「タイパ重視」の若者に支持されるポッドキャスト。草分け・朝日新聞でも

発信者と受信者が「ともにつくる」メディアの未来とは?

スマホやパソコンの画面を見つめる時間が長い現代。新聞離れやテレビ離れが進み、ネットで手軽にニュース記事を読むことも一般的になった。

しかし、Z世代とも分類される筆者の周辺では「画面の見過ぎで目が疲れた」「テレビと違って文字を読まなくてはいけないので、『ながら作業』ができない」という悩みの声も聞こえてくる。

動画コンテンツの視聴が一般的になった今、スクリーンタイムを少しでも短くして、好きな映画やドラマの視聴を優先したいと考えている人は、年代を問わず多いのではないだろうか。

また、Z世代を中心に広がる「タイパ(タイムパフォーマンス)」の観点から考えると、並行して他の作業ができない「読む」というアクションそのものが、効率の悪い「手間」なのかもしれない。

TikTokの約2倍?!ニュースやコンテンツを“聞く時代”へ

そこで近年、若者を中心に人気を獲得しつつあるのが、ポッドキャストなどの音声コンテンツだ。

アメリカでポッドキャストが伸びているというのは聞いていたが、日本でも最近その傾向にあるらしい。

デジタル音声広告のオトナルと朝日新聞社による利用実態調査によれば、ポッドキャストの国内ユーザー数は1680万人にものぼり、そのうち28.1%が15歳〜29歳の若年層だそうだ。国内での総利用率はTikTokの1.9倍にもなるというから驚きだ。

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オトナル・朝日新聞社調べ

音楽のように手軽でありながら、現代人の悩みの種である「目の酷使」と「タイパ問題」の両方に応えるポッドキャスト。ニュースをはじめ、教育やエンタメなどの各方面から続々とコンテンツが誕生している。

ラジオと違い、アーカイブを後から聞くこともでき、一時停止や巻き戻しも可能。手軽さと柔軟さの両方を兼ね備えているのも魅力だ。「読む文化」の中枢を成す新聞社も、斬新な音声コンテンツを打ち出している。

例えば、ニュース部門では草分け的存在、朝日新聞ポッドキャストの番組の一つ「MEDIA TALK」では、「メディアのいまと未来について、じっくりと言葉を交わす」をテーマに会話をするコンテンツが話題を呼んでいる。

テーマの内訳は多岐に渡り、「『言論の自由』は当たり前ではない。36年前のあの事件から考え続けた」(2023年4月28日配信)というエピソードを聞いた筆者は、日本における言論の自由の歴史やSNS時代のリテラシー能力の大切さを改めて考えさせられた。

また、より身近に感じやすいコンテンツも充実しており「デートで観たタイタニック、彼女との温度差 自分を責めないで」(2023年6月12日配信)では、「他人に相談できない男性が多いのは『男性は弱音を吐いてはいけないってスティグマがあるから』って言われるけど、実際そうなの?」という問いを立て、男性性について議論される。

新聞で書かれることはなさそうな意見も飛び交い、その内容に「確かに」と頷いたり、デリケートな話題にも切り込む斬新さに驚いたりもした。

最も多くのエピソードで聞き手となり、時に話し手にもなるのは、朝日新聞の記者として活躍してきた神田大介さん。2020年からコンテンツ編成本部の音声ディレクターとして、「朝日新聞ポッドキャスト」のチーフパーソナリティを務めている。話の随所に出てくる記者ならではのエピソードも、ニュースの裏側をのぞいているようでつい聴き入ってしまう。

ポッドキャスト収録の様子。
ポッドキャスト収録の様子。
朝日新聞社

メディアと聞くと、情報を発信する側と、それを受け取る側という一方通行のコミュニケーションが思い浮かぶ。しかし、音声コンテンツのリスナーは新聞の読者と比べアクティブな反応を示す人が多く、リアルイベントの開催にも発展しているという。また「そこでリスナー同士の交流が生まれることも魅力」だと神田さんは話す。

新聞やネット記事のように文字制限がないため、内容を深掘りできるのも、音声コンテンツのメリットだ。

メディアの「中の人」たちによって、「メディアのあり方」が話されていることもリスナーには新鮮で、朝日新聞社が掲げる「ともに考え、ともにつくる」を体現したコンテンツになっているようだ。

ながら聴きができて、わかりやすさに頼らず伝えられるポッドキャストは、これからの会話型メディアをつくる大きな鍵になるのかもしれない。

通勤や散歩などの時間に、ぜひ「ながら聴き」してみようと思う。

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