荻上チキさん、ピエール瀧容疑者の逮捕報道でメディアに苦言 「何を目指しているのか…」

荻上さんが策定に関わった「薬物報道ガイドライン」に照らし、ほぼ全てのテレビ報道を検証、Twitterにコメントしています。
「荻上チキ・Session-22」公式サイトより

ピエール瀧容疑者の逮捕をめぐる一連の報道について、評論家の荻上チキさんが苦言を呈した。自身がパーソナリティを務めるTBSラジオ「荻上チキ・Session-22」で3月13日夜、「報道が具体的に何を目指しているのか分からない番組もたくさんあった」と指摘し、残念がった。

この日の放送は、本来は荻上チキさんは溶連菌感染症のため、社会学者の塚越健司さんがピンチヒッターを務める予定だった。だが「大事なことなので、どうしても話したい」と、冒頭20分間だけ荻上さんが出演した。

■薬物報道ガイドラインでテレビ報道を検証すると…

薬物依存症や著名人の薬物使用の逮捕に関する報道には、有志団体が策定した「ガイドライン」が存在する。

これは、2017年に「荻上チキ・Session-22」の番組内で、荻上さんや国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦氏ら専門家が集まってたたき台を作ったもの。

荻上さんは、この「薬物報道ガイドライン」に照らし、ピエール瀧容疑者に関する13日のテレビ報道をチェックした。

番組内で、荻上さんは「芸能人のスキャンダル報道になっていて、薬物依存症問題を丁寧に報道したものはほとんどなく、残念な実情だった」と感想を語った。

たとえば薬物報道ガイドラインでは、白い粉や注射器などのイメージカットを使った報道を「避けるべき」としている。

心に痛みを抱えた子どもは危険なものにひかれやすく、また、現在は薬物を断って回復の最中にある人がイメージを見ることで欲求が刺激され、再発のきっかけとなってしまう可能性があるためだ。

一部の番組では、コカインを紙幣で巻いて吸引する再現カットを使ったり、白い粉のカットを使ったりしていた。荻上さんは放送局や番組名を挙げながら、「薬物使用を止めたいという報道が、再使用を促してしまう」と危惧した。

ガイドラインでは、「がっかりした」「反省してほしい」という関係者や街中のコメントもNG。

薬物使用者は世間では不真面目な人、社会に反抗的な人、というイメージがあるが、おおむねそうではなく、様々なプレッシャーを抱えて薬物の反復使用がやめられない人も多い。

こうしたコメントはピエール瀧容疑者以外の薬物使用者や回復者に対しても、自己嫌悪に追い込み、回復や社会参加の意欲をそいだり、治療の場につながる機会を奪ったりしてしまう。

荻上さんは「フジテレビのバイキング、プライムニュースイブニングはこういうコメントを繰り返し使っていましたし、NHKのニュース7はわざわざ静岡の街の声を流していた。何の報道価値もないばかりか、薬物依存症問題を解決する助けには一切ならない」と警告した。

ガイドラインでは、次のような報道を「避けるべき」としている。

・薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと

・ヘリを飛ばして車を追う、家族を追いまわす、回復途上にある当事者を隠し撮りするなどの過剰報道を行わないこと

・「薬物使用疑惑」をスクープとして取り扱わないこと

一方、ガイドラインでは「犯罪と更生」ではなく「病気と回復」という文脈で報道するよう求め、「望ましい」報道も提案する。

・(薬物依存症は)逮捕される犯罪という印象だけでなく、医療機関や相談機関を利用することで回復可能な病気であるという事実を伝えること

・相談窓口を紹介し、警察や病院以外の「出口」が複数あることを伝えること

・依存症の危険性、および回復という道を伝えるため、回復した当事者の発言を紹介すること

自殺報道にはWHO(世界保健機関)が定めたガイドラインがある。具体的な自殺の方法・場所・遺書の内容を報じたり、写真や映像の使用は慎重に検討するよう求めている。著名人の自殺を報道する時には「特に注意する」ともある。

荻上さんは「薬物報道でも具体的な吸引方法を報じることに、どのような社会的意義があるのか、そのデメリットとのバランスは何か、問われている」と指摘する。

「薬物依存症についての研究では、ハームリダクションという考え方が注目されています。『非犯罪化』することで、使用者や所持者を罰することをやめ、適切に医療につなげていくものです(他方で、売人は処罰します)」

「今回のような報道をすることで、薬物使用からの回復を社会的に促すものとは逆行した、社会的不寛容が助長されることも気になるところです」

荻上さんは13日、昼から夜までほぼすべてのテレビ報道を検証し、Twitterで一言ずつコメントを投稿した。

ラジオ番組の中で、荻上さんは「『望ましいこと』ができている放送メディアはほとんどなかった」と評し、「薬物依存症の情報サイトや相談窓口の案内をテロップで流すだけでも社会の受け取り方は変わってくる」と提案した。

「明日(14日)も報道祭りみたいなものが続くだろうが、ぜひ明日から報道内容を変えてほしいし、リスナーの方もニュースに触れる際にはリアクションをしてくれると嬉しいなと思います」と締めくくった。

14日の同番組では、ガイドラインの策定に一緒に取り組んだ、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦さんと、「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表をゲストに招き、この問題について特集する。

■薬物依存症のチェックリスト (特定NPO法人アスク)

■相談窓口

各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターに、薬物依存についての相談窓口がある。医療機関や自助グループについての情報にもアクセスできる。

薬物依存症から回復した当事者が中心になって運営している回復施設。全国に拠点があり、家族の相談も受け付ける。

薬物依存症者の自助グループ。

薬物依存症者を抱える家族の集まりで、全国各地で開催されている。

薬物依存症者の家族や友人の自助グループ。

薬物依存症についての啓発、情報収集のプラットフォーム

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