新型コロナウイルス(COVID-19)
2020年01月24日 17時44分 JST | 更新 2020年01月30日 15時54分 JST

【新型コロナウイルス】感染症専門医師が教える、新型肺炎について今知っておくべきこと

中国で流行している新型コロナウイルスによる肺炎。マスク着用は有効なのか? をはじめ、現時点でわかっていることをQ&A形式でわかりやすく解説します。

時事通信社
マスクをして買い物をする外国人観光客。24日からの春節(旧正月)大型連休を前に、海外旅行など人の移動が始まっている。新型コロナウイルスによる肺炎で深刻な被害が出ている中国湖北省武漢市は感染拡大を防止するため空港や鉄道駅を閉鎖した(東京都中央区)

最新の記事(「【新型コロナウイルス】感染症専門医師が教える新型肺炎、私たちが今すべきこと」)はこちらを参照ください。

昨年の12月より、中国国内において、新型のコロナウイルスによる感染症が流行しています。
中国の国家衛生当局の発表によると、124日午前0時までに中国本土で感染が確認された患者数は830人、うち重症が177人、死者は26人となりました。

さらには、日本、韓国、台湾、タイなど近隣諸国のほか、アメリカでも感染者が確認されており、世界的な広がりの兆候もみられています。

毎日のように新たな情報が入ってきていますが、現時点で分かっていることを整理しつつ、一般の方々に知っておいていただきたいことを問答形式で解説いたします。

 

問1 コロナウイルスによる感染症とは、どのような病気なのですか?

コロナウイルスというのは、ヒトや動物のあいだで感染症を引き起こす病原体で、これまで6種類が知られていました。
うち4種類は、咳や咽頭痛などの上気道症状しか引き起こさないウイルスで、私たちが「風邪」と呼んでいる病気の10~15%程度はコロナウイルスによるものです。あとの2種類は、深刻な呼吸器疾患を引き起こすことがあるウイルスで、重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)として世界的に流行しました。

SARSは、コウモリからヒトへと感染して、2002年11月から2003年7月のあいだに8,069人の感染(疑い例を含む)が報告され、そのうち775人が死亡しています(致命率 9.6%)。ただし、死亡した人の多くが高齢者もしくは基礎疾患を有する人で、子供は感染しても軽症だったことが特徴です。

MERSは、ヒトコブラクダからヒトへと感染して、これまでに2,494人の感染が報告され、そのうち858人が死亡しています(致命率34.4%)。ただし、調査によってサウジアラビア人の0.15%がMERSに対する抗体を有していることが明らかになっています。つまり、少なからぬ人が、ウイルスに感染しても軽症あるいは無症状で回復しており、重症化するのは、高齢者や基礎疾患を有する人であろうと考えられています。

いま、中国で流行している新型コロナウイルスによる肺炎とは、これまで知られていなかった新しいウイルスによる感染症です。断片的な臨床情報しか伝わってきていませんが、主たる症状は発熱であり、一部に呼吸困難を訴える患者もいるようです。胸部レントゲンでは肺炎所見があるようですが、現時点では、病院を訪れる程度に症状のある患者に検査を実施しているため、肺炎のない風邪程度の感染者がどれくらいいるのか、まだ分かっていません。

予断を許さぬ状況ではありますが、これまでの経験に照らせば、一定の数の軽症者はいるでしょうし、とくに重症化するのは、高齢者や基礎疾患を有する人ではないかと思われます。

 

問2 いま流行している新型コロナウイルスへは、どのようにして感染するのですか? 

何かの野生動物が感染源だろうと推測されます。当初は、武漢市内の海鮮市場に出入りしていた人に感染者が集中していたことから、そこで処理された動物由来の飛沫を吸入したり、体液に接触したことが原因かもしれません。ただ、残念ながら、現時点では動物の種類は同定できていません。

加えて、ヒトからヒトへの感染が起きていることも確実となっています。感染している人の咳から生じる「しぶき」を吸入したり、ウイルスが含まれる喀痰や唾液などに触れた手で口や鼻、目を触ったことで感染が起きているものと考えられます。

同居する家族やケアを提供した医療従事者への感染が確認されていますが、レストランや電車などで空間を同じくしただけで感染しうるかは明らかではありません。

 

問3 新型コロナウイルスに感染した場合には、死亡することもあるのでしょうか?

これまで中国本土で感染が確認された830人のうち、26人の死亡が公表されています(124日午前0時時点)。ただし、子供や基礎疾患のない人にとっても、死亡するリスクがあるかについては明らかではありません。

また、感染していても軽症で受診していない方も多いはずで、母数(感染者数)が分かっていないことも踏まえる必要があります。つまり、致命率 3.1%(=26/830)と計算して単純に比較することはできませんが、現時点の情報からすると、SARS(致命率9.6%)やMERS(同 34.4%)ほどの病原性はないのかもしれません。

ただし、こうした新興のウイルスは、変異を繰り返しながらヒトへの適応性を高めることがあります。つまり、今後、高い感染力により爆発的に広がったり、病原性が増して死亡者が増える可能性は残されており、国際的な連携のもと注意深く監視していくことが必要です。

 

問4 ここ数日のうちに、患者数が急速に増加しているようです。ウイルスがヒトへの適合性を高める遺伝子変異をして、感染力が高まっているのでしょうか?

その可能性はあります。ただし、最近の中国における報告数が増加しているのは、検査体制が強化されたことにも理由があるでしょう。つまり、これまで調べていなかった人たちについても、検査が行われるようになったため、報告数が急増しているものと考えられます。

患者と接点が見当たらない人、あるいは、接点があっても(ケアに関わっていないなど)濃厚なものではない人から感染者が多発するようになったとき、このウイルスの感染力が高まっていると判断されます。現時点では、そこまでの感染力は確認されていません。

 

問5 新型コロナウイルスに有効な治療薬やワクチンはあるのですか?

コロナウイルスに対する特効薬はありません。いわゆる対症療法といって、解熱剤などで症状を緩和し、必要に応じて呼吸や循環を支える治療を行いながら、自らの免疫による回復を待つことになります。

また、今後、ワクチンが開発される可能性はありますが、流行が確認されたばかりの現時点ではありません。

 

問6 新型コロナウイルスへの感染を防ぐため、どのような対策をとればよいのでしょうか?

現時点では、患者を診療する可能性のある医療従事者でない限り、日本で暮らしている一般の方が特別な対策をとる必要はありません。あえて挙げるとすれば、咳エチケットや手洗いなど日頃の感染対策をしっかりすることでしょう。

今後、日本国内で流行が始まった場合には、できるだけ感染者と接触しないようにすること、感染者と接触する(可能性が高い)ときはマスクを着用すること、日頃から手洗いを心がけることが必要になります。

また、新型コロナウイルスへの感染の有無によらず、日頃より、発熱や咳などの症状がある人が、咳エチケットを心がけ、できるだけ外出を自粛して、周囲にうつさないように行動することが大切です。こうした配慮が、地域全体の感染症に対する防御を高めていくものです。

 

問7 中国では春節の連休が始まります。日本を訪れる方も多いかと思いますが、それによって、感染が拡大する可能性はあるのでしょうか?

中国では1月24日から春節(旧正月)の大型連休が始まります。この期間に、帰省や旅行で数億人の人たちが国内外を移動すると言われます。列車やバスでの移動では、長時間にわたって狭い空間を同じくするため、ウイルスの感染力が限定的であったとしても、感染が拡大しやすい状態になると言わざるをえません。

思い返せば、2009年の新型インフルエンザの世界的流行も、4月12日から17日までメキシコ最大の祭りであるセマナ・サンタ(Semana Santa = 聖週間)が深くかかわっています。

すなわち、都市部の住民が大挙して里帰りして、さらにはパレードを見ようと欧米から観光客がメキシコを訪問していたわけです。そして、4月下旬から世界的な流行が始まってしまいました。今週から始まる春節が、同じことの繰り返しにならないことを祈ってます。

ただし、現時点では、中国全土での流行が起きているわけではありません。数百人の感染をもって、日本を訪れる中国人全体を危険視したり、忌避するのは過剰な反応だと思います。感染症は目に見えないだけに、差別や偏見の原因になりがちなので注意が必要です。

一方、医療機関においては、武漢に限らず中国からの渡航者が受診したときは、新型コロナウイルスの感染症を疑う姿勢が求められます。とくに発熱に呼吸器症状を伴っている場合には、保健所と連絡を取り合いながら必要な検査を行っていくことになるでしょう。

近年、中国人のあいだでは、日本の医療に対する信頼が高まっており、治療を求めて受診する患者が増えてきました。このため、今後の流行により中国の医療機関が混雑してくると、あるいは中国国内の医療対応が不十分との噂が回ると、治療を求めて来日する患者が増えてくる可能性があります。

つまり、春節よりも春節終了後を私は心配しています。中国で感染拡大してからの医療提供体制を私たちは考えておかなければなりません。

 

問8 検疫を徹底すれば、国内への侵入を防げるのではないですか?

検疫とは、国内への侵入を防ぐうえでの最初の防壁です。武漢市を訪れた方で、帰国時点で症状があるときは、必ず検疫に申し出ていただきたいと思います。

ただし、新型コロナウイルスの潜伏期間について現時点では不明ですが、SARSやMERSの経験から、おそらく2週間程度はあるものと考えられます。いずれにせよ、感染していても発症していない期間があるので、サーモグラフィなどを活用したとしても、症状を確認しているだけの検疫ゲートでは感染者の侵入を防ぐことはできないでしょう。

 

問9 中国を訪問する予定があります。感染を予防するためには、どのようなことに注意すれば良いでしょうか?

現時点では、中国全土で流行しているわけではありません。渡航しようとしている地域の最新の流行状況を参照してください。ただし、春節とともに全土に広がる可能性があるため、とくに空港や鉄道駅などの人混みにおいては、流行していない地域であっても、感染者と接触する可能性は否定できません。

渡航すべきでないとまでは申しませんが、その必要性について個別に検討いただければと思います。高齢者や基礎疾患がある方、とくに免疫が低下している方、あるいは妊娠している方については、主治医によく相談されることをお勧めします。

渡航された場合には、現地では、石鹸と流水による手洗いもしくはアルコールによる手指消毒を心がけてください。また、できるだけ食肉を扱う生鮮市場には近づかないようにしてください。あえて狩猟肉(ジビエ肉)を口にすることがないよう注意しましょう。

人混みでマスクを着用することも有効かもしれませんが、その効果を信頼しすぎないことが大切です。実際、私たち感染症を専門とする医師からみると、マスクを正しく着用できている一般の方々は少ないです。

マスクから鼻が出ているのはもっての外ですが、たとえば、マスクの表面を素手で触っていませんか? 触ってしまったときは、すぐにマスクを捨て、手洗いをしていますか?

コロナウイルスを含めて、飛沫感染する感染症の多くが接触感染もします。つまり、汚染された手で鼻や口を触ることでも感染しうるということです。もし、その手についた病原体を口元にあてているマスクに付着させるならば、むしろマスクをつけてない方が安全ですらあります。

私たち医療従事者は、こうしたマスク着用のトレーニングを経て、感染している患者さんから自らへの感染を予防しています。一般の方々にとっては、マスクとは咳エチケットの一部であって、つまり感染して咳があるときに着用するものと考えていただければと思います。

 

問10 中国への渡航後に発熱した場合には、どのようにすればよいのですか?

国内で発症した患者をいかに早期に発見し、医療に繋げられるかが、国内での感染拡大を防止するうえでは重要となります。

中国への渡航後2週間以内に発熱や咳嗽などの症状を認めるときは、あらかじめ医療機関に問い合わせたうえで、指定された方法で受診するようにしてください。よく分からないときは、保健所に問い合わせることもできます。

また、中国人を雇用している事業者については、従業員が春節で里帰りをしたり、あるいは逆に親族の訪問を受けたりしているかもしれません。留学生についても同様です。あまり疑心暗鬼になる必要はありませんが、日本語の情報が届いていない可能性もありますから、適切に行動できるようサポートしてあげてください。

私たち病院の医師としては、中国に限らず海外から帰国した方の感染症をきちんと診断し、必要に応じて入院いただいたり、外出を自粛するように求めたりしています。今年のオリンピックをはじめとして、国際的な交流が活発になっていきますし、丁寧に感染症の診療を行っていきたいと思います。

 

問11 新型コロナウイルスへの感染が疑われると隔離されてしまうのでしょうか?

感染症に罹患した人の入院措置(隔離)については、病原体ごとに法律に基づいて勧告されます。

現在、中国で流行している新型コロナウイルスについては、いまだ法律上では定められていないため、必ずしも入院になるわけではありません。もちろん、疑われているだけで隔離されることもありません。

国立感染症研究所と国立国際医療研究センター・国際感染症センターが策定した方針(案)では、医学的に入院が必要と判断される患者について感染対策が十分に実施できる医療機関に入院をさせ、入院の必要がないと判断された患者については自宅安静とすることが示されています。

もし、自宅での感染対策が実施できない場合は、保健所と相談のうえ療養場所を検討することになります。

 

問12 これから世界的な流行へと発展するのでしょうか?

わかりません。中国政府も、武漢市からの交通を遮断するなど、かなり本気になって封じ込めの努力をとりはじめたようです。

しかし、それが奏功するかは、ウイルスの感染力によるでしょう。すなわち、ヒトからヒトへの感染が限定的であるなら、流行地域からの出入りを最小限に抑え、域外にいる感染者を確実に捉えて、外出自粛など感染予防に協力いただくことで、流行を封じ込めることができる可能性はあります。

一方で、インフルエンザほどの感染力を有していた場合には、世界的な流行へと発展する可能性が高いでしょう。この場合、数ヶ月にわたって流行することを想定しなければなりません。すなわち、7月から8月にかけての東京オリンピック・パラリンピックに関わる可能性もあり、難しい問題を私たち日本人は突きつけられるかもしれません。

このように不安定かつ見通しの立たない状況では、根拠のない「噂」が飛び交って、さらに混乱に拍車がかかることがあります。日本にいる私たちにとって大切なことは、信頼できる情報源は何かを見極めるリテラシーをもち、SNS上などの「噂」に振り回されることなく、落ち着いて適切な行動をとることだと思います。