新型コロナウイルス対策、弱点はどこ? 3つの視点から考える

医学的な知見、経済的・社会的な影響、法的・制度的な問題。私たちがそれぞれできることを増やすためには、この3つの視点を合わせ持つ必要があります。
ハフポスト日本版

新型コロナウイルス対策では、①感染症に関する医学的な知見、②経済的・社会的な影響、③法的・制度的な問題の3つの視点から考えて、時間との闘いとの中で迅速に意思決定して実行することが求められます。

この3つの視点から新型コロナウイルス対策について検討してみたいと思います。

視点① 感染症に関する医学的な知見

(1)注目すべき「専門家会議見解」

医学的な知見に基づく情報も多く出ていますが、現時点で最も信頼性が高いと思われるのは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針の具体化に向けた見解」(2020年2月24日付、以下「専門家会議見解」※1)だと思います。

基本方針の具体化に向けた見解とありますが、翌日に正式決定した政府の「基本方針」※2よりも率直で、力強いメッセージがあります。国内の感染が急速に拡大しかねない状況にあると現状を評価した上で、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあることにも言及しています。

また、首都圏を中心とした医療機関の多くの感染症病床は、ダイヤモンド・プリンセス号の状況を受けて既に利用されている状況にあるため、感染を心配した多くの人々が医療機関に殺到した場合には、医療提供体制がさらに混乱して医療機関が感染を急速に拡大させる場所になりかねないとの懸念も示しています。

我々は、現在、感染の完全な防御が極めて難しいウイルスと闘っています。このウイルスの特徴上、一人一人の感染を完全に防止することは不可能です。

ただし、感染の拡大のスピードを抑制することは可能だと考えられます。そのためには、これから1-2週間が急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際となります。仮に感染の拡大が急速に進むと、患者数の爆発的な増加、医療従事者への感染リスクの増大、医療提供体制の破綻が起こりかねず、社会・経済活動の混乱なども深刻化する恐れがあります。

(「専門家会議見解」より引用)

(2)感染拡大を防止するためにすべきこと

専門家会議見解では、「4 みなさまにお願いしたいこと」の冒頭で「この1~2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際であると考えています。そのため、我々市民がそれぞれできることを実践していかねばなりません。」として具体的な行動をとることを呼びかけています。

私たち一人ひとりがどのように行動すべきかを具体的に説明しています。

①風邪や発熱などの軽い症状が出た場合

特に、風邪や発熱などの軽い症状が出た場合には、外出をせず、自宅で療養してください。ただし、以下のような場合には、決して我慢することなく、直ちに都道府県に設置されている「帰国者・接触者相談センター」にご相談下さい。

●風邪の症状や37.5°C以上の発熱が4日以上続いている(解熱剤を飲み続けなければならないときを含みます)

●強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある

※ 高齢者や基礎疾患等のある方は、上の状態が2日程度続く場合

②症状のない人の場合

また、症状のない人も、それぞれが一日の行動パターンを見直し、対面で人と人との距離が近い接触(互いに手を伸ばしたら届く距離)が、会話などで一定時間以上続き、多くの人々との間で交わされるような環境に行くことをできる限り、回避して下さい。症状がなくても感染している可能性がありますが、心配だからといって、すぐに医療機関を受診しないで下さい。医療従事者や患者に感染を拡大させないよう、また医療機関に過重な負担とならないよう、ご留意ください。

③集会や行事の開催方法の変更、リモートワークなど

教育機関、企業など事業者の皆様も、感染の急速な拡大を防ぐために大切な役割を担っています。それぞれの活動の特徴を踏まえ、集会や行事の開催方法の変更、移動方法の分散、リモートワーク、オンライン会議などのできうる限りの工夫を講じるなど、協力してください。

(「専門家会議見解」より引用。小見出しは筆者)

(3)政府の基本方針(2月25日)や施策との関係

専門家会議見解を受けて、「瀬戸際」にある政府が基本方針をどのように示すかが注目されましたが、強いメッセージと明確な基準は示されませんでした。むしろ、その内容からすると専門家会議見解が「真の基本方針」と理解したほうが良いと思います。その後、政府は、五月雨式に、全国規模のイベントの自粛要請、確定申告の期限延期、全国の公立小中高校の臨時休校に関する要請などの施策を発表しています。

しかし、例えば全国一斉での臨時休校の要請は大きなインパクトがありますが、専門家会議で議論した方針ではなく、専門家会議に対して感染症対策として適切かどうか一切相談はなかったとしています。※3

視点② 経済的・社会的な影響

感染拡大防止のための施策は、人と人との接触機会を減らすものですから、経済的にはマイナスであり、実施方法を間違えれば社会的な混乱を引き起こすおそれもあります。そのため、経済的・社会的な影響を考慮し、対策をとることが必須です。

政府も基本方針において「経済・社会へのインパクトを最小限にとどめる」としてます。具体的には、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」※4が現時点での政府の対策になりますが、これが第一弾としても153億円では不十分との指摘もあります。

この緊急対応策の中には153億円とは別に日本政策金融公庫等※5が緊急貸付・保証枠として5000億円を確保して中小企業等の資金繰りに対応するとしていますが、感染拡大防止の施策でのマイナスを補うことができるかはまだわかりません。

現時点では、政府の対応策には企業や個人に対する休業補償は含まれていません。しかし、感染拡大防止の施策を積極的に進めるのであれば、休業補償のような一人ひとりの生活を守るための対策も必須です。緊急対応策は、専門家会議見解及び基本方針の発表前に決められたものですので、第二弾の早急な対応策の提示が求められていると言えます。

視点③ 法的・制度的な問題

感染症対策は非常事態ですので、様々な法的・制度的な問題が生じ得ます。現時点での政府の新型コロナウイルス対策は法的・制度的には大きな変更を伴わない形で進められています。

新型インフルエンザに関しては「新型インフルエンザ等特別措置法」があり、この法律に基づき新型インフルエンザ等緊急事態宣言を発した場合には、例えば、臨時の病院建設の場合には消防法・建築基準法等が適用されないなどの例外措置が規定されています。この法律に基づく「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」※6をみると、法的・制度的な問題も含めて、感染症対策の課題が俯瞰できます。もちろん新型インフルエンザと新型コロナウイルスは異なりますが、感染症対策という観点からは共通点も多くとても参考になります。

新型インフルエンザ等特別措置法を直接適用するかどうかは別として、法的・制度的な問題が生じた際に解決の糸口になるものと思われます。

これから大切なこと、必要なこと

視点①で紹介した専門家会議見解は、厳しい現状認識の下で、今、感染拡大防止のためにすべきことを具体的に示しています。真の意味での「基本方針」と言ってもよいと思います。冷静にこれを受け止めて、私たち一人ひとりができることを実践していくことが大切です。

この1~2週間の動向が、国内で急速に感染が拡大するかどうかの瀬戸際であると考えています。そのため、我々市民がそれぞれできることを実践していかねばなりません。

(「専門家会議見解」より引用)

他方、現時点までの政府の施策に「要請」が多いのは、視点②(経済的・社会的な影響)と視点③(法的・制度的な問題)が弱いことの現れです。3つの視点を合わせ持つことで、「我々市民がそれぞれできること」も増えていきます。特に視点②の経済的・社会的な影響を考慮して、政府は、休業補償、資金繰り、事業継続のための財政的な対策を打ち出すべきです。感染拡大の防止は、時間との闘いでもあります。迅速な意思決定と実行が何より重要です。

私たちは、一人ひとりができることを実践するのと合わせて、主権者として適切な施策を迅速に実行するように政府に対して求めていくという役割を担っているのだと思います。

(2020年2月28日の弁護士大城聡のページ「新型コロナウイルス対策で必要な3つの視点(2月27日)」から転載)

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