ゲイの高校生の絶望と希望。「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」で金子大地さんはどう届けたのか

シリアスなストーリーに反響広がるNHKドラマ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」。ゲイの高校生・純を演じた金子大地さんにインタビューした。
ゲイの高校生・純を演じた金子大地さん
ゲイの高校生・純を演じた金子大地さん
Junichi Shibuya

2019年4月から放送されているNHKドラマ、よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』。ラブコメなのかと誤解されそうなタイトルだが、内容はゲイの高校生の複雑な心情や成長を、真正面から描くストーリーだ。

ネットの投稿サイトから書籍化された小説「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」(浅原ナオト著、KADOKAWA)を実写化した作品で、放送を重ねるごとに反響が広がっている。6月8日の最終回を前に、主演の金子大地さんにインタビューした。

Junichi Shibuya

「届けたい」という強い気持ちが生まれた

ドラマの中心は、ゲイであることを隠して生きる主人公・安藤純と、同級生で「腐女子」の三浦さんの関係だ。「腐女子」とは、BL(ボーイズ・ラブ、男性同士の恋愛)を扱った漫画や小説を好む女性のこと。純が書店でBL本を買う三浦さんを目撃したことをきっかけに、2人の距離は近づく。やがて、三浦さんは純に恋をする。一方、ゲイでありながら「異性と結婚し、子どもを持って家庭を築く」という“普通の幸せ”を欲望する純は、自身のセクシュアリティーを隠して三浦さんと付き合うことにする――。そこから、物語は大きく動き出す。

「同性愛という難しいテーマを取り上げた作品だと知ったときは、自分に務まるのかという不安はありました」

金子さんは出演が決まったときのことを、そう振り返る。

「LGBT、といった言葉はもちろん聞いたことがありました。でも、身近にそういう人がいることは想像したことがなかったですし、あまり知らなかったというのが正直なところです」

Junichi Shibuya

それでも挑戦する決意を固めたのは、原作を読み込んでいく中で、純という一人の「人」に惹かれていったからだという。

「純には、三浦さんと付き合う前から男性の恋人がいます。そして、そういう自分の内面を、周囲に対して壁をつくって隠している。僕には男性を好きになる気持ちは分からないけど、すごく人を好きになったことはあります。苦しみの重さは違うかもしれないけど、あまり自分をさらけ出せない気持ちには共感できる部分があります。難しい役ですが、この共通点を手掛かりにしたら純に近づくことができるかもしれない、と思いました」

ゲイやトランスジェンダーの人たちが登壇する講演会にも足を運び、当事者の話に耳を傾けた。

「性的マイノリティーの人はこんなにもたくさんいるんだ、という事実を知って、まず驚きました。そして、自分のことを安心して話せる居場所がないんだということにも。作品のメッセージを『きちんと届けたい』という気持ちは、これまでにないくらい強かったです」

演じた後も自問し続けた第5話

純は第5話(5月18日放送)で、自身がゲイであることを三浦さんに告白する。しかし、盗み聞きしていた男子学生が周囲に言いふらしたことで孤立を深め、遂には教室のベランダから飛び降り自殺を図るという衝撃的なシーンへと展開してしまう。

NHKドラマ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」第5話より
NHKドラマ「腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。」第5話より
NHK提供

友人からぶつけられる「気持ち悪い」という言葉。「(純の)仲間か」と迫られ、「違う」と口走ってしまった親友の強張った表情。自分がどう眼差されているのかを悟った純の瞳から、ぽつり、ぽつりと落ちる涙には、マイノリティーとしての痛みや悲しみ、悔しさがいっぱいに詰まっていた。

純を追い込んだのは、分かりやすい「悪者」ではない。男なら女、女なら男を好きになるもの――そう信じて疑わないだけの「普通」の人たちだ。飛び降りながら純が心の中で呟く「ああ、欲しかったな……フツウが」という言葉は、純自身もその偏見を内面化していることを物語っている。

金子さんはこのシーンで、演じる自分と純との間に埋められない「距離」を感じていたことを打ち明けてくれた。

「何度も、何度もリハーサルを繰り返して、監督とも他のキャストとも話し合いを重ねて、気持ちをつくっていきました。でも、撮り終わった後、ずっと不安だったんです。どうして純は、死にたいと思ったんだろう。なぜこんな展開にならなければいけないんだろう。演じる前も、演じている時も、その後も……、答えが分からなくて、ずっと自問していました」

演じた金子さんでさえ、純の痛みを丸ごと理解することは難しかった。純が身を投げた直後、差し込まれた10秒以上のブラックアウト(暗転)は、マジョリティーとマイノリティーの間に横たわる深い溝を、視聴者に突き付けてくるようだった。

Junichi Shibuya

「どん底」から立ち上がる

金子さんも「どん底まで行った」と言う5話。でも、絶望して終わらないのがこのドラマの凄みでもある。

一命を取り留めて入院生活を送る純に、三浦さんは「お見舞い」として大量のBL本を持ち込み、純に読ませるというユニークな方法で寄り添う。

性的指向が男性であることと、BLを「嗜好」することはもちろん別だ。でも、「ゲイだから」「(異性愛者で)腐女子だから」という属性を取り払って、自分たちなりのやり方で生身のお互いを知ろうとし始める2人の姿には希望がある。

「普段テレビを見ていても、例えば『女性はこう』『男性はこう』って、個人にラベルを付けて語るような番組を目にして、ちょっとイライラすることがあるんです。ゲイとか腐女子とかもそうですけど、その人のほんの一部を全てみたいに語るのではなくて、もっとフラットに、人間対人間として、向き合えたらいいなって考えるようになりました」

Junichi Shibuya

第7話(6月1日放送)。高校の終業式の日、三浦さんは体育館のステージの上から、2人に起きたことをありのままに語る。そして、他者に対して「透明な壁」を築いている純のことを、こんな言葉で解放して見せた。

自分を守っているんじゃなくって、私たちを守っているんです。僕がここから出たら、君たちはきっと困ってしまう。(筆者注:物理の問題で)摩擦をゼロにするように、空気抵抗を無視するように、僕を無かったことにしないと、世界を簡単にして解いている問題が解けなくなってしまう。だから、僕はこっち側で大人しくしているよ。そう言ってるんです。彼は自分が嫌いで、私たちが好きなんです。

そう訴えて、涙で言葉を継げなくなる三浦さんに、駆け寄った純はキスをする。

全校生徒を前にしてのこの展開に、視聴者からは「アウティングなのでは」といった批判もあった。5話の騒動で、既に2人のことがほぼ全校に広まっている前提があったとはいえ、セックスしようとしたができなかったことなどを大勢の前で言われることに抵抗を覚えるという意見は、確かに分かる。

だが、丁寧に繊細に純の苦しみを描いてきた制作側は、その批判の可能性も織り込み済みで、伝えたいことがあった。三浦さんの「演説」は、「自分たちとは違う何か」という枠の中に押し込めて純を扱うようになった周囲の視線に、2人が向き合ってきた軌跡をあえて明らかにすることで抵抗するものだ。

金子さんは7話を「すごく、好きです。純と三浦さんが『人と人』として向き合う、大事な回です」と言い切る。「三浦さんを好きかどうかとか、好きが何かとか、言葉では表しにくい。でも確かに、純の『気持ち』がこもったキスでした」

「純はずっと『ゲイだから、ゲイだから』と自分自身を苦しめてきたから。あそこで三浦さんが頑張ってくれて、その壁の外にやっと少し、出られたから。ありがとう、っていう気持ちに近かったかもしれない」

「人それぞれだよね」と呟いてみるだけでは、無くなってくれない差別。世界を簡単にする「ラベル」に傷つけられながら、同時にそこへ逃げ込みたくなってしまう私たち。ゆっくりと、一言ひとことを丁寧に語ってくれる金子さんの姿には、役を通してその現実と戦ったからこそ生まれた、真摯さと優しさが滲んでいた。

6月8日、最終回。純たちは、どんな一歩を踏み出すのだろうか。ぜひ、一人でも多くの人に見届けてほしい。

Junichi Shibuya

【最終回・放送情報】

よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』

NHK総合 2019年6月8日(土)23時30分~23時59分

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