはこちら

 

※日本イーライリリー「ヘンズツウ部」は、片頭痛を抱える社員も周囲の社員もそれぞれが能力を発揮し働きやすい職場をつくることを目指し、2019年に発足

 

(注1)出典:日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会 監修:頭痛の診療ガイドライン作成委員会編集.頭痛の診療ガイドライン 2021, 医学書院

(注2)出典:GBD 2016 Disease and Injury Incidence and Prevalence Collaborators. Lancet 2017; 390: 1211-1259より一部抜粋

(注3)出典:Sakai F. et al, Cephalalgia. 1997;17:15-22

(注4)出典: Matsumori Y et al, Neurol. Ther. (2021) in press

(注5)出典:第12回国際頭痛学会「京都頭痛宣言」〈2005年10月〉