子どもが生まれた。男性育休、どうやって取ればいいい?「育休はじめてガイド」の著者に聞いた。

自身も男性育休の経験者である伊美裕麻さんと土屋貴裕さんに聞きました。
筆者の生後13日の娘と「育休はじめてガイド」(4月4日撮影)
筆者の生後13日の娘と「育休はじめてガイド」(4月4日撮影)

3月22日、娘が生まれた。4月下旬から1カ月半ほど育休を取る予定だ。ハフポスト日本版の編集部では、男性社員の入社後に子どもが生まれたケースがなかったこともあり、私が男性育休の第1号だ。

出産間際の3月初旬。前例がないこともあり、どうやって手続きしたらいいか不安に思っていると、同僚が「こんなガイドブックが出るよ。取材してみたら?」と言った。

その本の名は「迷ったら読みたい 育休はじめてガイド」。千葉県在住のプロダクトマネージャーの「イミー」こと伊美裕麻さん(29)と、岐阜県在住のエンジニアの「ころちゃん」こと土屋貴裕さん(31)の共著。2人は男性育休の経験者だ。自分たちの経験を踏まえては「男性育休を取得したいが何らかの理由で迷っている方」の背中を押したいと思ってこの本を書いたという。

図版をふんだんに使った64ページの冊子。当初は技術者向けの同人イベント「技術書典8」で頒布予定だった。2月29日と3月1日に東京・池袋で開催されるはずが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けてイベント中止になった。そのため3月7日から、冊子版と電子版がオンライン販売されている。

日本の制度だけでなく海外の事例や、これまで男性育休を取った人々のインタビューを踏まえたTIPSまで書かれており、まさに自分が求めていたものだった。どんな思いから、このガイドブックを書いたのか。2人の著者にテレビ会議アプリ「Zoom」でインタビューした。

■「男性育休」は、2人の共通点だった。

「イミー」こと伊美裕麻さん(Zoomで取材中の画面から)
「イミー」こと伊美裕麻さん(Zoomで取材中の画面から)

——まずはガイドブック作成のきっかけを教えてください。

伊美さん(以下、伊美):もともとは2019年11月ごろ、私が「技術書典」に出てみたいと雑談で言ったことがきっかけでした。「本を書きたい」と言ったら、一緒に仕事している、ころちゃん(土屋さん)が拾ってくれたんです。

土屋さん(以下、土屋):僕は過去に何回か同人誌を発行していたので「じゃあ手伝おうか」と。他の本も予定はしていましたが、これ1本に絞ることにして、2人で書くことにしたんです。

——あえて「男性育休」というテーマを選んだのはなぜでしょう?

伊美:それは2人の共通点ですね。私が育休を取るとき、制度を調べるのに苦労したことがあったので「育休を検討する人にパッと渡せるものが欲しいな」という思いがありました。今まではウェブ上で育休取得者向けのサイトを作ったり、育児給付金のシミュレーターを作ったりしていましたが、せっかくだから本にまとめて、対面で渡したり、PDFで渡したりできるものが欲しかったんです。

土屋:僕も何かアウトプットをしたいと思っていました。育休中に感じたことや学びって、1〜2年後には薄れてきますよね。そうなってから文章を書こうと思っても、だいぶ熱が薄れた状態になる。だったら、僕は育休を取っている今のうちに出しちゃった方がいいなと。

——伊美さんと土屋さんの育休期間を教えてください。

伊美:2018年1月に子どもが生まれて、すぐに妻が2週間、里帰りしました。そのあと2月に1カ月間、育休を取りました。その後は、職場復帰して普通に働いていたんですが、妻のキャリアへの影響も考えて再取得しました。2018年10月から取り始めて、今年の1月に終ったところです。

土屋:僕の場合は2019年8月に子どもが生まれて、育休を取ったのは9月1日からです。今も取得中で、7月まで計11カ月間、取得予定です。勤務先の株式会社キャスターは社員のほとんどがフルリモートという多様な働き方を推進している会社だったこともあり、僕は男性初の育休だったのですが、特に問題なく取れました。

■厚労省のサイトから拾い上げようとすると「心が折れる」

「ころちゃん」こと土屋貴裕さん(Zoomでインタビュー中の画面から)
「ころちゃん」こと土屋貴裕さん(Zoomでインタビュー中の画面から)

——男性育休について本を書いてみて大変だったことはなんですか?

伊美:1つは制度を正確に理解することですね。育休の条件やもらえる金額、育休中に仕事ができることの条件を、制度を理解してまとめるのが大変でしたね。厚労省のサイトも欲しい情報を見つけづらいのと、微妙にアップデートされていくのを追いかけるのが大変なので、最後の最後まで、さまざまな人からアドバイスもらいながら修正していきました。もう一つは、制度だけじゃなくて、生の声を集めたかったのでエンジニアさんを初めとして10人くらいにインタビューをしたんです。ころちゃん(土屋さん)と2人で分担しながら楽しみつつ、頑張ってやったという感じです。

——土屋さんにとって、特に苦労したところは?

土屋:一度出すとなかなか修正が利かないので、誤った情報を出さないように気をつけましたね。あと、僕は海外の育休制度をまとめたのですが、英語だと一次情報があるけど、中国語とか韓国語とかは読めないので、二次情報を参考にしたので、その部分は苦労しました。ただ、僕はそこを知りたかった。「日本は育休制度すごいよ」というけど、世界と比較したことはなかったので、「イメージだけじゃないの?」とは思っていたからです。ただ、実際に調べてみると、北欧の育休の制度は、予想していたほどでもなかった。

——北欧も含めて交互に取るのが普通で、ダブル育休の制度ってあまりないようですね?

土屋:はい。調べた感じ、あまりなかったですね。父親か母親のどちらかがワンオペでやっているような感じですね。国によってはダブルで取れる期間もあるようですが、そもそも男性が取れる期間が短めでした。それに比べると日本は長いです。「夫婦がダブル育休で1年取れる」というのは他の国にはない。 日本は制度としては充実していますね。

——日本の場合、育休制度は整っていても、すごく複雑な印象を受けます。

土屋:やっぱり複雑だと思いますよ。アイスランドなどが、すごくシンプルなのに比べると、そう感じます。日本の制度が複雑だと感じるのは、条件が後付けでいろいろ入っているから、というのがあるかもしれませんね。産休の出産一時金は健康保険から出るけど、育児休暇の給付金は雇用保険から出ますよね。「どこから出るの?」「誰が受けられるの?」というところが特に分かりにくいかもしれませんね。

——今回のガイドブックも「男性育休の取り方が分かりにくいから、分かりやすく提示したかった」というのはありますか?

伊美:それはありますね!初めて育休を取ろうとする方が、厚労省のサイトから拾い上げようとすると、結構心が折れると思うんですね。自分の経験でも、まさにそうで。あれもこれも制度があってよく分からない。心が折れそうになった経験がありました。「ちょっと男性育休に興味がある」という方が、スムーズに知識を得たり、検討ができるといいなと思って、今回の本を作りました。

■育児は1歳近くに「次の波がある」

——実際にお二人が育休を取ってみて大変だったり、想像と違っていたことは何でしょうか?

伊美:大変だったところでいうと、私は妻とダブルで取ったので、めっちゃ余裕があるのかなあと思ったんですけど、息子が大きくなるにつれて全然余裕がなくて、2人いても大変だったということはありました。

——大変だったのは1回目の育休?それとも2回目ですか?

伊美:どちらも大変ですが、あえて選ぶとすれば2回目ですね。というのは、1回目はそれこそ息子が生後1カ月で、あまり動かなかったので、ミルクやオムツはめっちゃ大変なんですが、2人で分担すれば、他の時間は自由が利くんですね。でも、息子が1歳に近くなって公園などに行ようになると、活発だし、ご飯の準備も離乳食があるし、思った以上に大変でした。生後すぐよりもやることが増えるんです。

——1回目よりも2回目が大変だった記憶があると。

伊美:そうですね。もちろん1回目も最初の方は妻が体もボロボロだったし、大変でしたね。自分がお休みして妻をサポートする体制でした。男性の育休って生後すぐだけ取るというのが一般的ですが、生後半年を超えてから、1歳近くなるまでも次の波があると思いました。その意味で男性育休を2回に分けて取れるというのは面白い制度だなと思いました。

——今回の本を読んで、初めてそういうシステムだと知りました。私の妻も職場復帰する予定なんですが、復帰の際に男性育休を再取得するとやはり違いますか?

伊美:そうだと思います。職場復帰のサポートで2人いるというのもいいですし、職場復帰に向けて今まで育児しかしてなかった状態から「ドン!」って、職場に戻ると大変だと思うんですね。職場復帰の前に、二人のダブル育休の時間を確保したり、少し仕事に近いことができたりしていると、職場復帰のストレスや大変さが全然違うと思います。夫婦として価値のある時間かなと思います。

——育休を取っている最中の土屋さんは、いかがでしょうか?

土屋:やはり「予想より大変」ってことですね。世間ってワンオペのママって多いじゃないですか。「どうやってんだ!?」となる。あとは、一番大変だったのは最初の1〜2カ月だったんです。それは予想通りで、その後は段々と楽になるのかなぁと思っていたんだけど、意外とそうではなかった。波があるんです。2〜3カ月くらいすると、一回、落ち着くんですよ。よく寝たりとか、まだ動かないので、自分としても育児に慣れてくるんで5カ月くらいまでは意外と楽なんです。ところが、5カ月目になると寝返りを打ち始めたりするんで、これから大変になってくるんだろうなと。

■第一号社員が注意すべきことは?

——僕は、ハフポスト日本版で男性育休を取る第一号社員なんです。ハフポストでは担当者と打ち合わせして進めていますが、自分が会社で第一号という場合、注意した方がいいことは何でしょう?

伊美:女性が今まで取っているんだったら、社内のフローは問題ないと思うんです。ただ、制度や申請のフローがあるかは気にしといた方がいいですね。初めて取る会社だと、社内でも手続きに不慣れでなかなか進まなかったりとかありますね。あと、男性目線だと、育休の再取得とか「男性ならではの制度」を会社の人が知らなかったりするというのはありますね。私の場合も、まずそれを会社の人に説明することから始めました。

土屋:会社で社労士さんと提携していたりすると思うんですけど、そこまで社労士さんも熟知してなかったりします。社労士さんにハローワークに聞いてもらうようなかたちになるので、もし特殊なケースであれば、直接ハローワークに電話して詳しい条件を聞くというのが大事だと思います。僕の場合は、転職して新しい会社に入って6カ月くらいで育休取ったんで「これで給付金もらえるんだっけ」というのを、ちゃんと聞きました。

■男性育休の前に「壁」を作っているのは、「一家の大黒柱じゃなきゃ……」という思いでは?

——そろそろまとめに入りたいと思います。ガイドブックの序文にもあったように、日本の男性育休の取得率は6%と非常に低いままです。その原因を二人に伺いたいんですが……。

伊美:今回、育休をとった男性たちにインタビューをしてみて感じたのですが、「男性は働いて一家の大黒柱じゃなきゃ……」みたいな思いがあると、その思いをベースにさまざまな壁がみえて育休を取れないのかなと思うんですね。「キャリアに影響して出世できないんじゃないか?」とか、職場の周囲の人が良しとしないから「取らない方がいいんじゃないか?」とか。お金の面はそこまでハードルではないとはいえ「収入を減らしちゃいけない」という思いがあると、取りづらくなりますよね。ただ、お金の面でいうと共働きの家庭も増えているし、在宅でできるリモートワークも増えてきています。柔軟な働き方が選択できるので「どんなかたちで働くか、夫婦でどんな働き方をできるか」って、広く検討できるようになると、もっと取得率があがると思います。

——土屋さんは、育休取得率の低さをどう考えますか?

土屋:これは会社の文化、ひいては日本の文化じゃないでしょうか。「女性が休みを取って男性が働く」というステレオタイプが、人々の意識にこびりついています。制度的には充実しているんで、そこの雰囲気じゃないかなと思いますね。職場の雰囲気もあるけど、幼少からの教育の中で「男の子は泣いちゃいけない」とか性別役割が分かれていくところがあって。そういうのを家で男の子は見ているわけですよね。それで新卒で働き始めて3年目とかで子育てだったら、人生の大半は親や教育機関から得られた価値観が大きいんじゃないかな。

■男性育休を取ることが女性の働きやすさに繋がる

——3月8日は国際女性デーでしたが、男性育休が広まることで女性も働きやすく、生きやすくなるのでは?

伊美:私は完全にそうだと思っています。男性・女性に限らず、子育てにつきっきりになることでキャリアが断絶することはあり得ると思うんですよね。今まで女性が担うことが多かったんですが、子どもを育てる間、1年か2年。子どもが2人以上いるとさらに長い間、キャリアが断絶しちゃうわけですよね。その先に繋がらないのが課題なんで、ダブル育休とか交換で育休を取るとかして、いろんな選択肢をつくることで、断絶しないキャリア形成ができると思っておます。うちはまさにそうで、妻一人に育児を背負わせていたら、妻のキャリアも止まっちゃったと思うんですけど、それぞれが取ることで、育児もしつつキャリアを薄く継続するということができていいかなと思います。

——土屋さんは、どうでしょう?

土屋:まさに、それはイエスです。まさに僕も実感しているところですね。うちの場合だと、2人とも半育休で。半育休って造語なんですけど。週1くらいで妻も仕事に行っているんですよ。育休中に働くとちょっとだけ給料をもらえるのでその効果もあるんですけど、それよりもやっぱり育児を離れて仕事ができるというストレス解消が一番大きいですね。妻も「職場から1年間離れると腕が落ちる」というのを心配していて。僕もエンジニアですけど、1年離れると復帰したあとがめちゃくちゃ心配なんですね。そこは薄く仕事を継続することで「復帰しても大丈夫だ」と自信につながるんで、それだけですごくストレス解消になるみたいですね。

——なるほど。つまり男性育休をとることで、女性もフレキシブルな働き方が出来たりストレス解消につながると。

土屋:それが回り回って自分に返ってくるので。どんどんストレス解消して欲しいですね(笑)。育児のストレスはどうやっても発生するので、家族の中で分散させることが大事だと思います。