GSOMIA破棄、韓国とアメリカはどう報じた? 「愚かさを直視するべきだ」

韓国による日韓GSOMIA破棄について、日本では与野党ともに「容認できるものではない」と反発しています。

韓国政府は8月22日、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を「国益に見合わない」として破棄すると発表し、日本側は反発を強めている。

日韓とアメリカの報道から、この問題を考える。

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GSOMIAは「General Security Of Military Information Agreement」の略で、「ジーソミア」と読む。互いの軍事機密を共有することができるように取り決められた協定で、日本は韓国以外にも、アメリカやイギリスなどとも協定を結んでいる。

韓国とは朴槿恵政権下の2016年11月に協定を結び、有効期間は1年。日本は北朝鮮に関する衛星情報などを提供し、韓国からは主に脱北者や中国や北朝鮮に関する情報が共有されていた。

期限の90日前までに破棄の意思を通告しなければ自動延長されることになっており、今年は8月24日が通告期限だった。

韓国軍からは慎重論も出ていた

ハフポスト韓国版によると、GSOMIA破棄論は与党議員を中心に盛り上がっていたという。世論調査でも、破棄派が維持派を上回っていた。

だが、日本が韓国を「ホワイト国」から除外したことで、GSOMIA維持に積極的だった議員からも「私たちが軍事機密を日本と共有するのは矛盾している」「最も高い(警戒)レベルで日本に対応しなければならない」と破棄論に傾く声が上がり始めていた。

一方、韓国軍からはGSOMIAの効果を期待する意見もあったという。

中央日報は、軍関係者のコメントとして、「北朝鮮がミサイルを発射すれば、北朝鮮と近い韓国は発射と上昇ポイントを捕捉するのは有利だが、領海を集中的に監視する日本は、下降ポイントと着弾点を識別するのに有利。GSOMIAにはこのような相乗効果がある」と伝えていた。日韓はGSOMIAに基づき、2016年〜2018年に計22件の情報を共有したとしている。

「容認できない」日本は与野党ともに反発

韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄について、報道陣の取材に応じる河野太郎外相=8月22日夜、外務省
韓国の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄について、報道陣の取材に応じる河野太郎外相=8月22日夜、外務省
時事通信社

韓国によるGSOMIA破棄が伝えられた22日、河野太郎外相は「地域の安全保障環境を完全に見誤った対応と言わざるを得ない」と批判した。

立憲民主党も22日に「日韓両国の関係悪化を安全保障の分野にまで持ち込む韓国政府の姿勢は、決して容認できるものではない」として韓国の決定を批判する談話を発表

「今回の決定で利益を得る国がどこなのかを考えても、今回の決定は極めて遺憾であると断ぜざるを得ない」と、日韓のGSOMIA破棄が中国や北朝鮮に利することになると警戒を強め、日韓の政府に対して対話による解決を求めている。

「軽率で感情的」韓国でも野党は批判

韓国では23日、ソウル外国為替市場でウォンが下落。株式市場にも影響が出ている

野党も慎重な姿勢を見せている。

ハフポスト韓国版によると、野党第1党で保守系の「自由韓国党」は「最悪の決定だ」と批判。「文在寅大統領は国際情勢に目を閉じ、安全保障の素人であることを世界中にさらした」として、破棄撤回を求めている。

自由韓国党のナ・ギョンウォン院内代表も「国益より政権の利益に基づく決定ではないか」と懸念を示した。

中道の「正しい未来党」も「軽率で感情的な対応だ」と批判した。同党の前代表からは「韓国の自傷行為だ」と失望する声も上がっている。

一方、与党「共に民主党」はGSOMIA破棄について「主権国家として当然」と歓迎している。

「GSOMIAの終了を検討する過程で、アメリカとも緊密に協議した」とする大統領府の関係者のコメントを紹介。この関係者は「アメリカは韓国政府の決定を理解している。GSOMIA破棄で揺らぐ韓米同盟ではない」と語ったと伝えている。

アメリカも「失望」を強調

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日韓のGSOMIA締結を仲介したアメリカでも、GSOMIA破棄は大きく報じられている。アメリカにとって、日韓のGSOMIAは北朝鮮と中国への牽制カードとしての意味を持っていたためだ。

マイク・ポンペオ国務長官は22日に訪問先のカナダ・オタワで記者会見し、「韓国の決定に失望した」と述べた。

防総省のイーストバーン報道官も「文在寅政権がGSOMIA更新を行わなかったことについて、強い懸念と失望を表明する」と強い口調で批判。「日韓関係においては、ほかの分野で摩擦があるにしても、防衛と安全保障における相互協力は完全であり続けなければならないと強く信じている」とする声明を発表した。

「最大の敗者は韓国で、最大の勝者は北朝鮮」ワシントンポスト紙

ワシントンポストは韓国の決断について「貿易と歴史問題をめぐる対立を大幅にエスカレートさせた」と韓国がボールを投げたと報道している。

また、「最大の敗者は韓国で、最大の勝者はおそらく北朝鮮だ」と分析したうえで、「北朝鮮は、核実験を繰り返して軍事力を強化しているため、北朝鮮からの核の脅威に対抗するために、これまで以上に情報共有が重要になっている」と指摘した。

一方、問題の根底には「日韓の民族主義的な感情の対立」があると伝えている。日本が韓国をホワイト国から除外したのは、韓国が徴用工問題で日本企業に補償を命じた裁判の判決に対する報復だったとして、「判決は日本を激怒させ、日本は信頼できる貿易相手国としての韓国の地位を攻撃した」と報じている。

「トランプ大統領の無責任な態度が日韓対立に拍車」ニューヨークタイムズ紙

ニューヨークタイムズ(NYT)は、「日韓の緊張を劇的に増大させ、アメリカの東アジア地域におけるリーダーシップの低下を強調する動きだ」と警戒。「『アメリカ第一主義』のアジェンダを追求する中で、トランプ政権は各国との同盟関係を世界中で衰退させた」として、トランプ政権の責任に言及している。

(左から)韓国の文在寅大統領、トランプ米大統領、安倍晋三首相=2017年9月、日米間首脳会談
(左から)韓国の文在寅大統領、トランプ米大統領、安倍晋三首相=2017年9月、日米間首脳会談
時事通信社

NYTは22日の社説でも、韓国のGSOMIA破棄について「危険な方向に進んだ」と警戒した。

破棄の決断は「理論的な根拠によるものではなく、昔からの感情的な対立によるものだ」としたうえで、「トランプ大統領の無責任な態度が拍車をかけた」と批判。次のように指摘した。

「ワシントンは、もっと前に日韓の対立解消に向けて動くべきだったが、トランプ政権はほとんど関心を示さなかった」

「彼は、北朝鮮の専制君主である金正恩氏との会談の実績が曇らないように、最近の北朝鮮のミサイル実験によってもたらされた脅威を軽んじた」

一方、日本と韓国に対しても『本当の敵』を見るよう警告した。

「日本と韓国は、両国間の古くからの確執が両国の経済と安全を損い、本当の敵を助けることになっている愚かさを、アメリカの助けがなくても直視するべきだ」

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