アイスランドが、ジェンダーギャップ指数11年連続トップ。そのきっかけは、1975年の出来事だった。

もともとは男性優位な社会だったというアイスランドで、どのように女性の政治参画が進んでいったのか。エーリン・フリーゲンリング駐日大使を訪ねた。
アイスランドのフリーゲンリング駐日大使
アイスランドのフリーゲンリング駐日大使
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

日本の男女格差の是正が進まない。

2019年12月に世界経済フォーラムが発表した、各国における男女格差を測るジェンダーギャップ指数は、過去最低の121位に沈む。先進7カ国(G7)の中でも、日本はダントツの最下位。タイやベトナム、中国、韓国、インドにも遅れをとり、東アジア・オセアニア地域では対象20カ国中18位。

ジェンダーギャップ指数は、経済、教育、健康、政治の4分野で14項目から算出される。日本は教育や健康では高い順位を誇るが、政治分野での遅れは深刻で、153カ国中144位だ。

低迷する日本に対し、ジェンダーギャップ指数で11年連続して1位に輝く国がある。北欧の島国アイスランド。世界初の女性大統領を輩出したほか、今も首相は女性。女性国会議員の比率は約40%で、閣僚の半数も女性だ。

もともとは男性優位な社会だったというアイスランドで、どのように女性の政治参画が進んでいったのか。日本へのヒントを探るべく、エーリン・フリーゲンリング駐日大使を訪ねた。

フリーゲンリング大使
フリーゲンリング大使
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

「まず指摘したいのが、男女平等の問題を人権問題として捉えている点でしょう」

インタビュー冒頭、自身も女性であるフリーゲンリング大使はそう強調した。

「アイスランドは、国際的な民主主義や法の支配、人権の尊重に対する意識が高い国です。男女格差の問題についても、人権の問題として捉える社会的な了解があります」

アイスランドにおける男女共同参画の取り組みは、幅広い分野に及ぶ。中規模以上の企業では、取締役会の男女比が40~60%にすることが定められている。父親の育児休業の取得率は85%。女性の労働参加率は77.8%で、OECD加盟国で最高だ。

フリーゲンリング大使
フリーゲンリング大使
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

しかし、アイスランドはもともと男女平等が進んでいた訳ではない。アイスランドは、ノルウェーとグリーンランドの真ん中付近に浮かぶ島国。漁業が盛んで、女性の就業率は高かったが、男性優位な風土も強く、育児や家事労働は女性が担うものという意識は1970年代まで根強く残っていたという。

「私が子どものころまで国会議員で女性が占める割合は2%ほどでした。それが今では約40%が女性。閣僚の半分を女性が占めるまでになりました」

転換点となったのが1975年だ。男女の給与格差や性別による役割分担に”NO”を唱えるストライキをしたのだ。国中の女性が一斉に、家事や育児、仕事を離れ、町へ繰り出した。

1975年、アイスランド女性によるストライキ
1975年、アイスランド女性によるストライキ
Women’s History Archives

「SNSもない時代ですが、女性の労働者団体が呼びかけ、メディアや草の根の口コミを通じて広く伝えられました。結果的にほとんどの女性がストライキに参加し、高齢女性も夫に『今日はあなたにコーヒーは淹れません』と宣言して町へ出たほどです。この日をきっかけに男性たちは、女性なしでは社会が回らないことを突きつけられました」

当時高校生だったフリーゲンリング大使もストライキに参加したという。

「今でも忘れられない一日です。町を行進しながら、参加者どうしの連帯感がとても心強く、空を飛んでいるかのような気分でした。『私たちは変化を求めている』という思いを共有する、熱狂的なシスターフッドでした」

しかし、当時は男性優位だったアイスランド。経済的、社会的にも男性の影響力が強い中で、運動が反発を招く恐怖はなかったのだろうか。そうたずねるとフリーゲンリング大使は少し考えて、こう続けた。

「確かに恐怖はあったと思います。個人的には、女性たちは連帯感を支えにして克服したのだと思います。男性でも、左派や若者でサポートしてくれる人もいました」

フリーゲンリング大使
フリーゲンリング大使
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

ストライキ後、国会に議席を持っていた女性議員が集まって政党を結成。次の選挙で躍進すると、他党も危機感を抱き、女性の候補者擁立が進んでいったという。

「今は、女性の国会議員は全体の38%程度になった。多くの国民は現状に満足していますが、議員は家族との時間がなかなか取れないなど、改革は続ける必要があります」

日本は衆議院で女性議員は約1割にとどまる。永田町を取材していると、議員から「有能なら女性が政界進出することは当然だ。でも、女性の議員を増やすことありきなのは、おかしい。能力ない女性議員が増えてしまう」といった声はたびたび耳にする。

「外交官なので、日本にアドバイスをする立場ではありませんが、そういう発言は40年以上前のアイスランドみたいですね。女性の政治参加は社会全体のプラスになります」

実際に女性の政治参加が進むことで、アイスランドでは政策的にも良い影響を与えているとフリーゲンリング大使は考えている。

「自治体レベルでも女性の政界進出は進んでいる。それに伴って、児童福祉や社会保障が充実しました」

2016年に日本で公開されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「マイケル・ムーアの世界侵略のススメ」では、2008年のリーマンショック後のアイスランドが取り上げられている。映画では、国家財政が危機をもたらしたとして、銀行家の男性経営幹部らが訴追され、3つの大銀行が国有化された経緯が紹介されている。

「リーマンショックは深刻で、我々は苦しい時代を過ごしました。男女の問題以上に、世界状況の影響を受けたといえるでしょう。しかし、女性が政界にいたことが、その後の回復にプラスになったとも思います。また、どんな財政危機の状況でも、社会保障をカットしなかった点も女性の存在の影響として指摘できるでしょう」

フリーゲンリング大使
フリーゲンリング大使
Jun Tsuboike / HuffPost Japan

日本では2018年5月、男女の候補者を「均等」にするよう政党に求める「候補者男女均等法」が成立した。しかし、朝日新聞によると、法律施行後に実施された2019年の参院選では、主な政党の女性候補者は28%にとどまった。社会的経済的要因が、女性の政治参画に高いハードルとなっていることが改めて浮き彫りになった。

「まず重要なのは、家にいたいと思う女性を下に見るようなことはあってはならない、ということです。そのうえで申し上げると、(政治的な)権利を行使することを選べない状況というのは、おぞましい状況です。選択肢を尊重し、自分を既存のモデルに押しつけない。そのために、若い世代の女性と男性は共闘しないといけないと思います」

日本に赴任して2年が経過したというフリーゲンリング大使は、日本での生活を楽しんでいると語る。駐日アイスランド大使館があるのは、港区高輪の高台。インタビューをした大使の執務室からは、樹林する品川駅の高層ビル群が見える。

「日本社会の良さは、他者や、他者からのアドバイスを尊重することで形作られてきました。しかし、時には自分の意思を追い求めることも大事です。女性だけでなく、若い男性にも『自分の心に従い、夢を追い続けてほしい』とエールを送りたいです」

国際女性デー

注目記事