「あまりにも非科学的」神宮外苑再開発、アセス審議会に指摘。何が問題だったのか

審議会では「きちんとした調査をすれば起こり得ない差だ」「都民に納得いただけない」などの指摘もあったが、「誤りはない」として再審査をしないと決定した

東京・明治神宮外苑の再開発をめぐり、事業者の評価書に「誤りや虚偽がある」と指摘する声が上がっていた問題で、都の環境影響評価(アセスメント)の審議会は5月18日、「調査の予測評価に重大な変更が生じるような、誤りは虚偽はなかった」と結論づけた。 

しかしこの結果について、専門家から「事業者の説明や審議会の進め方に問題がある」「科学的な議論が行われなかった」という声が上がっている。

明治神宮外苑のいちょう並木
明治神宮外苑のいちょう並木
HuffPost Japan

「科学的な議論ができない進め方だ」

神宮外苑再開発では、三井不動産や明治神宮などの事業者が1月に環境影響評価書を東京都に提出し、小池百合子知事は2月に認可した。

しかし、文化遺産保護に関わる日本イコモス国内委員会は、この評価書には「誤りや虚偽がある」と指摘し、その58項目をリスト化して回答を求めた。

これに対し、事業者は4月27日と5月18日に開かれた審議会で「調査で問題はないと確認できている」「誤りではなく、考え方の違い」などと説明した。

その一方で、自らの説明を裏付ける具体的なデータの提示はなかった。

それでも、審議会会長で明治大学名誉教授の柳憲一郎氏は「予測評価に変更が生じるような誤りや虚偽はないことが確認されたと思う」とまとめ、日本イコモスからの指摘についての審議を終了させた。

この対応について、環境アセスメントの専門家で千葉商科大学の原科幸彦学長は、「審議会での進め方に根本的な問題がある」とハフポスト日本版の取材で述べた。

今回、日本イコモスは「審議会で事業者と同席のもと、評価書の誤りを立証させて欲しい」と求めていた。

しかし日本イコモスの出席は認められず、審議会は事業者だけが説明をする場となった。

原科氏は「この進め方では科学的な議論ができず、明確な結論は出せないはずです。日本イコモスは具体的なデータを示して虚偽だと指摘している。事業者もデータに基づき議論をしなければなりません」と話す。

「審議会を運営する東京都の事務局がこのような進め方を認めたことが、大きな問題です。公開の場できちんと議論をするよう、仕切り直しが必要です」

東京都の環境影響評価条例第74条2では「(審議会は)事業者その他関係者の出席を求め、説明を聴き、又は事業者その他関係者から資料の提出を求めることができる」と定められている。

原科氏は「この規定を適用するべきです。しかも、条例第91条には、虚偽の報告若しくは資料の提出をしたときは、都知事は当該事業者に対し、必要な措置を講ずるよう勧告することができるとされています」「小池知事には、フェアな対応をするよう事業者を指導して頂く必要があります」と指摘する。

群落数の違いが争点に

5月18日の審議会で争点の一つになったのが、植生図に記載された植物の群落数だ。

事業者は神宮外苑の植物の群落数を5とした一方で、日本イコモス22であると指摘した。

審議会では、造園学の専門家である千葉大学グランドフェローの池邊このみ委員がこの問題を取り上げ、「植生図が違うとなると、その他の調査も歪められているんじゃないかという疑問さえ出てきてしまう」「きちんとした調査をすれば起こり得ない差だ」「22群落がどう5群落に集約されているのかの説明がなければ、都民に納得いただけない」など、強い懸念を表明した。

これに対し、事業者は「対象としている範囲が異なる」「外観から判断して、植物の優先種が少し異なるものがある」と説明したが、争点となった現存植生図の提出はなかった。

さらに、植物群落については事業を終えた2036年に再度調査をして事後報告するとした。

これについて原科氏は「あまりにも非科学的な発想」と批判する。

「これは『アセスメントは事前のチェックのために行うものである』という根本を理解しない回答です。予測評価の前提が違っているかもしれないという重要な指摘に対し、これを無視する対応です」

さらに、第一部会の部会長で日本大学教授の齋藤利晃氏は、群落数の違いを指摘したイコモスの資料は「審議会直前で出されたために、この場で判断したり、事業者が対応したりすることができない」とした。

これに対し、原科氏は「直前に出された資料に答えるのは難しいのであれば、審議を継続して十分な準備をさせることが審議会の部会長の責務です」と指摘する。

「5月18日の場で難しいのであれば、6月の審議会総会で審議をすればよいことです。それをしないで、これだけの大きな食い違いのあるものを認めてしまうことは、あまりにも非科学的です」

工事用の白い壁で囲まれている神宮外苑の区域
工事用の白い壁で囲まれている神宮外苑の区域
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日本イコモス「事業者の説明のみで決定した」 

今回、58項目の問題を指摘した日本イコモスの理事で中央大学研究開発機構の石川幹子教授は、審議会で事業者の主張が認められたことについて次のようにコメントする。

「環境影響評価は、科学的、客観的手法でおこなうことが最大の要件です。日本イコモスはこの科学的方法論に関し、58の誤りと虚偽を提示しました。しかし、事業者は58項目すべてを認めず、自己主張に終始しました」

「群落調査手法に関する議論の余地もない初歩的誤りには一切言及せず、すべて正しいとされたことは、科学技術自体を否定し、審議会の存在意義をおとしめる不正行為以外の何ものでもありません」

「なかでも、現存植生図は生態系の構造を分析した評価書の要となるものですが、事業者の緑地現況図は、現存植生図ではないため、予測・評価・再生への道筋を進めることができません。今後の予測・評価・再生に決定的修正が必要となる状況にあります」

「事後報告は、2036年とのこと。その時、誰が責任をとるのでしょうか?13年間、鉄の壁の中で、大量伐採が行われます。都心の憩いの場が隠され、不正行為を正当化した開発が、13年間、世界に発信されることとなります」

「日本イコモスは、学術団体として問題を指摘し、審議会での説明を要請していましたが、出席を認められず、事業者の説明のみで決定したことは、条例の原則に反します」

日本イコモスは、58項目の一つで「樹木の大量伐採や移植により、東京都心における貴重な生態系が損なわれる」とも指摘した。

これに対して、事業者は「現存樹木の保存移植を図るとともに、新たな樹木の植栽をする」と説明した。

しかし石川氏は、「事業者の評価書では現況が科学的に分析されておらず、予測、評価、ミティゲーション(環境への影響を緩和、補償する行為)のプロセスが誤りで、豊かな森は再生されません」と述べる。

審議会は事務的なものなのか

18日の審議会では、齋藤第一部会長が「環境影響評価という制度自体が、極めて事務的に進むことが多かったが、今回は従来の環境影響評価書よりも踏み込んだ予測評価がしっかりできている」と発言する場面もあった。
環境影響評価書の審議会が事務的に進むこと自体に、問題はないのだろうか。 
原科氏は「肝心のデータの問題点が多数指摘されているのに、その科学的検証もせず『従来の環境影響評価書よりも踏み込んだ予測評価がしっかりできている』とは、不思議な発言です。データ自体が疑わしいのだから、予測評価がしっかりできているとは言えません。従来の事務的に進むように見えるケースでは、データがきちんと取られ、予測評価がしっかり行われているので、疑問もあまり出ず、事務的に淡々と進んでいるように見えるだけです」と話す。
「評価書案などについて審議する際に、毎回、具体のデータや証拠に基づく議論を行うことが必要ですが、それを十分にしてこなかったため、事務的に進むだけのように見えるのです。疑問点に対し、証拠を示し『意味ある応答』をする。これを積み重ねて行けば、環境影響評価は有効に機能します」
「今回は都の事務局の進め方に、大きな問題がありました。事業者が情報公開に極めて後ろ向きで議論に必要なデータをなかなか出さない。その結果、十分な審議ができないのにも関わらず、事務局は事業者に必要なデータを出させないまま、先へ先へと急かしました。事務局がこのような対応を行ったのは、担当者の責任もありますが、結局は都知事の責任です。都知事が、アセスプロセスをきちんと進めるようにと指導していれば、こんなことは起こりません」

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