「育休社員の穴、誰が埋めるの?」マイクロソフトの秘策、リターンシップって何ですか。

【タエが行く!第5回日本マイクロソフト編】男性まで育休を取り始めたら、仕事が回らないじゃないのよ!この難問に、どう答える?

男性の育休取得が進まない。法律では男女ともに休んでよいとされているのに、どうして?

難色を示す側の声としてよく聞こえてくるのは、本人が休むときにその仕事を引き継いだり、フォローしたりする現場の体制が整わないということだ。

たしかに、企業としては急にマンパワーを増やせるわけではない。「現場でうまくやり繰りを」と言われても、それぞれ抱えている自分の仕事もある。

もちろん、女性の産・育休にも共通することではあるのだが……気合いと配慮だけで乗り切れない課題であることは間違いない。

男性にも育休2週間を必須としている、日本マイクロソフト執行役員で人事本部長の杉田勝好さんに聞いてみた。マイクロソフトはこの夏の「社員全員週休3日」導入でも話題になった。

すると、その打開策になるかもしれない「リターンシップ」という新しい取り組みに触れることができた。

(聞き手は、男性の育休取得などを推進する「みらい子育て全国ネットワーク」代表の天野妙さん、執筆・編集:加藤藍子、泉谷由梨子) 

杉田勝好執行役員・人事本部長(右)に聞く天野妙さん
杉田勝好執行役員・人事本部長(右)に聞く天野妙さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「最低2週間」でも大騒ぎ?

天野:御社では、子どもが生まれた男性社員に、育休を必須で取得させる制度を実践していると聞きました。

杉田:ファミリーフレンドリー休業制度」ですね。マイクロソフトのグローバル各国で導入されていて、子供が生まれたり養子を迎えた社員は6週間、100%の給与支給で休業できます。しかし、あえて日本だけ、下限を「2週間」に定めているんですよ。育児のためという場合、1日か2日取ってもあまり意味がないと思うんで。

天野:日本だけ!?(笑)

杉田:なんか情けないですよね、マイクロソフトの他の13のエリアでどこもこんなことはしてないと思います。でも、日本だけは最初にしないとかわらない。日本人特有の『気兼ね』っていうのが一番大きいハードルなんで。

天野:どうして下限の期間を「2週間」に?

杉田:本当は6週間全部としたいところではありますけど、促す期間が長すぎても現場からの拒否反応につながってしまうのでバランスを考えて決めました。現在、この制度の利用率は男性社員の約70%。さまざまな理由で「どうしても休めない」という社員も存在する状態ではありますが、利用率は今後、もっと上げていきたいです。

天野:この夏の週休3日制導入も話題になりましたね。強制力を発動させるというのがやっぱり最初は大事という発想なんですか。

杉田:そうですね。それも日本だけの話で。海外各国のマイクロソフトからしたら「使いきれてない有給休暇を使えばいいのでは?」という発想なんですが。でも幸いなことに売り上げも落ちませんでした。

天野:育休は「最低2週間」必須という設定に、拒否反応ってありましたか。

杉田:当初「周りに迷惑をかけてしまう」「上司がきっと嫌な顔をする」といった懸念は多く寄せられましたね。単純に休んでいる期間、仕事に穴を空けることになるので気兼ねするのでしょう。だから、早い段階から「人事本部長」名で取得を促すメールを送ることにしました。ポイントは、本人だけでなく、宛先に上司と担当役員も含めることです(笑)。

天野:「人事本部長から言われたら、仕方ないな」と上司に思わせるわけですね。

杉田:上司からしたら「上から言われたから、仕方ないな」でもしょうがない。初めはそれでもいいから、とにかく取らせる、と。でも段々、上司の側が変わって来ましたよ。これはまだスタートでしかないので、実際に職場がサポートするっていう部分はまだ部署のマネジャーに依存しているところでもあります。

杉田本部長が実際に送っている、男性社員に育休取得を促すメール
杉田本部長が実際に送っている、男性社員に育休取得を促すメール
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

「仕事に穴を空ける」への対処策は?

天野:まぁ、よく考えれば2週間程度だったら、インフルエンザで強制的に休むことになるのと、それほど変わらないともいえますよね! 「育休」という名目だとなぜかそんな騒ぎになりますよね……。小泉大臣の話もしかり。個人の意識が変わるべきところも大きいように思います。代替えスタッフはどうされているのですか?

杉田:決して育休の穴埋めのために始めたものではないんですが、結果的にうまく回るかもしれないことで、「リターンシップ」という制度があります。出産・育児、介護などさまざまな理由で、現在は正社員として働いていない女性に向けたもの。ビジネス現場への復帰を後押しするのが目的です。具体的には、当社で3~6カ月間の有給インターンシップを経験してもらう。

高いスキルを持つ経験豊富な人材であっても、現場を離れている期間が長いと、復帰へのハードルが高くなってしまうことは多々ありますよね。終了後、当社で正社員として残って働いてもらう道もあります。しかし、当社以外で働くことになってもお引きとめしません。

天野:「リターンシップ」すばらしいですね!私も参加したいくらい!でも、「育休を取得すると職場に穴が空く」問題とどう関係するのですか?

杉田:実は、育休中の社員が受け持っていた仕事を、リターンシップの参加女性にフォローしてもらうという運用にトライしてみたんです。これがうまくいっています。

天野:なるほど! プログラムに参加する女性側としては、御社で最先端のITリテラシーを身に付けられるのも心強いですね。

杉田:そうなんです。参加者と面談などをする中で耳にするのは、「数年間職場を離れていると、パワーポイントやエクセルの機能など、仕事をする上での『ツール』の部分が随分とアップデートされてしまっている」ということ。でも、仕事の核の部分で大切になるスキルは、それほど大きく変わらないんです。学び直しができる復帰のプラットフォームさえあれば、十分に活躍できる人材はたくさんいると思います。

天野:「育休社員の穴埋めをリターンシップ人材で」という可能性は、初めから想定していたんですか。

杉田:いいえ、初めはどちらかというと、人事から各部署に「受け入れてください」とお願いするようなニュアンスでした。でも、結果的に心強い戦力になってくれています。

当社としては、優秀な人材を獲得するための一つの方法として始めた制度ですが、今後は知見を他の企業ともシェアし合っていきたいと考えています。さまざまな事情で「現場を離れた期間」があっても、スムーズに復帰できる――。そういう機運を社会全体に広めるムーブメントを盛り上げていきたいですね。 

杉田人事本部長
杉田人事本部長
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

不安から解放されたら育休も取りやすくなる

天野:「現場を離れたらキャリアが断絶する」という不安があったら、女性も男性も安心して育休が取れない。

杉田:そう思います。多様なアイデンティティーや働き方を尊重するダイバーシティー&インクルージョン(D&I)の土壌がない企業に、ポーンと「男性育休の必須化」だけを取り入れても、取得した瞬間に本人が孤立するというようなことが起こってしまう。全部繋がっていると思います。

天野:日系企業では特に、まだまだ根本的にD&Iを受け入れられない“粘土層”みたいな人たちもいます。できるだけ長く会社にいて、上司に「頑張ってます!」という姿勢を見せないと、という感覚が残ってますが……。御社にはいないのでしょうか?

杉田:いや、全くのゼロということはないと思います。特に多くの仕事を抱え、責任も重いマネジャー層では、そう簡単に発想を変えにくいという本音を持つ人はどうしてもいるでしょうね。短い時間で生産性を上げる働き方をするには、一緒に仕事をするクライアントの理解もないと、成立しにくい部分もありますし。

ただ、会社の立場から少し厳しいことを言わせてもらうと、もう発想を変えられない人はマネジャーになってもらっては困るんです。もちろん、啓発や教育の機会は会社として提供しますが、それでも共感できない、変われないとなれば、別の会社に行ってもらえばいいわけですから。

働き方のカルチャーを変えていくというのは、短期的には惰性でも回っていってしまうからこそ後回しになりがちです。だからこそ、それくらいの覚悟で取り組んでいます。

「発想を変えられない人は別の会社へ行ってほしい」と、なかなか公には言えません。人事本部長自らがこのような発信をしていることが、若手社員の流出を抑止し、右肩上がりの成長を続けている理由なのだと感じました。


と同時に「うちの人事部長にこの一言を言ってほしい~!!」と、待ち望んでいる読者の顔が頭に浮かんでしまいました。カチカチの厚い粘土層がどう変わっていけるのか、そこが日本企業の一番の課題だとあらためて感じています。


※「ウチは粘土層→砂層に変わったよ!」という企業様がありましたら是非取材させてください。(天野妙)

「育休男子」 に質問! 取ってみてどうだった?

日本マイクロソフトで実際に育休を取得した男性2人にも、話を聞いた。会社として積極的に取得を勧めているだけあって、「言い出しにくい空気」や「キャリアが絶たれるのではないかという不安」はほとんど感じなかった様子だ。

体験談を話してくださった土居さん(右)、永谷さん
体験談を話してくださった土居さん(右)、永谷さん
Yuriko Izutani / HuffPost Japan

 ■土居昭夫さん(44歳)

・長女 7歳
・長男 0歳7カ月
・育休取得期間 約2カ月半

「いざ『取得しなければいけない』っていうのが分かると、『仕事をどう調整しよう?』『時期はいつ?』と具体的なステップを考えるようになりました。休みに入ったのは4月からですが、上司とは前年のうちに相談を始めていましたね。所属部署では過去に半年間の育休を取得した男性の例もあり、心理的抵抗はほぼゼロ。育休中は完全に家事が専業になったので、洗濯や料理などのスキル上げをする良いトレーニングになりました! 性別役割分業の考え方は、社会全体でみるとまだ根強いように思います。僕たち自身が『それは違う』というメッセージを発信していきたいです」

■永谷 翼さん(38歳)

・長男 1歳
・育休取得期間 約1カ月半

「里帰り出産をした妻が、自宅へ戻るに当たって育児への不安を口にしたとき、以前日本マイクロソフトの社長が『男性も育休を取ろう』と全社に呼びかけていた記憶がよみがえったんです。上司に相談したところ、快く承諾してもらえたので安心しました。育休を取ってみて一番よかったことは、マインドセットが変わったこと。もともと、育児や家事は妻がやるものという発想は全く持っていませんでしたが、『手伝うのではなく、主体的に取り組む』という姿勢が自然に身に付いたと思います。妻と2人で、その後の子育てのプランについてじっくり話せる時間を持てたのもよかったです」

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