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2020年11月11日 17時13分 JST | 更新 2020年11月11日 17時44分 JST

「もう怖がらなくてもいいんだ」 自由を取り戻したアメリカのZ世代と「分断社会」の今後

抑圧から解放され歓喜に酔いしれる若者の力強い声を聞いた。 一方で、ある保守派のコメンテーターは顔を赤らめ「これからは私たちがそういう思いをする番になるかもしれない」と語った。

11月7日午前11時25分、テレビ画面が「次期大統領 ジョー・バイデン」のニュースに切り替わり、民主党候補バイデン前副大統領の当確を示すチェックマークが付いた。その1時間後、ニューヨーク・マンハッタンの様子は一変した。

12時半、中心部のユニオン・スクエア、グリニッジ・ビレッジ、5番街ーどこも人で溢れている。新型コロナウイルスの感染拡大による3月のロックダウンから、こんなに多くの人を街中で見たのは初めてだ。

津山恵子撮影
ブルートゥーススピーカーを持ってきて踊る若者

初夏のような日差しに、ニューヨーク中の星条旗が透けて光った。

誰かと視線が合うと、マスクの上の目が潤んでいる。「分かるよ」とでも言うように、見知らぬ人とうなずき合う。拳と拳を付き合わせる。 

♪ウィー・アー・ザ・チャンピオーンズ〜 クィーンの歌を誰かがスマホで流し、夏服の若い女の子らが、両手を上げ、陶酔したように踊る。

道を行く車やバイクから星条旗がはためき、プープープーという喜びのクラクションに、歩行人やレストランに集まった人たちがヒュー、ヒューと歓声で応じる。

車体横に貼られた模造紙に「終わったんだ」と書かれたSUVが通り、また歓声が上がる。

歓声の中、この街の人たちの声を一つ一つ聞いて回っていると、単なる”お祭り騒ぎ”ではない、この国の民主主義の底力を感じたのだった。

ニューヨークの10代、トランプ氏に“You’re Fired”

 「この4年間は、サイテーだった」と、生まれて初めて投票をしたエボニー・ニクソン(18)。ユニオン・スクエアで出会った。

憎しみとか偏見、恐怖とか、通常なら心配しなくてもいいことに向き合っていかなければならなかった。でももう怖がらなくてもいい!人生は、もっといいものになる!」(ニクソン)

ニクソンの友人ジャズミン・ジョンソン(18)も興奮気味に話す。

「新型コロナで、国が一つにならなくてはならない、共同体としてもっと包容力あるものにならなければならない時に、トランプ大統領はそれをしなかった。でも今、ここにみんなが出てきて一緒に祝っている。素敵!」

津山恵子撮影
初めて投票したエボニー・ニクソン(左)とジャズミン・ジョンソン

思い切りメイクをして1人で来ていた15歳高校生のキャサリン・Gは、「バイデン  ハリス」と書かれた小さな段ボールを持って佇んでいた。デモにも行ったこともなく、こんな集会に初めて来たという。 

「トランプは、私たち若者の心を打ち砕いた。大統領としての資格も備えておらず、そんなひどいことをする権利なんて彼にはない。私たちは人種や考え方など、さまざまな違いを抱えてはいるけれど、国全体がこんなにもトランプのことを怖がらなくてはならなかった。そんなことは2度と起きてはならない。バイデンなら、国をもっと安全にしてくれる」

津山恵子撮影
15歳のキャサリン・G

「アメリカは恐怖に満ちていた」

「どこかで会ったことありますよね」と会話を始めたのは、母親が日本人でミックスのトレイシー・ウィリアムズ(51)。

「(日本語で)もう嫌です!この4年間、嘘をつかれるのが嫌だった。(英語で)トランプは、人種差別をしてもいいんだ、同性愛者、女性、身体障害者を差別してもOKだという社会にしてしまった。大統領は国民に仕えるべきなのに、優秀な官僚やメディアさえコントロールしようとした。どうしていいか分からないほど、アメリカは恐怖に満ちていた」

「トランプの世界は、白人でストレート(異性愛者)で、金持ちではないとダメで、そうでないと、一枚ずつカードを取られて、どんどん社会の下へ下へと追い込まれていくようなものだった」

「バイデン当選は、涙が出るほど嬉しくて・・・。私たちは、国をまとめて、平和や安定性を取り戻してくれる、包容力のある人物が必要だ」

Jim Bourg / Reuters
メディアがバイデン氏の勝利を報じた直後の、ジョー・バイデン氏と妻のジル・バイデン氏、カマラ・ハリス氏と夫のダグ・エムホフ氏

勝利を確実にする選挙人をバイデンに与えたペンシルベニア州のフィラデルフィア出身、モーラ・オニール(28)は、「ペンシルベニアを誇りに思う!アメリカ人を誇りに思う!」と人々に話しかけていた。

「トランプは、人々を怖がらせ、脅す人物だった。それを私たちは変えなくてはならなかったけど、成し遂げた!バイデンには、やることが山積みだが、アメリカを導いてくれるだろう」(オニール)

「民主主義をやり直す」。 そこにはアメリカ人の誇りがあった

 マイノリティの子供の支援をするNPOで働くジェシー・マクナス(23)は、「デモクラシーで彼らを”つかもう”」という段ボールの看板を掲げ、メディアの注目を受けていた。トランプが2005年、テレビ番組出演前に「女性器を”つかむ”んだ。(金持ちなら女性に)何でもできるんだ」と発言したのをもじっている。発言は、2016年の大統領選挙中に米紙ワシントン・ポストがテープを入手し報じた。

 「トランプの存在は、民主主義に完全に反していた。投票で不正があったから、集計をやめろというけど、すべての票が重要。彼は人種差別主義者だけど、一人一人の命が大事。それこそがアメリカ。私たちは、今こそもう一度民主主義をやり直す。革命を起こす準備はできている!」(マクナス)

 

マスクの上に見える目だけの笑み。はためく星条旗。鳴り止まないクラクション。ダンス。人々はこんなにもトランプから自由になりたかったのか・・・。夜には、近所でヒスパニック系住民が花火を上げ、屋上で開かれている祝宴の声が夜中過ぎまで響いていた。

「息ができない」はジョージ・フロイドだけの言葉ではない。

祝祭の嵐のようなこの数日、ハイライトはテレビ画面の中の一場面だった。

11時25分、「バイデン当確」の画面をMSNBCで見てすぐにCNNに切り替えると、黒人作家ヴァン・ジョーンズが涙をぬぐいながら、こう語っていた。彼はベストセラー作家で、オバマ政権の特別補佐官と有名人である。その証拠に、バイデン当選の瞬間にCNNに出演しているわけだ。

その彼が、涙し、声を詰まらせているのにショックを受けた。

 「多くの苦しんできた人々にとって、(トランプがやってきたことがさらに世の中を苦しくするという)証明となった。“息ができない”というあの言葉。あれはジョージ・フロイドだけのものではない。多くの人々が、息ができないと感じていた。毎日、トランプのツイートを目にして、どう感じていいのかすらわからなくなる」

「店に行くと、人種差別的なことを言うのを恐れていた人たちが、日に日に酷い言葉を浴びせてくる。子どもや妹が、心配でたまらなくなる。妹はウォルマートに行って無事に帰ってこられるのか。何か酷い言葉を浴びせられたりしないか。自分の精神を日々保つことに神経をすり減らしてしまう」

トランプと彼の偏狭な世界から逃れたかったジョーンズを含めた多くの人たちが、涙し喜んでいる。

しかし一方で、逆の立場の人たちもいる。

ジョーンズの隣にいた保守派のコメンテーターが、こう言った。緊張からか、顔が赤くなっていた。 

「あなたたちがこの4年間、どんな思いをしてきたか、よく分かる。分かった。でもこれから、私たちがそういう思いをする番になるかもしれない」

ジョーンズはこう答えた。

「だから、この国にはリセットするべき時が訪れているんだ」

トランプ支持者はこれからもマスクをつけない

ジョーンズが生放送中に流した涙。アメリカの「分断」の深さを思い知らされる瞬間で、CNNスタジオ内は緊張感が張り詰めていた。 

おそらく、アメリカ市民の生活レベルで、「分断」を思い知らされる状況は、バイデン氏が大統領に就任しても確実に続く。トランプ氏の得票率は5割近くあり、彼の支持者はバイデン氏を大統領とは認めないだろう。

これを書いている11月9日、トランプ支持者である家主と賃貸料の交渉をした。

彼女は、トランプ氏が支持しているようにマスクをしていなかった。つまり、トランプ支持者は、バイデン氏が大統領になってもトランプ支持者であり続けるのだ。

ユニオン・スクエアで出会った若者の切実な思いがある一方で、トランプ支持者は今後、バイデン氏が大統領になっても黙っていない。トランプ派、反トランプ派の叫びが続く中、アメリカの民主主義は揉まれている。世界にとって良い方向に向かっているのかはまだ不透明だ。

混戦の末、バイデン氏が勝利を確実にしたアメリカ大統領選。敗北したトランプ氏ですが、前回より多い7000万以上の票を得るという結果になりました。これが意味することは? 選挙が終わってもアメリカ社会の「分断」は残り続けるのか?

#ハフライブ では、日本から大統領選に在外投票したモーリー・ロバートソンさんらを迎え、「トランプ支持者の“心の中“と分断社会のこれから」をテーマに議論しました。(生配信日:2020年11月5日)

番組アーカイブはこちら⇨https://youtu.be/iqjG-xll4j8