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2021年04月29日 16時12分 JST | 更新 2021年04月30日 14時26分 JST

「バズる」で幸せは計れない。塩谷舞さんと秋元里奈さんが、生きる支えにしている価値観

ミレニアル世代の二人が感じていること。「裕福度と幸福度は比例しない」(塩谷さん)「規模じゃなくて丁寧な価値を届けたい」(秋元さん)

kazuhiro matsubara

「バズって有名になったり、人よりもお金を儲けることだけが『豊かさ』ではない」

ミレニアル世代の文筆家・塩谷舞さんと、オンライン直売所「食べチョク」代表・秋元里奈さんは口を揃えてそう話す。

Twitterで10.7万人のフォロワーがいて、インフルエンサーとして見られることも多い塩谷さん。

365日間、自社のサービス名が入ったTシャツを着つづける秋元さん。

2人とも最近本を出した。塩谷さんは『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)。秋元さんは『365日 #Tシャツ起業家』(KADOKAWA) だ。

フォロワー、ユーザー、そして今回の出版を機に出会った新しい読者。様々な人たちと向き合うことで、2人が改めて気づいたのは、幸せは計測可能なものの「外に」あるということだ。

(聞き手:竹下隆一郎 ハフポスト日本版編集長)

「何が幸福か?」は、一人ひとりちがう

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塩谷舞:(しおたに・まい)1988年生まれ。大阪府出身。CINRA退社後、独立してWEBメディアの執筆、SNSマーケティングなどに関わり、2017年オピニオンメディア「milieu」を立ち上げる。2021年2月に『ここじゃない世界に行きたかった』を出版。

── 2人は「ミレニアル世代」といわれると思います。上の世代と比べて「幸福」に関する価値観は違うのでしょうか。

塩谷:大前提として、生きていくにはお金が必要ですよね。上京してまもなく、何度も貯金が底をついてしまっていた時期があるのですが、当時は衣食住が乏しくなるにつれて思考回路までもが負のループに入り、とても辛かった。そうした過去があったので、フリーランスになってからは、がむしゃらに「お金、お金」と血眼になり、幸運なことにビジネスも軌道に乗ったんです。新商品を宣伝して、お金を得て、大量のモノを買って、また新商品を宣伝して……と、短期大量消費社会の渦の中に埋もれていました。

でも数年前に環境問題に関心を持つようになってから、物質的な豊かさに伴うゴミの多さにショックを受けてしまいました。それまでは大量消費を促進するような仕事をしていましたが、誰かを騙したり、搾取したり……という脆い構造の上で自分の消費や仕事が成り立っていることに自覚的になると、仕事や生き方の価値観すら変わってきて。そこからは、やっぱり売上で実現できる幸福って頭打ちしてしまうのでは?裕福度と幸福度は比例しないんじゃないか? と考えるようになったんです。

でも、他者からはやっぱり「こうすれば儲かりますよ」「これに出れば知名度が上がりますよ」っていう2点を言われることが多いんですよね。もちろん、それは一つの幸せの尺度だし、親切なアドバイスだから、ありがたく受け止めたい。ただ、誰かの幸せの尺度が自分と同じだと思い込むことって、ときに暴力的だと思うんです。私にとっての幸せの尺度は、とにかく良い文章を書くこと。それが読者に届いて、さらに世の中に広まるっていうことが一番幸せです。

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秋元里奈:(あきもと・りな)1991年生まれ。神奈川県出身。食べチョク代表。DeNA退社後、2016年に農業支援ベンチャー・ビビッドガーデンを創業。翌年にオンライン直売所「食べチョク」を開始する。2021年2月、『365日 #Tシャツ起業家』を出版。

秋元:「起業の目的=お金」というイメージを持つ方がいます。でも、私と同世代の起業家は、どちらかというと社会的な意義というか、社会に貢献したい人が一気に増えたと思いますね。情報を手に入れるためのツールが増えて、いろんな人が幸せに気付きやすくなったり、視野が広がりやすくなったりしたことが背景にあるかもしれません。

塩谷:本当にここ数年で、価値観が大きく変わってきていますよね。20代の起業家の友人の多くが、社会的な理念を掲げて挑戦している姿には、私もかなり影響を受けています。

秋元:世代だけでくくれないものはもちろんあります。実は最近すごく反省したことがあったんです。Clubhouseである生産者さんとお話ししていたときのことです。離島に住んで生産されている方だったんですけど、船が1週間に1便とか2、3日に1便しかない。

生産者として発送するとなると、宅配便が来る日が1週間に1回ぐらいしかないので、「大変ですね」という反応をしたら、来ないからこそ自分の時間がすごく大切にできて、本当にこの暮らしがいいんだっていう話をされて。この方が、自分なりの幸福に向き合っている一方で、私の方が、利便性=良い=幸せと思い込んでいたと、ハッとしたんです。

わかっているつもりだったけど、ステレオタイプな考えに囚われていて、そういうことがあって初めて気付く。生産者さんとの話の中で気付きを得ることが多いんですけど、そこは最近反省しながら。そういう価値観を知れたのも良かったなと。

塩谷:確かに。私は最近、賑やかなブルックリンから郊外のニュージャージーに引っ越したのですが、地下鉄がなく、バスの本数も少ないので、街に出る機会もうんと減りました。そうすると読書や執筆の時間が増えて、とても良かったんです。でも、さすがに1週間に1便の境地はまだ想像できない!

「バズる」より「優しい言葉」を

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── コロナ禍では、ご自身や周りの考え方や価値観に変化はありましたか?

塩谷: ありました!コロナ前までは「この商品を売ってください」とか、「バズらせて欲しいのですが」っていう依頼が多かったのに、コロナ禍に入ってしばらくすると、「優しい言葉を書いてください」っていう依頼が目立ちはじめたんです。私自身もかなり疲れていたので、自分を癒やしていくセラピーのように、文章を書かせてもらう機会が増えていきました。

同時に、読者からの声も変わりました。それまでは「役に立ちました」とか「やる気が出ます」といったものが中心でしたが、「救われました」とか「考えさせられました」というように……。生きる中で、便利なもの、必要なものだけじゃなくて、祈りのような行為ってやっぱり大切なんだなと気づかされました。

秋元:塩谷さんの本は優しさに包まれている感じがしますよね。さっき言っていた「読者の声が変わった」っていうお話を聞いて、(一次産業の)生産者さんのことを考えていました。生産者さんの中でも、商品を買ってくれるお客さんの声をきちんと聞く機会がある人とそうでない人では別の世界を生きているなって思うんです。

自分たちのこだわりに固執せず、「これが良かったからこっちにしよう」と、届けたい人のフィードバックによって変えられることができている人とそうではない人では、長期的に見たら大きな差がついてしまうのではないかと考えています。

 売れたことよりもつながれたことに、感謝された

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塩谷:使ってくれる人の反応によって、提供側が仕組みや商品を臨機応変に変えていくことって秋元さんが前に携わっていたゲーム業界とかでは当たり前のことじゃないですか。でも、そもそも、お客さんの反応や声を知る機会がない人、仕組みとしてそれが不可能な人もいるって言うのは盲点ですよね。

秋元:びっくりしましたね。サービスを始めたとき、「生産者さん、商品がたくさん売れたら喜ぶだろうな?」と思っていたら、売れた感謝よりも、つながれた感謝を話す人が圧倒的に多くて。

つながることって当たり前だと思っていたけど実はそうじゃなかった。価値を届ける相手の声がまっすぐ聞こえてこない人もいるんだなと。これからの時代はますます「この人のものを買いたい」、「この人のものを読みたい」みたいに結局指名買いになっていくから、その声が聞こえるか聞こえないかっていうのは大事だと思います。

塩谷:それを経営者としてちゃんと気付けて、実感できる秋元さんは、ものすごく心が開かれてるな、と感じます。人によって幸せの尺度が違うということを、ちゃんと自覚されている。

秋元:ただ無機質に規模を大きくすることは誰かがやってくれると思うんです。それなら私達じゃなくていいじゃんっていうある種の「あきらめ」があったりとかして。もちろん私たちも規模を大きくするために頑張っていますが、私達にしかできない丁寧な価値というか定性的な価値を届けること。私達の存在意義はそこなんだなと感じています。

 「奪う」のではなく「共存」。新たな価値観を伝えていきたい

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── 秋元さんがおっしゃった「丁寧な価値を届ける」、とは具体的にはどういうことでしょう?


秋元:生産者さんたち、本当に皆さんとても素敵な思想をお持ちですけど、それが単純に伝えられていないんです。だけど、その考えがきちんと知られたら、もっと(食を通じて)環境問題などに興味を持つ人は増えるのではないかと考えています。

たとえばちょうどこの前話していたのは牡蠣の漁師さん。以前は同業者の中でのパイの奪い合いという意識も本人にあり、狭い場所に密集してたくさん牡蠣を養殖していたそうです。そのためか分かりませんが、1個1個がすごく小さく痩せ細っちゃっていくように感じたらしいのです。

今は地域が一丸となり特定のエリアでの養殖数を制限しているらしいのですが、1個がすごく大きくなって、結果的に全体の利益が上がったと言います。

「奪うという意識ではなく、自然と調和して生きる価値観に変わりましたね」って言ってて。自然と対話し、過剰ではない生産を目指すことで、結果として、より価値のある商品を消費者にも届けることができる。この場合は利益もあがったわけです。

自然と対峙しているからこその価値観の変化とか、生産者が感じていることをもっとわかりやすく伝えていくだけでもだいぶちがうんじゃないかと思いましたね。

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塩谷:そう、「奪う」「競争する」から「共存していく」って、いろんなところで起こっている大きな転換ですよね。ライバルと争うのではなく個性を認めて共存したり、自然から搾取するばかりではなく長い目線で見て共生させてもらったり……。  

上の世代で成功されている方々と、同世代を比べると、自分たちって驚くほどに競争意識がゆるいなぁ、というのが率直な感想なのですが(笑)、もし私がインターネットの普及する前の世界に生まれていたら、たとえば雑誌の連載を奪い取るためにライバルを蹴落とさなければいけなかったかもしれない。だからそこは、インターネットの果たしてきた役割がものすごく大きいですよね。

インターネットのなかった時代は、「マス」なものを目指すことが成功に繋がる訳ですし、そこで勝つためにはわかりやすさや普遍性に重きを置いていきますよね。でも、インターネットは、偏愛を極めてやっていた方が、感性の近い人に出会える確率が高くなる。それこそ食べチョクさんが扱っているような、こだわりのものが売れる。本当にこだわりたい人にはいい時代になってきたなと思います。

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塩谷:ただ、偏愛を極めていく職人タイプの人は、大きな声で宣伝することを好まないことも多いです。だから今でも、「生産数や売上を上げろ!」「スピード勝負!」という声のほうが、社会には多く飛び交っているようにも感じてしまう。それも一つの尺度、一つの正解ではあるのですが。

でも私は、金銭的豊かさだけではなく自分の豊かさを信じるということも、もうちょっと大きな声で言いたい。勝負に勝たなきゃいけない、量やスピードを追求しなきゃいけない……というプレッシャーから開放されたら、もっと自由に生きられる人は多いと思うんです。幸い世界のSDGsの流れにもマッチしてる部分もおおいにあり、メディアが取り上げてくれる空気も醸成されてきましたし。でもいっときのブームで終わらないよう、ゆっくりと時間をかけて凝り固まった仕組みをほぐしていくような活動をしていきたいですね。

秋元:塩谷さんみたいに、届けるということをそこまでやりきれている人ってなかなかいないですよね。私も使命感に燃えて、生産者さんたちの声を消費者の方たちに届けるサポートをこれからもしていきたいなって思っています。

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塩谷舞さんの新刊『ここじゃない世界に行きたかった』(文藝春秋)。多様性の時代を象徴する、美しい言葉で綴られた一冊。「自分の親世代にも読んでほしい」と塩谷さん。
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秋元里奈さんの新刊『365日 #Tシャツ起業家』(KADOKAWA)。やりたいことが見つからなくて悩んでいる人たちに勇気を与える一冊。