目黒虐待死の母親、上告しない方針「思い残すことはない」と弁護人に伝えていた

高裁は懲役8年とした一審を支持。被告側の控訴を棄却した。
東京高等裁判所の入る建物=9月8日撮影
東京高等裁判所の入る建物=9月8日撮影
Nodoka Konishi / Huffpost Japan

東京都目黒区で2018年3月、5歳だった船戸結愛さんが虐待を受けて亡くなった事件。保護責任者遺棄致死罪で起訴された母親の優里被告の控訴審判決が9月8日、東京高等裁判所(若園敦雄裁判長)で行われ、懲役8年とした一審の東京地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。

優里被告は出頭しなかった。弁護人は裁判後取材に応じ、上告しない方針を明らかにした。

弁護側の主張「心神耗弱だった可能性」「極めて従属的」

弁護側は控訴審で、優里被告は結愛さんが元夫の雄大受刑者(保護責任者遺棄致死などで懲役13年の判決が確定・事件後に離婚)によって浴槽に閉じ込められていたのを目撃し、急性ストレスによる解離性健忘(記憶喪失)状態に陥っていたと初めて主張。「心神耗弱だった可能性がある。記憶喪失に至るほどの状態だった」とし、そうした精神状態を考慮した上で量刑を判断すべきだと訴えていた。

また、優里被告も雄大受刑者から長時間の説教を受け、結愛さんへのしつけに関しても一方的な意見を押し付けられ、母子らしい触れ合いや手助けも許されないなど、心理的DVの被害を受けていたと主張。精神的に支配されており、「(優里被告は雄大受刑者に対して)極めて従属的だった」などとし、減刑を求めていた。

解離性健忘状態だったとしても判決の評価は左右しない

判決によると、優里被告は雄大受刑者が見ていないところで結愛さんに食べ物を与えたり、3月に入り結愛さんが衰弱してきた際に雄大受刑者に外に出るよう求めていたりしたことから、結愛ちゃんを助けるための行動を選択することは「十分に可能であった」と認定。心理的DVの影響は認めたものの、行動を支配するような「強固なものではなかった」とし、一審判決を支持した。

また、急性ストレスによる解離性健忘(記憶喪失)状態についても、一審判決の評価は左右しないとしている。

優里被告は、浴槽への閉じ込めを目撃した後の時期に、結愛さんを病院に連れて行きたいと雄大受刑者に伝え、3月1日ごろに嘔吐した結愛さんの体を浴槽で洗う際には背中に傷があり、痩せ細っていることなどを見ていると指摘。「(結愛さんの)重篤な状態を認識していたことが明らか」なため、解離性健忘状態によって一審が前提としていた心理状態より悪化していたとしても、判決への影響はないとした。

一審判決では、優里被告は、雄大受刑者と結愛さんの弟とともに暮らしていた2018年1月ごろから、雄大受刑者とともに、結愛さんに対し必要な食事を与えず、雄大受刑者による虐待を結果的に容認。衰弱後も医師にみせず、3月2日に敗血症で死なせたとしている。

弁護人「本人は思い残すことはありませんと」

弁護人をつとめた大谷恭子弁護士は裁判後取材に応じ、上告はしない方針を明らかにした。「これから(優里被告に)接見して話し合う」としつつも、本人は元々、減刑を望んではおらず、「真実を明らかにしたい」という気持ちが強かったためだという。控訴審で浴槽に結愛さんが閉じ込められていたことなどについて証言したことで「思い残すことはありません」と弁護人に話し、刑に服して親権を持つ結愛さんの弟と生活したいと話しているという。

大谷弁護士は判決について「本当に残念」と一言。

特に一審で優里被告の精神鑑定請求が却下されたこと、控訴審でも一審後に精神科医師が新たに作成した意見書が証拠として却下されたことについて、心理的DVが与える影響や急性ストレスによる解離性健忘(記憶喪失)の状態を明らかにし切れなかった部分があると指摘。「心理的DVがどう影響するのか、捜査段階から鑑定する必要があるのではないかと思っている。そういった問題提起にはなったのではないか」と話していた。

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