WOMAN
2020年04月24日 07時32分 JST

生き方の「正解」を探し、息を吐くように自虐を言う。結婚にとらわれていた漫画家が気づいたこと

新刊「オンエアできない!Deep」を出版した漫画家の真船佳奈さん。なぜ自身が「結婚」にとらわれ、恋愛が苦しく、自虐を続けてきたのか…考えるようになったきっかけがあるという。

2017年、現役テレビ局員が、テレビ局で働くAD(アシスタント・ディレクター)の懸命に働く姿をコミカルに描いた漫画「オンエアできない!〜女ADまふねこ(23)、テレビ番組つくってます〜」を出版した。作者は真船佳奈さんだ。

主人公「まふねこ」はネコのキャラクターで、テレビ局で起こる珍事や不条理に心の中で突っ込みながら、懸命に働く。3月に、続編となる「オンエアできない!Deep」(朝日新聞出版)が出版された。

「Deep」のまふねこは、同級生たちが結婚や子育てをしていることをSNSで見て、自分と比べて落ち込むことも…。

他人と自分を比べては焦り、「正解」を求めて右往左往するのは私たちの中にも覚えがある感情だと思う。

実は、このエピソードは真船さん自身の姿なのだという。しかし真船さんは最近、ある変化から、自身がなぜ「結婚」にとらわれているか、恋愛が苦しいのか、自虐を続けてきたのかを考えるようになった。

「身を守るすべだった自虐を、もうやめたい」と考えるようになったという真船さんと、私たちは何に縛られているのか、考えてみたーー。

本人提供
真船佳奈さん

<真船佳奈(まふね・かな)さん>

2012年、テレビ東京入社。2014年、制作現場に異動しADに。ディレクターを経て、現在はBSテレ東編成局に出向中。漫画家・ライターとしても活動している。Twitter(@mafune_kana)、Instagram(mafunekana)。

 

 

主人公が息を吐くように自虐を言うのは、私自身が自虐をしてきたから

真船佳奈「オンエアできない!Deep」(朝日新聞出版)より

《「Deep」は、まふねこがSNSで友人たちの結婚や子育てについての投稿を見て、「あれ?私彼氏もいないし…」「こんなはずじゃなかった」とショックを受けるシーンから始まる》

これは、私のめちゃめちゃリアルな感情なんですよね。

高校生の頃にmixiブームが始まって以来、ずっと SNSと共に生きてきた世代です。就職してからの数年は、友人たちの「結婚した」という投稿を見ても「私は仕事が楽しいから、まだ…」と思っていたんですけど、だんだん「2人目が生まれた」とかいう投稿が目に入るようになると、仕事ばかりしている自分が世間から離れていくような焦りを感じるようになりました。

制作現場で働いていた時に、朝、会社で目を覚まして、「あ、今日ゴールデンウィークの初日だ」と気づいて、慌ててマッチングアプリで3人の男性と連絡をとり、連続デートをした日もありました(笑)。「置いていかれる」のが怖かった。

主人公のまふねこが、息を吐くように自虐を言うのは、私自身がずっと自虐をしてきたからなんです。もちろん作品として、極限状態に追い詰められた主人公がアホなことをしちゃう感じを描いて、楽しんでもらえたらという狙いはありますが、自分を主人公のモデルにしたら、こういうキャラになったというのはありますね。自分にとって自虐は「生きるすべ」だったんです。

 

「どう生きて行くのが正解なんだろう」と考えた

本人提供
制作現場で働いていた頃の真船さん

《真船さんは福島県出身で、東京都内の高校に進学したころから、「周りの目」が気になるようになっていったという》

地元ではどちらかと言うと「リーダーキャラ」で、小学校と中学校では生徒会長もやりました。今の自分からは想像もできないのですが、当時は「しっかりしてるね」って言われる存在だったんですよ。

高校は県外受験をし、都内の女子校に進学したのですが、中高一貫校だったのもあり、地方から来た自分が馴染めるのか不安でした。「人にどう思われているんだろう」「『ノリ悪い』って思われてないかな」と怖かったし、人のことをイジって傷つけて「悪者」になるのも恐ろしかった。

「どう生きて行くのが正解なんだろう」と考えた結果、「バカをやれば楽しいし、周りからも嫌われないだろう」と思いました。「自虐」をしていれば、誰のことも傷つけないし、自分も傷つかないと思っていたんです。

会社に入ってからも「プライドが高い」「面白くない」と言われるのが怖くて、自虐を続けていました。というか、意識して自虐をする必要がないほど、ADの仕事ができなかったというのもありますが…(笑)。

 

自虐は自分のことを犠牲にしている、だけ?

真船佳奈「オンエアできない!Deep」(朝日新聞出版)より
主人公まふねこ(右上)は失敗をしては、鬼河原ディレクター(左上)に怒られる。ちなみに鬼河原さんは実は面倒見がよい。

《自虐をすれば「人も自分も傷つけない」と思ってきたという。しかし最近、その考えに「違うんじゃないか?」と疑問を持つようになった。きっかけは2019年末に結婚したことだったという》

漫画やエッセイでも、自虐キャラで通してきたのですが、結婚をしたことで気が付いたことがありました。

自虐する作風上、どうしても夫のことも「下げて」書かないと作品の辻褄が合わないんですよ。自虐って自分のことを犠牲にしているだけだと思っていたんですけど、周りの人や、その人と共有した楽しく幸せな時間のことも「下げて」いるんじゃないかと気になるようになりました。

物書きの端くれとして、読んでくれた方に「『女性は自虐で笑いを取る』。そういう態度が『正解』だ」と思わせるのはよくないんじゃないかと考えるようになりました。「オンエアできない!」は、主人公が猫のギャグ漫画なので、「これが正しい女性の生き方」と思う方はいないとは思うのですが、エッセイを書く時には特に気をつけるようになりました。

自虐はコミュニケーションの潤滑剤になることもありますし、それ自体が悪いということではないのですが、物作りをする人として、気をつけなくてはいけないと思ったんです。

 

「『当然のように語られている方』に行って、楽になりたい」

本人提供
制作現場で働いていた頃の真船さん(中央)

《自虐をし、周りと自分を比べ、「結婚しなきゃ」という考えにとらわれてきたという真船さん。一方で、「本当の自分」で恋愛することもまた、難しいことだった》

学校という同じ環境で生きてきた友人たちの生活環境が変わるのをSNSで見るたびに、「私は『正解』に入れているかな?」って比べていました。「正解に入ってないといけない」というコンプレックスですね。

私は、「結婚をして子どもを産むのが正しい人生」という考えじゃないんですよ。でも、親や上の世代から「結婚しろ」「子どもは産んだ方がいい」と聞かされてきたので、その考えが正しい・間違っているとかじゃなくて…「『当然のように語られている方』に行って、楽になりたい」「それが正解なんだろう」という思いがありました。

そういう訳で、街コンに行ったり、マッチングアプリを使ったり、出会いを求めてきたのですが、一方で「『本当の私』を出したら、振られちゃう」というのも、ずっと思っていました。

出会いの場で色んな男性とお話ししてみると…なんと言うか…思っていた以上に、「家のことを全部やってくれて、自分を立ててくれる女性と結婚したい」みたいな考えを持っている人が多い印象がありました。もちろん人にもよりますし、そういう考えの方を否定するわけではありません。

ただ、そういう感触だったので、「エッセイを書いている」「(報道機関でもある)テレビ局で働いている」と言ったら、「『主張する女性』はお断り」って言われるんじゃないかという怖さがあって。「デートの時は別の人になる」と切り替えて、ネットで見た「聞き上手がモテる」を信じて、キャラを変えていました。仕事の内容も隠したりしていましたね。

学生時代から「自虐するアホなキャラ」でやってきたので、飲み会ではどちらかと言うと「盛り上げるタイプ」なんです。なので、聞き役に回るのが辛くて…。でも、積極的に笑いを取りに行くようなことを言っても引かれてしまうだろうなと思って、我慢していました。家に帰るとぐったりですよ。

 

「自分のままでいい」と思ったきっかけ

そんな婚活の中で、マッチングアプリで出会ったある男性と何度かデートを続けていました。インスタにおしゃれな投稿をする方だったので、私もそんな雰囲気に合わせようと努力していたのですが、「価値観が合わない」と言われて振られてしまいまして。

落ち込んでスナックで飲んでいたら酔っ払ってしまい、気づいたらカウンターで犬の真似を披露していました(笑)。「キャンキャン!」みたいな可愛い犬じゃないですよ、本格的なセントバーナードの真似です。それを面白がって話しかけてきたのが今の夫でした。

最初に最も見せたくない泥酔姿を見せてしまったので、「この人なら大丈夫かな」と思って、その時に交換していたLINEに、自分が思いっきり好き放題書いたエッセイを送ってみました。そうしたら、「最高」と返事が来たんです。

私は、傷つきたくなくて自虐を自分を守るフィルターにしてきました。恋愛でも傷つかないように演技をしてきた。なので、この瞬間は、私の人生にとっては発見だったんです。「いいのか、自分のままで」と。

 

「結婚しなきゃ」って思っていたのはなぜだろう、と考えた

Chantapa via Getty Images
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《この「発見」は、真船さんの社会に対する「目線」も変えたという》

そこから、恋愛やジェンダーに対する「見方」がめちゃくちゃ変わりました。

子どものころ読んだ童話では、恋愛の選択肢は男性にあることが多かった。女性は綺麗にして、迎えにきてくれるのを待っている。小さいころからの洗脳みたいなものが、自分の中に巣食っていたことに気がつきました。

「結婚しなきゃいけない」ってずっと思っていたのも、なぜだろう、と。「結婚するのが普通」「それが正解」と思っていたのも、刷り込みだと気が付いた。

結婚して私は幸せだけど、「これが全ての人にとっての正解」だとは思っていません。結婚という制度で幸せになったんじゃない。理解者と出会えたことが幸せなんです。それは異性でなくてもいいし、夫婦や家族であるべき、ということじゃない。

自分の発信を通じて、人に「幸せの尺度」を当てはめるようなことは絶対にしたくないと思っています。

 

テレビにおける「女性」についても、気づいたことがあった

《自身が大好きで見続け、働く場所ともなった「テレビ」においても、女性をめぐる環境について気づいたことがあったという》

テレビは、「『かわいい女の子』をアイキャッチに」「女性芸人はモテないキャラに」みたいな演出を、ずっとしてきた。私は、それを当たり前に見てきた世代で、自分が自虐で笑いを取ろうとすることに、テレビの影響があることにも気がつきました。今は制作現場を離れていますが、テレビ局で働く一人として、気をつけていかなければいけないと思っています。

働く場としても考えることがありました。女性制作者が「女同士のドロドロ描きます」みたいな企画を提案することが、少し前まで割とあったし、私も積極的にそういう企画書を書いていました。それって、男性が多い制作現場において、男性が思い込んでいる「女同士ってドロドロなんでしょ」みたいな目線に、女性が合わせていたんだと思います。そうすることで私は、男性が多い職場で認められようとしていたんだと思います。時代が変わり、個人それぞれの考えも少しずつ変わってきていると感じますし、テレビも変わり続けて行かないといけないと考えています。

 

副業で世界が広がり、生きやすくなった

真船佳奈「オンエアできない!Deep」(朝日新聞出版)より
「オンエアできない!Deep」ではテレビで働く、様々な職場の人も描いた。右上の男性は編成部で働いている。

《会社勤めをしながら、漫画家・ライターとしての活動もする真船さん。「副業」があることで、「生きやすくなった」と語る。どういうことなのか。今後の目標も聞いた》

本を2冊出させていただきましたが、「テレ東社員」という肩書きで手にとってもらえた部分が大きいと思います。これからも面白いコンテンツを作る努力を続けて、「テレ東の真船」じゃなくて「真船佳奈」として選んでもらえるように頑張っていきたいです。美容オタクなので、美容漫画とかもやってみたいですね。私は副業によってすごく世界が広がって、生きやすくなりました。自分が「おもしろいな」と思うことを続けて、「副業の次のステップ」に進みたいです。

前作はADの世界を中心に描いたので、「Deep」では、テレビはチームワークで成り立っていることや、テレビを支えている様々な職場の人たちの物語を描きました。

なので、テレビ業界に関心のある方に限らず、働く皆さんに手に取っていただきたいですね。主人公の「本音」が漏れていて、気持ちのいいキャラになっていると思いますので、仕事で言いたいことが言えなくて「大変だ〜」ってなっている時に読んで欲しいです(笑)。

真船佳奈「オンエアできない!Deep」(朝日新聞出版)