再生可能エネルギー「前のめり」への疑問

原発事故後、再生エネへの期待は大きいが、太陽光パネルなどの設置をめぐって各地でトラブルが頻発している。

森林文化協会には、森林環境研究会という専門委員会があり、調査・研究に関わる活動をしています。この投稿は、研究会幹事の伊藤智章・朝日新聞編集委員からのものです。

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各地で再生可能エネルギーの設置をめぐり、トラブルが頻発している。2011年3月の原発事故の後、再生エネへの期待は大きいが、現場をみれば、首をかしげたくなることが少なくない。政府はアセス短縮化などで普及を後押しするというが、住民合意なき設置は禍根を残す。

市の中止勧告を無視してメガソーラー設置

名古屋市を拠点に取材する私にとって、2016年2月に報じた愛知県瀬戸市の愛知万博会場隣接地の太陽光パネル設置問題は、衝撃的だった。

現場は、「海上(かい・しょ)の森」といい、名古屋市中心部から西へ10数キロ。都心に近いのに、深い森が残り、シデコブシなど希少植物があり、オオタカが営巣する。砂防池には枯死した木があり、上高地に似た風景から「大正池」と呼ばれる。知る人ぞ知る都市住民の散策路があった。愛知県はここで2005年に万博を開き、跡地を住宅団地にする計画を立てたが、地元ばかりか、海外からも批判されて土壇場で計画を大幅変更。別の場所にメイン会場を移したいわくつきの場所だ。

「森で変なことが起きている」。そんな情報で2016年2月、現場を見に行って驚いた。

そこは、うっそうとした森の一番奥。林がすっかり切り開かれ、2・3ヘクタールの更地が突然出現し、5千枚近い太陽光発電パネルが敷き詰められていた。出力1174キロワットのメガソーラーだった。

海上の森に隣接する林を伐採し設置されていた太陽光発電施設=2016年2月、愛知県瀬戸市海上町
海上の森に隣接する林を伐採し設置されていた太陽光発電施設=2016年2月、愛知県瀬戸市海上町

あたりに人影はない。だが、周囲に金網のフェンスが張られ、「監視カメラ稼働中」の看板まで取り付けてあって、あまりのギャップに言葉を失った。

現場は県の森に隣接する民有林。建設業者が取得し、手っ取り早くもうけようとしたらしい。後でわかったことだが、瀬戸市はさすがに水面下で業者を止めようとしていた。

市土地利用調整条例に基づき、開発申請に対し、「環境万博の理念に合わない」「下流への影響が懸念される」などとして中止勧告していたのだ。

だが、業者は取得した土地を遊ばせておけない。「もともと一部あった資材置き場を広げただけだ」などとして、強引に造成地を広げて設置。県の砂防法や森林法の許可もとっていなかった。朝日新聞で報じると、「明らかな法令違反だ」(大村秀章知事)などと県や市のトップも強い言葉で批判した。遺跡まで壊していたこともわかった。万博計画当時に活動した自然保護愛好家たちが県や市に「完全撤去させろ」と申し入れた。

だが、結局、土地の所有者の意向が強かった。県や市は事後的に調整池などを設置させ、道路も復活させ、施設の3割を撤去させたが、そこまでだった。いまも業者は操業を続けている。それでも現場にいけば、感じることだが、深い森の散策路からのぞく、無機質な太陽光発電装置群は、あまりにそぐわない。

環境省がようやく2018年度、環境影響評価に大規模太陽光発電を含めるべく、検討に乗り出したが、最低限、早く実現してもらいたい。アセスは万全ではないが、瀬戸市でのトラブルも計画段階で、情報が住民に公開されていれば、専門家とともに無秩序な開発を監視、抑制。森も守れたかもしれない。残念だ。

住民を監視する再生エネ会社

2014年7月に報じたのは、岐阜県大垣市で風力発電施設建設をめぐり、中部電力の子会社「シーテック」(名古屋市)が、反対住民らの動向を監視するため、岐阜県警と情報交換していたことも報じた。

計画では同市と隣の関ケ原町の山の尾根に16基、合計最大出力4万8千キロワットの施設を建設するもの。風力発電は大型の羽根を尾根に取り付けるため、山道を大きく広げる。山並みの景観破壊や道路拡張による山崩れの心配、電磁波による健康被害など一部の住民は不安を募らせ、勉強会を企画していた。それをめぐる情報交換だ。

岐阜県警大垣署とのやり取りを記したシーテック社の議事録
岐阜県警大垣署とのやり取りを記したシーテック社の議事録

同社は「議事録」と称し、同署とのやりとりを一問一答の内部記録で残しており、朝日新聞が入手した議事録によると、2013、14年に少なくとも4回、大垣署で両者は面談し、勉強会を計画するなどしている自治会幹部や住職らの動向について協議。「平穏な大垣市を維持したい」として県警側から、反対運動を起こしそうな(この時点では風力発電とは無関係な)大垣市内の住民について、学歴や活動歴、病歴、動向をリークしていた。

警察がなぜ私企業に加担するのか。報じた後、住民は怒った。

住民運動を敵視して情報収集したり、私企業に漏らしたりした県警などの責任を問い、県や国を相手に国家賠償や情報抹消を求める訴訟を起こし、いま、岐阜地裁で弁論が続く。

ただ、警察のあり方とは別に、シーテック社の住民対応も批判されて当然だろう。議事録によれば、表向き、「ご理解願いたい」と低姿勢で地域住民に近づきながら、裏では特定の住民について「何でも反対する」と酷評し、「新しい情報が入り次第、連絡する」と警察と連携していた。地元自治会がこの後、さすがに反対を決議し、事業はストップ。シーテック社は大垣事務所撤退を余儀なくされている。

風力発電用の巨大風車が林立する三重県津市の青山高原=2006年9月撮影
風力発電用の巨大風車が林立する三重県津市の青山高原=2006年9月撮影

現場近くの三重県の青山高原では、日本有数の風力発電施設が集中立地する。山道のカーブを切るごとに出現する巨大な風車は、近未来社会の光景なのかとかつては思ったが、住民監視のうえで築かれる「持続可能な社会」は、グロテスクだ。

アセス強化を

大手電力会社が再生エネを高値で買い取る「固定価格買い取り制度(FIT)」が2012年に導入されてから、再生エネは急速に普及する。国は2030年度には電源のうち2割前後ずつ原発と再生エネでまかなう「長期エネルギー見通し」(2015年)を発表している。ただ、開発は十分な調査と住民同意抜きにすすめられていいことではない。

朝日新聞と一橋大学などが2017年、全国47都道府県と1741市区町村を対象に再生エネの導入状況をアンケートしたら、「景観」「騒音」などを理由にしたトラブルが、解決済みを含めて31道府県(66%)、350市区町村(25%)もあった。今後増加を心配している自治体も多かった。トラブル経験の市区町村は3年前の調査より倍増している。

最近は設置した後、転売していく再生エネ業者も多い。私が愛知県の知多半島で会った太陽光発電のオーナーは、遠隔地から自分の投資物件を見に来た一家だった。草むしりにきた、といい、「アパート経営より堅い」と顔をほころばせて話した。ところが、現場にきたら、すぐ南側の隣接地で小型風力発電施設の工事が始まっていて、びっくり。「日陰になっちゃう」。慌てて仲介業者に電話していた。その太陽光発電施設自体、田んぼや砂浜近くの景観をこわし、近所の住民は顔をしかめていたのだが、今度は自分が被害者になりかけたのだ。

やはり無秩序に立地していい施設ではない。本来なら下水処理場や工場など住民に直接影響しない場所でこそ展開してもらいたい施設だが、現実には休耕田や林地など収益性の低い土地が、ばらばらに開発されている。トラブルを防止するには、先にあげたアセスの拡大強化が望まれる。

ただ、その推進役になるはずの環境省が、この問題では、風力発電のアセス手続きをこれまでの3、4年から半減させるべく、旗をふっているのは解せない。国と自治体が同時に審査したり、調査期間を短縮したりさせ、施設普及に弾みをつけたい、という。だが、例えば希少生物、とりわけ風力発電でよく問題になる猛禽類営巣への影響は、1年で判断できるものではないだろう。大垣市の風力発電トラブルも、2010年にアセス手続きの方法書を県に提出していた。予定地周辺ではクマタカ生息が確認され、知事意見で「猛禽類調査は少なくとも2年」などと要求されているさなかだった。これに「アセス迅速化」が適用され、水面下で警察とともに監視された住民が押し切られていたら、いまごろ尾根に風車が林立していたかもしれない。

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