2020年10月28日 12時00分 JST | 更新 2020年10月28日 12時00分 JST

ハイブリッドワークが社員の「センス」を磨く ニューノーマルで生産性向上のカギを握る「組織のオープン化」とは

ニューノーマルな時代の働き方に対応しきれず、悩みを抱える組織も…どんな対策が必要なのか、成果を出し続ける組織の特徴は? Slack 日本法人代表の佐々木聖治氏と一橋ビジネススクールの楠木建教授に話を聞いた。

コロナ禍をきっかけに、リモートワークやオンラインツールの導入が加速するなど、私たちの働く環境は大きく変化しました。ただ急激な変化に対応しきれず、社員のコミュニケーション不全や、業務効率の低下といった悩みを抱える組織も見られます。

ビジネス向けのメッセージプラットフォーム「 Slack 」の運営会社、 Slack日本法人代表の佐々木聖治氏と一橋ビジネススクールの楠木建教授に、ニューノーマルの企業が生産性を高め、イノベーションを生み出すためのポイントを話し合ってもらいました。

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(左)一橋ビジネススクールの楠木建教授、(右)Slack日本法人代表 佐々木聖治氏 対談は、オンラインで実施

企業は対面とリモートの「ハイブリッドワーク」へ

―「ニューノーマル」の働き方は、どのように変化しつつありますか。

佐々木:春先からのコロナショックが一段落した後も、当社には「リモートワークのインフラを整えたい」という企業からの相談が多数寄せられています。リモートワークは、既存社員にとって働きやすい職場づくりにも、女性や地方在住者ら多様な人材を新たに受け入れるダイバーシティな環境づくりにも有効です。このため今後はオフィスワークとリモートワークを組み合わせた、ハイブリッドな働き方が主流になると予想しています。

楠木:リモートワークの普及によって働き方の選択肢が増えたことは、企業と働き手の双方に大きなメリットをもたらしました。大半の企業には、リモートと対面をミックスすることで効率化できる領域がありますし、リモート勤務を取り入れることは、対面の良さや意義に改めて気づくことにもつながります。

社員側のメリットは言うまでもなく、通勤の物理的な負担が軽くなることです。また漫然と会社に行くのではなく、対面とリモートを使い分けることで、ビジネスパーソンとして自律的に働く「センス」も磨かれるのではないでしょうか。 

―リモートワークが本格化してまだ日が浅いこともあり、生産性をどう維持するかに悩む企業もあるようです。ハイブリッドな職場で社員のやる気を引き出し、組織としての生産性を高めるにはどうすればいいでしょうか。

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コロナを経て、急増するリモートワーク

佐々木:社員は「社内に、自分の知らない情報があるのではないか」と考えると、真っ暗な部屋に取り残されているような不安を感じます。企業にとって最も重要なのは、組織を「ガラス張り」のオープンな状態にして、社員の心理的安全性を高めることなのです。全社員が同じ情報にアクセスできている、という安心感があれば、おのずと社員の勤務意欲は高まり、組織としての一体感も醸成されます。社員が新たなアイデアを思いつく心の余裕が生まれ、イノベーションの創出にもつながるのではないでしょうか。

楠木:オープンな組織が、イノベーションを生みやすいのは確かです。イノベーションとは「何が良いか」の価値観が変わることです。例えば充電時間が極めて短い電気自動車を開発するのは著しい「進歩」ですが、イノベーションは「充電時間は短いほどいい」という現在の価値から外れたところに生まれます。そのためには組織を外へと開き、会社や部門の垣根を超えて、全く異なる価値観や情報をインプットする必要があるのです。

オンラインツールを使ったコミュニケーションは、対面のやり取りと違って多くの人に同時に、同じ情報を伝えられるメリットがあります。組織をオープン化し、風通しを良くするのに適した手段と言えるでしょう。

―組織をオープン化するに当たって、注意すべきことはありますか。

楠木:情報をオープンにすると、社員一人一人が受け取る情報量は増えます。人間の情報処理能力は限られており、必要な情報を取捨選択する社員のセンスと、彼らが求める情報を、迅速かつ的確に提示するツールの両方が求められるわけです。また複数のオンラインツールにさまざまな情報が分散していると、社員がそれぞれ異なる情報にアクセスすることになり、組織のオープン化から逆行しかねません。社内のツールを一本化することが大事です。

佐々木:ツール選びの秘訣は、現場で実際にツールを使う社員の声に耳を傾けることではないでしょうか。DeNA やクックパッドなどは、社員が個人的に Slack を使い始めて便利さが口コミで広がり、現場の要望を受けて全社的な導入に至りました。手前味噌ではありますが、現場から評価されたからこそ、国内で 100 万人を超える日間アクティブユーザーを獲得し、今日のような市民権を得られたのだと自負しています。

もう一つ忘れてはならないのは、ツールはあくまで企業文化を体現する手段だということです。 Slack 社には、社員同士が温度感を共有することが大事、というカルチャーがあります。組織が完全リモートワークに移行してからも、 例えばSlack 上に雑談用のチャンネルを設けるなど、互いへの思いやりや共感を重視する企業文化の浸透につながるようなツールの使い方を心がけています。

― Slack の活用が、組織のオープン化や生産性の向上につながった事例はありますか。

佐々木:米国の健康保険会社 Oscar Health は、新型コロナウイルス検査施設の検索ツールを開発した際、Slack を使って部署間のやり取りを円滑化し、開発期間を大幅に短縮したそうです。

また自動車部品メーカーの旭鉄工は、不具合の情報やカイゼンの事例を Slack 上のチャンネルで共有し、製造現場の業務効率化に成功しました。

Slack 上の投稿で、「〇〇社長」「XX部長」など役職の利用を禁じた企業もあります。地位を忖度した丁寧語や敬語が減り、メッセージの趣旨がより伝わりやすくなったといいます。

Slack japan
Slack チャンネル上でのやりとり。忖度した丁寧語や敬語が減り、議事録などの情報を効率的にチャンネルで一括管理できる

楠木:人間は、新しい技術に古い習慣を当てはめてしまう「連続性」からなかなか抜け出せません。メールの「お世話になります」「よろしくご査収ください」などの言い回しは手紙の名残ですし、古くはテレビが登場し始めたころ、舞台のどん帳からの連想でブラウン管に布のカバーを掛ける家庭も多く見られました。Slack などチャットツールの登場で、ようやく、ユーザーが連続性を脱し、デジタルの合理性に追いついたのですね。

佐々木: Slack はスピーディーでフラットな意思伝達を可能にするだけでなく、人とデータとコミュニケーションのすべてを集約できるプラットフォームです。連携可能な 2,300 以上のアプリがあるので、経費精算や日報作成など、多くの定型業務を Slack 上に一元化できます。チャットを読めば離席中のやり取りもすべて把握でき、社員が情報から取り残されず、心理的安全性も高まります。

チャンネルに残っている過去の知見や成功事例を、簡単に検索することもできます。職場の倉庫で、古い書類を掘り返す必要もなくなるのです。

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Slack上で検索すれば、過去の書類やデータにも簡単にアクセス可能に。

楠木:それは大切な機能ですね。職場で新しいことに取り組む時、似たような過去の事例を引っ張り出して「あの時どうしたかな?」ということはよくあります。そういう時に頼りにされてきたのが、勘どころを押さえた古参社員です。

佐々木: Slack があれば一社員の属人的な体験に頼らず、チャンネル上の情報を検索することで勘所をすべての人が共有できます。

―最後にビジネスパーソンに向けて、ニューノーマルを生き抜くためのメッセージをお願いします。

楠木:外部環境の変化がいくら加速しようとも、本質はそう簡単には変わらないものです。ですから「情報は 10 年寝かせてから読め」、つまり明日を読み解くためには、過去に何が起きていたかを振り返ってみてはどうか、というのが私のアドバイスです。 今後はSlack に事例が蓄積されることで、ますます歴史的事例に学びやすくなる、と期待しています。

佐々木:オンライン化が進むほど、一人一人が信念に基づいてものごとを選択し、自分の決断とその理由を周囲に説明することが重要になります。Slack 上やオンライン会議では、自分を表現しなければ、存在すら消えてしまいかねません。

正しいと信じる意見を恐れずに発信し、意思に従って行動し続けて下さい。それがビジネスパーソンとしての成長にもつながるはずです。
(執筆:有馬知子 編集:川越麻未)