2021年10月05日 10時01分 JST | 更新 2021年10月05日 10時01分 JST

その「おいしい」を、未来につなげるために。“非常事態”の地球を救う、新たな消費のあり方とは

「食」のサステナビリティに関するオンライントークイベント『サステナビリティは企業変革のチャンス』が開催されました。

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あふの環(わ)2030プロジェクト~食と農林水産業のサステナビリティを考える~」(以下「あふの環プロジェクト」)は、2030年のSDGs達成を目指し、今だけでなく次の世代も豊かに暮らせる未来を創るべく立ち上げられたプロジェクトです。 

130の企業・団体等の参画メンバー(2021年9月時点)とともに、生産から消費までのステークホルダーの連携を促進し、食料や農林水産業に係る持続的な生産消費を達成することを目指します。  

「あふの環プロジェクト」の活動の一環として、9月22日にオンライントークイベント『サステナビリティは企業変革のチャンス』が開催されました。 
地球上では、人類史上これまでにないスピードで生物多様性が失われており、多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。食料供給のための森林伐採に代表される環境負荷も要因の一つと言われています。

また、食品ロスは世界で毎年13億トン、日本だけでも毎年 600 万トン(東京ドーム 5 杯分) も生じており、多くの食品が捨てられている状況を変 えなければ、食のサステナビリティは実現できません。 

こうした現状を踏まえ、これからの生産、消費のシステムを変えていくためのアクションについて話し合うべく、学生から社会人までの若い世代が集まりました。

 

サステナウィークに「小さな一歩」を踏み出そう

同プロジェクトは、第76回国連総会が開催される2021年9月18日から28日を「サステナウィーク」とし、サステナブルな買い物の体験ができるイベント『選ぶ、食べる、サステナブル展』(ITOCHU SDGs STUDIOで10月10日まで開催)をはじめ、消費者が「小さな一歩」を踏み出すきっかけ作りに取り組んできました。

その一つ、農林水産省主催のトークイベント『サステナビリティは企業変革のチャンス』には、環境や社会課題の解決に向け積極的に取り組む国内企業や団体から7名が出演。食のサステナビリティ実現に向け、企業への期待や、一人ひとりが実行できるアクションについて話し合いがおこなわれました。

農林水産省提供
トークイベントに登壇した皆さんと、ファシリテーターの夫馬賢治さん
<参加者>
コーディネーター:
本多 俊一さん(国連環境計画UNEP)

ファシリテーター:
夫馬 賢治さん(株式会社ニューラル) 

登壇者:
小野 真義さん(株式会社セブン&アイ・ホールディングス 経営推進本部サステナビリティ推進部)
横澤 友紀さん(楽天グループ株式会社 農業事業部事業企画課)
東海林 園子さん(オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部新規事業開発準備室 グリーンプロジェクトリーダー)
黒瀬 陽さん(青年環境NGO Climate Youth Japan / 大学在学中)
平澤 拓海さん(青年環境NGO Climate Youth Japan / 大学在学中)

司会:
古田 恭子(農林水産省 大臣官房環境バイオマス政策課地球環境対策室) 

人間の営みにより、地球はすでに“非常事態”

イベントは、UNEPの本多さんによる講演からスタート。本多さんは、「今この瞬間に世界で起きている環境危機」をテーマに、私たちが直面している現状と、食による影響について説明しました。

「サステナビリティ実現への一歩目は、人間活動が地球に与えている影響を理解することです。

今、私たちが直面する三大危機、気候・自然・汚染。その規模は、地球の許容範囲をはるかに超えており、すでに非常事態です。そう遠くない未来に、限界点を迎えると言われています。人間の営みにより発生し、拡大し続けるこれらの危機は、とりわけ“食”による影響も大きく、今、サステナブルな食の生産、消費について考えることは、私たちの暮らしを守るために必要不可欠と言えます」

イベント配信映像より
国連環境計画の本多 俊一さん

食料を供給する農林業からの温室効果ガスの排出は世界全体の4分の1に上ります。一方で、世界全体では日常生活によって発生する一般廃棄物のうち、およそ62%を食品廃棄物が占めているというデータがあります。この数字だけでも、環境問題、気候変動における食の影響はとても大きいことがわかります。

本多さんは「人間が自然に与える影響は、想像している以上に大きいもの。言い換えれば、買い物、食事といった日々の行動をきっかけに、地球の危機に関心を持つことができる」と呼びかけました。

続くパネルディスカッションでは夫馬さんがファシリテーターを務め、小野さん、横澤さん、東海林さんは生産、流通、販売を担う企業の立場から、黒瀬さん、平澤さんはZ世代の消費者を代表して、食のサステナビリティ実現に向けて意見を交わしました。

「一人ひとりの消費は、想像以上に大きな影響力を持つ」

イベント配信映像より
青年環境NGO Climate Youth Japanの黒瀬 陽さん

有機農業が盛んな京都市左京区で暮らすClimate Youth Japan(以下、CYJ)の黒瀬さんは、幼少期から関心を持っていた「食」について調べる中で、さまざまな社会問題への影響を知ったと話します。

商品の選び方一つで、気候変動に加担してしまう。地球上では、その影響で貧困に陥ったり、住まいを奪われたり、生活もままならない人がいます。一人ひとりの消費が、想像以上に大きな影響力を持つことを知ったからこそ、道徳的、倫理的な経済システムが必要だと感じるようになりました。そこを実現していければというのが、CYJの目標です」 

黒瀬さんは、「安く、見た目が良く、手をかけずに食べられるもの」を選ぶ流通消費の傾向が経済システムを変える上で障壁になっていることを挙げ、次のように提言しました。

「企業には、消費の背景にある問題にも目を向けてほしいです。僕たち若者世代の中には、経済的あるいは時間的余裕のなさからエシカルな消費ができない、やりたくてもやれないという人がたくさんいます。例えば、大学の学費負担を抑える、アルバイトの最低賃金を上げるなど経済的環境の改善があれば、消費も大きく変わると思うんです」

「消費のあり方を変えるのは、“分断”の解消」

イベント配信映像より
楽天グループ株式会社の横澤 友紀さん

楽天が国内自社農場で育てた有機野菜を生産・販売する「楽天ファーム」を手がける同社の横澤さんは、市場の変化について語ります。

「SDGsによる意識変化で、有機野菜の認知度、必要性も年々高まっています。日本で“ほそぼそ”続いてきたこの業界にとって、農水省が打ち出した、2050年までに有機農業を農地全体の25%にまで拡大するという施策(=みどりの食料システム戦略)には背中を押されました」

有機野菜を誰でも手に入れられるよう、楽天市場での販売、定期宅配などさまざまなサービスを展開する同社。流通の拡大、改善に加えて取り組んでいるのが、「情報発信」の強化です。 

「黒瀬さんの話にもあった通り、食べ物を選ぶ時、多くの人が値段を一番に考えます。有機は虫や草との闘いで、物流コストも課題であり、値段が高いのは事実ですが、これは作り手と買い手の分断の問題でもあります。まずは生産者と消費者の分断の解消が重要ではないでしょうか。

食べる側は栄養、味を左右する生産過程を理解することで、納得して対価を支払うことができる。生産者、消費者の距離を縮めることも、企業として大切な役割だと考えています」 

「目指す方向は同じ。手を取り合い、ともに発信していく」

イベント配信映像より
株式会社セブン&アイ・ホールディングスの小野 真義さん

セブン&アイ・ホールディングスの小野さんは、同社の広いサプライチェーンを活用し、グループ全体で取り組む施策を紹介。プラスチック、食品ロス、CO2の削減に加え、4つ目の目標として2050年までにプライベートブランドの食品原材料を、全て持続可能性が担保された材料にすることを掲げる環境宣言「GREEN CHALLENGE 2050」を2019年に公表するなど、先進的なアプローチを続けています。 

「弊社の商品はトレーサビリティが取れる仕組みの整備に努めています。「顔が見える食品。」では、QRコードなどで消費者が“選ぶ”ための情報を提供しています。そのほかにも、規格外の商品をお得に販売したり、加工して使ったり、食品廃棄物をなくす取り組みも進んでいます。消費者からは前向きな声が上がっており、確かな手応えを感じています」

生産から製造、販売までに携わる同社ならではの取り組みが進む一方、消費者を「巻き込む」取り組みが重要になる。

トレーサビリティも規格外商品の活用も、消費者への認知がまだまだ広がっていないことが課題。世の中が目指す方向は同じだと思うので、立場を越えてパートナーとして手を取り合っていくこと、ともに発信していくことが必要だと感じています」  

「価値に気づいてもらい、ムダをなくしてきっかけを生む」

イベント配信映像より
オイシックス・ラ・大地株式会社の東海林 園子さん

有機や特別栽培野菜など安全性や環境に配慮した食品宅配を展開するオイシックス・ラ・大地の東海林さんは「消費者と生産者の分断という問題は、多くの企業が抱えていると思いますが、当社のサプライチェーンには、その“分断”が最初から存在していません。だからこそ、その先の“価値編集”をすることが我々の大切な役割だと思っています」と話します。

同社は規格外品の個性を伝え、食卓に取り入れてもらうこと、最近ではアップサイクルにも積極的に取り組んでいます。冷凍食品など加工品を作る過程で廃棄されていた部位を新たな商品に活用することで、ムダをなくすと同時に「きっかけ」を生むことができると言います。

イベント配信映像より

「オイシックスのミールキットは食材を買い集める必要がありません。結果として余計な食品を買うことがなくなり、食品ロスの削減にもつながっています。お客さまや地球の課題に向き合って生まれたサービスを『便利だから』『おいしいから』と使い続けてもらうことで、食への関心が深まり、健康や環境に与える影響にも目が向くようになり、サステナブルな選択をすることができると考えます。

その“選択”をしてくれるお客さまを増やすために、食べることを楽しいと思ってもらえるきっかけになる商品、サービスを提供していきたいです」

「輸入大国だからこそ、大きなインパクトを生み出せる」

イベント配信映像より
青年環境NGO Climate Youth Japanの平澤 拓海さん

COP25(国連気候変動枠組条約第25回締約国会議)に参加した平澤さんは、世界と比較した日本のサステナビリティについて考えを述べました。

「世界ではSDGsへの意識が日に日に高まっていますが、それが大多数というわけではありません。課題意識を持ってもらうための一つ目のステップとして、“食”というテーマはぴったり。食料輸入大国である日本の食を見直すことは、環境負荷削減の大きなインパクトにつながるはずです。

また、日本は古来、自然との共生という価値観が強く根付いてきた土地でもあります。今、私たちは自然に生かされていることを改めて考えるべき時代だからこそ、日本企業が発信できること、取り組めることも多いのではないでしょうか」 

この日、さまざまな企業の取り組みを聞き、平澤さんは新たな視点も得たそうです。

今までは生産者側の努力に頼る部分が大きかったですが、これからは消費者側も変わらなければいけない。

例えば、有機農業の大変さを知り、価値を理解すれば価格が高くても買ってみようと思う。サステナビリティを体験することが、消費者、生産者、企業の交流が広がっていくきっかけとなるのではないでしょうか」

平澤さんの発表を受け、ファシリテーターの夫馬さんは「どの状態であれば、どこまで取り組めばサステナブルだと言えるのか、企業は模索しているフェーズ。NGOなどのステークホルダーとも一緒に話し合うことのできる場が、今後ますます重要になってくるでしょう」と問題提起しました。

イベント配信映像より
ファシリテーターを務めた、株式会社ニューラルの夫馬 賢治さん

最後に、本多さんは「生産者と消費者は、お互いの思い、目的、ニーズを分かっているようで分かっていないんです。その接点になれるのが企業。三者が手を取り合って“環(わ)”になることこそ、サステナビリティ推進のカギだと思います」とイベントを締めくくりました。 

◇◇◇

食品や農林水産物の持続的な生産消費は、企業の努力で解決することは困難です。それぞれの強みを組み合わせながら、社会全体で進めていく必要があります。 

「あふの環プロジェクト」は2030年のSDGs達成に向けて、ステークホルダーの連携を推進していきます。