小泉今日子さんが望む未来「15歳の私が勇気を出した一歩が、いまの自分につながっている」

「新しい地図が発表されたとき、『素敵だな』と思って見ていた記憶があります。(俳優の)のんちゃんみたいな人もいるし。彼らはがんばって、そういう自由な表現ができる場所にたどり着いてるんだろうな」。インタビュー・後編です。
小泉今日子さん
小泉今日子さん
KOOMI KIM/金 玖美

歌手・俳優として活躍してきた小泉今日子。彼女が俳優・豊原功補らとともに、はじめてプロデュースした映画『ソワレ』が8月28日に公開された。前編では、具体的な作品のプロデュースについて話を訊いた。   

多くのひとがかかわる映画製作は、たとえそれが低予算であっても複雑な工程をたどる。撮影そのものにかかる予算だけでなく、編集などのポストプロダクションをはじめ、宣伝、配給、そして劇場のブッキング、さらには配信やDVDなどの二次使用など、多岐に渡る。

映画プロデューサーは、それらすべて含めて統括し、ひとつの映画を完成させるのが仕事だ。小泉今日子は今回、アソシエイトプロデューサーという立場で、それに挑んだ。 

映画『ソワレ』
映画『ソワレ』
(C) 2020ソワレフィルムパートナーズ

映画づくりは横に仲間をつくることが大事

━━演劇プロデュースはやってこられましたが、映画製作は今回がはじめての試みです。やってみてどのようなことを考えられたでしょうか?

最初は、映画がどう創られているのかまったくわかっていませんでした。俳優として出ている場面しか見てないですから。どんな段取りで進めればいいのか分からないので、ちょっと尻込みしていたんです。

演劇はそれよりもずっとシンプルなんです。劇場のキャパがあって、チケット代を決めて、それがそのまま予算になる。想定される売り上げを予算にして、そこから振り分けていく。

でも映画って、まず何もないところから始めなきゃいけないんです。どこから製作委員会を組んで出資者を募るとか、配給をどうするかとか、それに対してどういうリクープがあるかとか、ちょっと複雑です。

そこで、いちど映画づくりに長けている方にレクチャーしてもらおうということで、思い浮かんだのが東京テアトルの西ヶ谷寿一プロデューサーでした。まず西ヶ谷さんにいろいろお話をうかがって、台本も見ていただいたら気に入ってくださって、配給もやってくださることが決まりました。これは心強かったです。この作品でも協力プロデューサーとしてご尽力いただきました。

こうやって創っていって強く思ったのは、組織や忖度などじゃなくて、やっぱり横に仲間をつくるのがすごく大事だということです。

映画『ソワレ』
映画『ソワレ』
(C) 2020ソワレフィルムパートナーズ

━━創るプロセスでは、上手くいったところもあれば、逆に上手くいかなかったところもあったと思いますが、どうでしょうか。

本当ならば、製作委員会をつくらず自分たちだけでやってみたかったんです。ただ、結局現場をやっていくなかで、どうしても予算オーバーをしてしまうこともありました。

なので、最終的にいろんな方に出資してもらって委員会という形にさせていただいたんですけど、今回ご参加くださったみなさまは、「こうじゃなきゃいけない」という意見を言わない方々ばかりで、幸せな委員会だと思います。やりたいことを通させてもらいました。なので、あまり上手くいかなかった感覚は、いまのところないです。

……でも、まだこれからなんでしょうね。蓋を開けてみないとお客さんがどれだけ入ってくださるかわからないし。しかも今回は、新型コロナの問題があって、映画も演劇もお客さんを50%しか入れられない状況です。だから、大ヒットってどうやったらできるかな、という感じはあります。

ドメスティックな万人受けで世界が広がらない

━━外山監督に対して「万人受け」ではない方向でアドバイスしたという話をされていましたが(前編)、プロデューサーとしてはその方向の方が、お客さんがたくさん入るかもしれないという欲も働きかねないところですよね。

でも、たとえばその「万人受け」って、日本の場合は日本に住んでいる人しか入ってないですよね。 

ドメスティックな万人受けで世界が広がらないのは、映画に関してはとても感じています。上手くいくかどうかわからないけど、もうちょっとアジアを中心にいろんな人たちに観てもらえるようなチャレンジをしたいと思っていました。

小泉今日子さん
小泉今日子さん
KOOMI KIM/金 玖美

今回は、海外の映画祭やセールスをやってくださるカラーバードさんにも、かなり早い段階でご相談して製作委員会にも入ってもらい、いろいろとアドバイスもいただきながらやってきました。一応海外の映画祭にも投げかけてはいたんですけど、これもまたコロナの影響もありまして……。

でも、実はインドネシアでは日本映画が意外と上映されていて、私が出演した『ふきげんな過去』(2016年)も多くの方に観ていただけたらしいです。日本ではそういうニュースをあまり聞かないですが、韓国はもう早々にマーケットを広げていて、たとえば舞台挨拶などのプロモーションにも海外を含めていると思うんです。『ソワレ』は小さい映画だし、日本国内ももちろんですけど、こまめに海外にも出していきたいと思ってます。

もちろん、もともと中小規模の映画はそういう目線で創られていて、カンヌ映画祭などで賞を獲ったり、いまだったら深田晃司監督もそういうことをなさってるように、いろんなアプローチがありますよね。大手の方があんまり変わらない印象です(笑)。

小泉今日子はなぜここまで行動をするのか  

小泉今日子さん
小泉今日子さん
KOOMI KIM/金 玖美

話を訊いていて感じていたのは、なぜ小泉今日子はここまで行動をするのか、ということだ。すでに歌手や俳優としての十分な立場を確立し、幅広い支持を受けている。そのなかで、2018年には長年所属していた事務所から独立し、会社を興して演劇や映画のプロデュースに乗り出している。

新たなチャレンジを続ける小泉は、なにを考え、そしていったいどのような未来を見ているのか。インタビューの最後に、彼女の意思が見えた。

ロケ地で日傘さしてるプロデューサーでは意味がない

━━プロデュースする側に回って4、5年経ちますが、作品を創ることは楽しいですか?

楽しいは楽しいし、同時に、苦しいは苦しいです。

ただ、もともと自分は、子どもの頃に歌手に憧れてオーディションを受けたら受かっちゃったみたいな感じで、歌唱力もないし演技もぜんぜん上手くないし、本当に夢をもってこの世界に入ってきた人たちに敵うわけがないと思っていたんです。絶対的な能力を持っていない感覚はあって、だったら私が見たい理想の女の子像をプロデュースしようと思ったのが、アイドル時代の私なんです。それをやっているうちに、板についたっていう。

きっと、歌うことよりもそっちの才能、プロデュースする方がちょっと上手かもって感覚です。なので、やってきたことを大きく変えたわけではないんです。

━━俳優だけを続けていく選択もあったと思います。会社をつくるとリスクもあるし。

私がいまプロデューサーをやってると言っても、プロデューサーとは名ばかりでロケ地で日傘さしているイメージもあるのかな、とも思うんです。それだったら、あまりやる意味がないですよね。本気でやらないと、もう人生も長くないので(笑)。

この世界がもっと変わっていけば、という希望を未来に残したい気持ちもあるなかで、たとえば大きな傘の下で直射日光を避けながらやっても説得力がないんです。

前事務所を辞めたのもそのためです。あまり迷惑かけないように、広告の契約などもひとつずつ解除していって、ぜんぶクリアしてから辞めました。自分自身が忖度できない状態で始めようと思っていたからです。2015年に自分の会社をつくって、独立したのが2018年。もろもろの調整にちょっと時間がかかったな、という感じでした。

私の場合は15歳で事務所に入って、親より長い時間を一緒に過ごしてるんです。お互いに愛情があるから、親だと思ってくれていたとしたら、娘が荒波に船を出そうとしているのを止めるのは自然なことだと思います。そこを大丈夫だと分かってもらうために、時間がかかったのかなっていう気がします。

新しい地図が発表されたとき「あ、素敵だな」と思った

小泉今日子さん
小泉今日子さん
KOOMI KIM/金 玖美

━━さきほど「未来に希望を残したい」とおっしゃいましたが、それは日本社会に対してでしょうか。近年、新しい地図の3人をはじめ、芸能界にも変化が起きています。

新しい地図が発表されたとき、「あ、素敵だな」と思って見ていた記憶があります。私の行動もそうかもしれないし、(俳優の)のんちゃんみたいな人もいるわけだし。彼らや彼女ががんばって、そういう自由な表現ができる場所にたどり着いてるんだろうなっていう意味では、とても勇気を与えていると思います。 

のんちゃんは、いますごくいい顔していますよね。驚くほどキレイになったし、楽しそうですよね。私はのんちゃんと『あまちゃん』で共演して、彼女がすごく輝いていて、すごい才能を目の当たりにしていたので、楽しい顔をしててほしいなと思っていました。

芸能界を支えてきた大手事務所がいまの流れをつくってきた。私もその中で育てていただいた一人です。ただ、ネットやSNSが発達して、それまでのエンタテインメントに対する考え方とのバランスが取れなくなっているように見えます。テレビ局のあり方みたいなものも改めて問われている気もしますね。

もう一度初心に立ち返って、純度の高い作品や思いが求められてくるのではないでしょうか。これは常々、豊原さんがおっしゃっていることなのですが。そういうムードは役者やアーティスト、もちろんスタッフの中にも確実にあるから、独立の道を選ぶ人も増えたのかなと思います。

15歳の私が勇気を出した一歩が、いまの自分につながっている

━━小泉さんは、常に自分自身で考えて選択をしていますよね。むかしから一貫しています。

昨年、フランスのレティシア・コロンバニさんの『三つ編み』という小説を読みました。フェミニズム的な問題を抱えている、イタリアとインドとカナダの女性を描いた物語です。3人それぞれが勇気を出して、自分自身の小さな革命を起こすんです。そうすると、それがいつのまにか見知らぬ誰かと繋がっているという話なんです。そういうドラマが好きなんだと思います。

前に一歩進むときって、ずらっと(手を横に大きく広げながら)私の年表がぜんぶ前に進む感覚があります。時代ごとぜんぶ前に進む感覚です。 

自分の過去も含めて、5歳の私が勇気を出した一歩がいまの自分にもつながっている。15歳の私もそう。だから、いまの54歳の私の一歩は、70歳の私につながっているんです。 

KOOMI KIM/金 玖美

(取材・文:松谷創一郎/編集:毛谷村真木

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