インフルエンザや新型コロナなどの蔓延により、感染症対策がより身近な存在となった昨今、感染対策と並んで免疫力の向上にも大きな注目が集まっている。
キリンホールディングスと花王は、生活習慣や内臓脂肪、そして血液中の免疫機能(pDC活性)を研究・解析する「わかやまプロモーションスタディ」に参画し、2022年11月から内臓脂肪と免疫の関係性についての共同研究を実施してきた。
内臓脂肪と免疫、一見すると特に関係性のないことのように思えるが、果たしてどのような研究成果が得られたのだろうか。11月下旬、キリンと花王による共同研究成果発表会に足を運び、その詳細を聞いた。
鍵を握る「素晴らしいディレクター」のような細胞
「わかやまプロモーションスタディ」は、和歌山県立医科大学が主宰し、NPO法人ヘルスプロモーション研究センターがとりまとめる研究だ。和歌山県内の5つの市町村に住む40歳以上の地域住民223人を対象に特定診断を実施し、生活習慣や内臓脂肪、そして血液中の免疫機能(pDC活性)を研究・解析したという。
キリンホールディングス執行役員で、ヘルスサイエンス研究所長の藤原大輔さんは、共同研究の背景について「内臓脂肪は多くの人が抱えている課題ですし、ずっと注目してきた分野でした。そこで『(内臓脂肪について)一番知っているベストパートナー』は花王さんだと思い、共同研究に至りました」と話した。
研究の鍵を握るpDCについて、藤原さんは「ウイルスに対する戦いのディレクションをする免疫細胞」と説明。ディレクションのみならず、pDC細胞自体がウイルスと戦うことも特徴だと続け、会場のスクリーンにpDCがインフルエンザのウイルスと実際に戦う様子を映し出した。「pDCは机に座ってるだけじゃない、素晴らしいディレクターなんです」。
罹患リスクは20倍?!内臓脂肪と免疫力の関係
同研究の結果、内臓脂肪が少ない人に比べて、多い人は30%もpDC活性が低いことがわかったという。また、内臓脂肪が低い人に比べて、高い人は慢性炎症のリスクが4倍という結果も得られたという。
30年以上にわたって内臓脂肪の研究をしてきた花王からは、ヘルス&ウェルネス研究所 特定テーマリーダー 大里直樹さんが登壇。内臓脂肪の過剰な蓄積が様々な健康被害を引き起こす「メタボリックドミノ」について言及し、「目に見えるものではないので、まず個人が自分の状態を知ることが大切です」と説明した。
さらに研究では、pDC活性が低い人が新型コロナに罹患するリスクは高い人の5倍、内臓脂肪面積が大きい人がコロナに罹患するリスクは小さい人の7倍という結果も得られたという。また、pDC活性と内臓脂肪面積の両方が健全な状態の人と、両方の状態が悪い人とでは、新型コロナに罹患するリスクが20倍、新型コロナとインフルエンザに罹患するリスクは19倍だという。
大里さんは、「感染症と内臓脂肪の両方に働きかけることが大切と考えます」と発表を締め括った。
行事の多い年末年始、エビデンスに基づいた免疫対策を
研究結果の発表後、日本医科大学 個別化教育推進部門 部門長 特任教授の北村義浩さんが登壇し、今冬の免疫対策について語った。
北村さんは、pDC活性が健全な状態であれば、ウイルス感染症を攻撃・排除できると話し、さらにpDC活性が健全か否かで「ちょっとした風邪に終わるか、3、4日休む事態になるかを左右する」と説明した。
また、免疫力を上げる方法については「科学的に『やっちゃいけないこと』として証明されていることはありますが、『これを食べましょう』というようなエビデンスはあまりないのが現状です」と続け、誤った情報に左右されずエビデンスに基づいた選択をするよう呼びかけた。
「適切な休養や睡眠、適度な運動、バランスの取れた食事など、エビデンスが揃っていることを実践しましょう」