アートとカルチャー
2020年05月31日 10時12分 JST | 更新 2020年06月01日 10時11分 JST

「小劇場をなくして、アーティストは生まれない」。成河さん「エイド基金」を語る

多数の公演の延期や中止を決断してきました。本来あるはずだった収入が絶たれた、多くの小劇場のダメージは行政や運営会社の支援が期待できる劇場に比べてより深刻です。

Suzumi Sakakibara
オンラインでインタビューに答える成河さん

政府の自粛要請が出た2月末から、要請に従って演劇界は多数の公演の延期や中止を決断してきました。3、4、5月の3ヶ月、本来あるはずだった収入が絶たれた、多くの小劇場。そのダメージは行政や運営会社の支援が期待できる劇場に比べてより深刻です。

公演を予定していた劇団や、現場の仕事がなくなった演劇人もまた窮地に立たされており、状況は逼迫しています。

 

そんな流れを受け、存続の危機に立たされている日本全国の小劇場の運営継続を支援するため、クラウドファンディングで「小劇場エイド基金」(https://motion-gallery.net/projects/shogekijo-aid)が立ち上げられました。集まった資金から手数料などを差し引き、日本全国約50箇所の小劇場に均等分配されるとのこと。 

HuffPost Japan
6月5日まで行われているクラウドファンディング「小劇場エイド基金」

 同プロジェクトの賛同人には、俳優の八嶋智人さん、篠井英介さん、中嶋朋子さん、演出家の鵜山仁さん、やなぎみわさんなど錚々たる方たちの名前が並んでいます。

その賛同人の1人で、大劇場から小劇場までさまざまな舞台で活躍している俳優の成河(そんは)さんに、なぜ「小劇場エイド」が必要なのか、お聞きしました。

 

成河(そんは)さんプロフィール

1981年生まれ、東京都出身。法政大学卒業。演劇活動は東京大学のサークルからスタートし、北区つかこうへい劇団などを経て、国内外の演出家の幅広い作品に出演。平成20年度文化庁主催の第63回文化庁芸術祭において演劇部門の新人賞を受賞。2011年に第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。

Suzumi Sakakibara
そんはさん

 小劇場を助けずして、どこを助けるんだ

 

――今回の「小劇場エイド」にはどんな思いで賛同なさったのですか?

小劇場は僕のルーツであり、いつでも帰っていく場所だと思っています。また、文化として大きなメディアに枝分かれしていく最初の源流、「工場」としての役割も、小劇場は担っている。世の中が回復したとしてもその時「工場」が壊れていたら、市場に並ぶのは古びて見慣れた模倣品ばかりになってしまいます。

純粋に作品のことだけ考えていられる工場。小劇場をなくして、アーティストという存在が生まれるわけがないんです。小劇場を助けずして、どこを助けるんだという思いがありました。

そして、「人の顔」でお金を集めるのは比較的簡単なご時世ですが、「小劇場エイド基金」は「人」ではなく「場所」で支援を集めるものです。「場所に価値があるんだ」という考え方が、至極健全な気がしました。

僕はいわゆる“大劇場”の作品にも出演しています。だから、小劇場できちっと「実験」がなされないまま、大劇場でものが作られるというのは、恐ろしいと思うことがあるんです。

先ほど小劇場は「工場」と言った通り、小劇場でサブカルよりもっとサブのサブ、とても狭いところで作られた、ものすごく濃度の高い要素が、時間をかけてじわじわと別のメディアに影響を与えるでんです。舞台に立つ現場感覚として、そう感じることが多いので、やはり小劇場は大切な場所だと思っています。

 

――成河さんご自身も、いくつかの舞台で「公演中止」をご経験なさっています。「中止」が決まったときのお気持ちは?

「中止」と聞いたときは現実感があまりなくて、後からじわじわじわじわと実感が出てくる感じですかね。

「公演ができなくなる」ということも、演劇のひとつの醍醐味かなと考えている部分もあるんですよ。ビデオだったら、明日、もう一度再生すればいいじゃないですか? 代わりのものがあるものは、その代わりのもので済ませばいい。でも演劇は代替不可能だから、新型コロナの影響で窮状に追い込まれ、舞台人もお客様もこんなに嘆くのだと思います。

ただ、冷静に、必要なものを残す努力、来年、再来年に向けた努力を確実にやっていくべきであって、必要以上に嘆かないようにしたいとも感じています。

演劇は、いつでも、誰でも、どこでも始められるものです。蝋燭1本、目の前に観てくれる1人の人がいれば始められるもの。だから、なくなることはないわけです。

人類の営みとして、人が歌を歌うのをやめることがないのと同じように、演劇がなくなることはありません。産業としてとは、話は別ですが。

 

 

――営みとしての演劇はなくならないとしても、産業としては、現在、危機的状況ですよね? 営みとしては続けられるし、成河さんが演劇をやめることはなかったとしても、産業として立ち行かなくなってしまったら、演じる機会を失う人たちがたくさん出てくるのではないでしょうか?

その通りだと思います。だから、そのために「小劇場エイド基金がある」ということです。このまま、公演中止、延期が続くと、今後人々は演劇の営みがどういうものなのかを全く知らないまま過ごすなんてことが起きる可能性が十分ある。それを防ぐための努力として、基金が位置付けられています。

また、小劇場という場所は「反骨の場」でもありますよね。「反骨のものづくり」の機会が失われた状況というのは、非常に怖いです。

そういう意味でも、演劇界における支援は小劇場が最優先だなと思っていますね。まずは場所としての「小劇場」、そしてこれから演劇をやりたいと思う人たちの背中を押すことが大事だと思っていますので、「ご支援をお願いします」という言葉になるんです。

 

――東京都のロードマップなどを見ていると、演劇ファンがまた劇場に足を運べるまでには、まだ時間がかかりそうです。現在、観劇できず淋しい、辛い思いをしている人たちに、どうか励ましのメッセージをいただきたいのですが。

正直、演劇がまた産業として安定するのはずっと先だと思います。もしかしたら、本当の意味では元に戻らないかもしれない。

でも、産業ではないところでやってきた活動はなにも変わることはないでしょう。

「大きな産業の場」ですぐにまた会えるとは簡単に約束できないですが、演劇は必ず始まっていきますし、続いていきます。それは信じているというか、疑いもなく、そう思っていますから。また会えるから大丈夫ですよ。

逆に今回窮地に追い込まれたことで、多くの演劇人は鍛えられていると思います。だから、きっとおもしろいものがたくさんできて、すごい作品が観られますよ、きっと。そのためにもできるだけ多くの方たちに「小劇場エイド」に関心を持ってもらえたらと思います。