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2019年04月14日 11時14分 JST | 更新 2019年04月14日 11時19分 JST

こち亀作者、秋本治さんが語るマンガの神髄。生みの苦しみと楽しさは“ネーム”にある

「ネームは一番大変。でも苦しいと思わず楽しい作業としてやってほしい」━━秋本さんが語る、作品が生み出される一瞬にかける思いとは

「自分なりのやり方を身につければ、ネームって本当に楽しい作業なんです。モノを作る根本になる。絵を描くときは下絵を描くときが一番楽しいように、ぜひ皆さんも苦しいと思わずに楽しい作業としてやってほしい」

国民的ギャグマンガ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の作者として知られるマンガ家の秋本治さんは、マンガを描くときの骨格ともいえる「ネーム作業」について、こう語る。

Huffpost japan/Shino Tanaka
ネームを作るときのコツを語る秋本治さん

 「こち亀」を40年間休むことなく毎週、週刊少年ジャンプに掲載してきた。その「骨格」となるネームが、東京都千代田区のアーツ千代田3331で4月16日まで開催中の「ラフ∞絵」展で展示されている。 

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4月16日まで開催中の「ラフ∞絵」展

12日には、秋本さんとともに、集英社の担当編集者の井坂尊さん、「週刊少年ジャンプ」編集長の中野博之さんが、ネーム作業を通し、マンガをつくり出す作業について思いを語った。

マンガの生み出し方は人それぞれ。秋本さんは半日でネームが仕上がることも

ネームは、マンガを描くうえでコマ割りやキャラクターの動き、展開を決めていく最初の作業にあたる。マンガの設計図とも呼ばれる。

秋本さんは「ネームという作業は、一番大変な作業。ネームが完成すればマンガの骨格ができたようなもの。あとは絵を入れるだけで、ネームが上がれば80%のストーリーがそこに入っている」と説明した。 

 

「ラフ∞絵」展に展示されている秋本治さんのネーム

 でも、うまいアイディアが浮かばなかったり、内容に行き詰ったり。ネーム作業は作品を世に出す瞬間でもある。0から1を作り上げる作業は、当然ながら生みの苦しみもつきまとう。

秋本さんは「大変な作業だけども、それをつらいと思ってやると本当につらくなっちゃう。だから、描きたいことをとにかく30ページなら40、50ページも描いて、後で詰めていく」と手法を手ほどき。

「描いちゃうとホッとする。『これ、いらなかったな』みたいなものもある。自分自身の整理整頓。でもそれをやるのは本人しかいない。こうしたほうがいいんだろうな、という自分のやり方を自分で身に着けていく」と話した。

「気分転換なんて言い訳」

中野編集長は、売れっ子を目指して作品の「持ち込み」をするマンガ家のタマゴたちに配るマンガの指南書「原画見本帳」に掲載されている逸話を披露。 

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『週刊少年ジャンプ』編集長の中野博之さん

 そこには、「気分転換って何ですか?」という質問があるという。

秋本さんの答えは「気分転換なんて言い訳だと思っている」。

続けて「詰まっても必ずやると決めたらネームは必ず上がるもんだ」とあり、中野編集長は「鉄の意思を持った人なんだと思います」と紹介した。

それに対し秋本さんは「自分が気分転換だと言うとテレビを見たり、映画を見たりしちゃう。逃げなんですよ。座って考えていれば、結構(アイディアが)出てくるんですよ。朝7時からネームやれば、1日でできるんです。やるしかない。逃げ場がないから」と解説し、強いプロ意識を見せた。

どうしても煮詰まった場合は、友人に電話するのだという。外に出ると遊んでしまうため、数分電話することで頭を切り替えるようにしている。

中野編集長は「私たちは新人作家さんがさぼろうとするとすぐ『秋本先生を見ろ!』と例にして、ムチを打つ。これが少年ジャンプ編集部のやり方です」と会場の笑いを誘った。

時代を著してきた「こち亀」の題材は自分で取材。スカイツリーもヘリからパシャリ

 秋本さんと言えば、最先端の話題を地道に集め、緻密な取材でその時代ごとの空気を的確に反映させてきた。

ただ秋本さんも以前は「今新しいものを出すと、古くなるよ」と言われたことがあったという。

「ちょうどパソコンが出はじめのころ。でも、逆に今それを描いておけば時期も分かるかもしれないと思った。そこで、あえて出すようにしたんです」

読み返せば、二つ折りのガラケー、ポケベル、Windows95━━など、今から見ると過去の時代を映す鏡のように、その時の雰囲気をそのまま味わうことができる。

スカイツリーの建設中のシーンも、こち亀には描かれている。 

担当編集の井坂さんは「マンガの取材は、基本的に担当と行ったり、担当に任せたりするんです。でも秋本先生は結構自分でばんばん行かれる」と話す。 

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秋本治さんの担当編集を務める井坂尊さん。秋本さんの取材力に舌を巻いたエピソードを語った。

 スカイツリーが建てられている最中のシーンでは、工事現場を空撮したような絵が出てくるページがある。

ただ、こんな特別な場所は写真家が撮影するか、報道機関がニュース用に押さえる写真くらいしかない。

写真を構図通りに模写することは、著作権に引っかかるため、許可をとらなくてはならなかった。中野編集長は、校了の時にその点に気が付いた。

すぐに「Ⓒがないぞ!これは想像では描けないものだから写真を見ているはずだ。元の写真の許可をとらないとだめだ」と指示。

しかし担当編集は「先生に確認したらOKでした」という。「いや、OKうんぬんではなくて許可がいるんだよ」と再度念押し。

秋本さんに確認した担当編集は度肝を抜かれた。

「秋本先生が自分でヘリコプターチャーターして、上から自分で撮った写真でした」

中野編集長も「それはOKです」としか言いようがなかったという。

秋本さんは、こち亀の大金持ちキャラクター中川圭一巡査を引き合いに出し「そんな中川みたいな話じゃないですよ!」と苦笑い。

「たまたまヘリコプターに乗れる機会がありまして、東京を一周したんです。そのとき、スカイツリーも回ってくれるというのでパシャパシャパシャって撮ったんです」と弁明した。  

時事通信社
建設中の東京スカイツリー(東京・墨田区)。[時事通信社ヘリコプターより撮影]

今では目にできないシーンが、ページの中に残っているのも「こち亀」が様々な年代から愛される要因になっている。

物語の筋は流れに乗って作るもの

ネームは、筆の乗り方次第で流動性が高く、「打ち合わせと全然違うのものになるときもある」と秋本さんは言う。

「ネームは形にすることが重要。まずは完成させる。ネームの途中で読んでみて『これから先どうしよう』なんて言ったってどうしていいか分からない」と話す。

こち亀では、大阪・御堂筋署のメンバー御堂春がパンを作る回を描こうとしたところ、担当者が「サンミーってありますよね」と話し始めた。 

神戸屋公式サイトより
関西限定のパン「サンミ―」

 その聞きなれない響きに秋本さんは興味を持ち、関西限定のパン「サンミー」を、東京から来た両さんが口にするシーンを作った。「あっ、ふつーにおいしい」という両さんの反応に関西人が驚く、という展開を考えた。

この回がジャンプに載るやいなや、ネット上でも関西人たちが驚愕。「マジすか…?全国区ちゃうの…?」などとたじろいだ。

秋本さんはこうしたネームの作り方について「ノリみたいなのが重要。特にギャグだと。両さんがどう思うか分からないから。そしてそのほうが自分も分からないから、楽しいんです」と笑顔を見せた。   

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ネームについて「ノリが重要」と語る秋本治さん

タツノコプロ出身のアーティスト4人が豪華競演する「ラフ∞絵」展

「ラフ∞絵」はマンガのネーム、アニメの絵コンテなど、作品になる前の“ラフ”と呼ばれる段階に迫り、作品が生み出される瞬間を通して作り手のイマジネーションに触れる展覧会だ。4月16日まで。

秋本治さんのほか、「FINAL FANTASY」シリーズのイメージイラストを手掛けた天野喜孝さん、「魔法の天使 クリィミーマミ」や「機動警察パトレイバー」のキャラクターデザインを担当し、宝飾デザイナーとしても活躍する高田明美さん、そして「機動戦士ガンダム」「タイムボカン」シリーズなどで知られるメカデザイナー大河原邦男さんの4人がタッグを組んだ。

4人は、アニメ制作スタジオ・タツノコプロ(旧・竜の子プロダクション)出身。かつて竜の子時代に4人と仕事をしていた演出家で、「ラフ∞絵」展プロデューサーを務める布川ゆうじさんが企画した。 

Huffpost japan/Shino Tanaka
「チェンジ・アンド・チャレンジ」コーナー。右端は天野喜孝さんの描いた「魔法の天使 クリィミーマミ」

  展覧会では、4人の代表作を中心に、ラフやネーム、完成原画など約1420点が展示されている。このほか、それぞれがお互いの代表作を描き合う「チェンジ・アンド・チャレンジ」と題したコーナーも設けられている。

「ラフ∞絵」実行委員会事務局

期間:2019年4月16日まで
時間:11:00~20:00(入館最終案内19:30)
場所:3331 Arts Chiyoda(東京都千代田区外神田6丁目11−14)
料金:一般¥2000、大学生¥1500、高校生¥1000、小・中学生無料