アートとカルチャー
2020年09月27日 12時59分 JST | 更新 2020年09月28日 11時25分 JST

『半沢直樹』の女性4人はどう描かれた? 白井大臣を「お飾り」で終わらせてはいけない理由

『半沢直樹』で、彼女たちの主体性をもっと尊重するような役割を与えることができなかったことが惜しい。

TBS公式サイトより
『半沢直樹』

「人生は近くで見ると悲劇だが、 遠くから見れば喜劇である」というチャプリンの名言があるが、いよいよ最終回を迎える日曜劇場『半沢直樹』(TBS系、日曜夜9時〜)はまさに喜劇。

政府をも巻き込んだメガバンクの不正を、バンカーの矜持を賭けて暴く半沢(堺雅人)と大和田(香川照之)たちの演技バトルが回を追うごとに激化。彼らが真剣に演じれば演じるほど面白さが倍増していく。

ひとつ残念なのは、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』などのバトル漫画のような過剰さや、時には敵と共闘していくような熱い展開に女性キャラクターはほとんど参加していないことである。『半沢直樹』で話題になるのはもっぱら主役の堺雅人と、ライバル役の香川照之、片岡愛之助などによるアドリブを含む熱演だ。

そもそも、『半沢直樹』には女性の登場人物が少ないうえ、物語の中心からは距離を置かされている。公式サイトの出演者を見ると1〜4話(原作の『ロスジェネの逆襲』編)では男性20人、女性5人、5〜10話(原作の『銀翼のイカロス』編)では男性22人、女性4人(数字はナレーターと銀行のイメージキャラは含まず)。

『半沢直樹』の世界は、菅新内閣に女性がたった2人しか入閣せず、これでは安倍前首相が掲げた「女性が輝く社会」にはならないのではないかと指摘された状況に酷似している。

ここでは5〜10話の女性の登場人物について見てみよう。女性4人とは、主人公の妻・花(上戸彩)、国土交通大臣・白井(江口のりこ)、バンカー・谷川(西田尚美)、小料理屋の女将・智美(井川遥)である。

 

「夫上位」のバランスをとる妻・花

時事通信社
半沢花役を演じた上戸彩さん(=2018年11月21日撮影)

半沢の妻・花が極めて前時代的であることは前々から指摘されていた。

公式サイトによると、花はフラワーアレンジメントの仕事をしていたが、結婚を機に専業主婦になっている。原作では花の描写は少なく、とりわけ2020年版で使用されている『銀翼のイカロス』にはまったく登場していない。

ドラマでは、仕事に心血を捧げる夫に、結婚記念日を忘れられて文句を言いながらも、夫のケアに余念なく、つねにかなり品数多くしっかり料理を作っている。

食事をしながら仕事の話はするも、花は半沢の仕事に口を出すことはしない。第2話では、半沢に「ねえ、どの株が上がるの?」と無邪気に聞くシーンがあった。半沢は「株の値段には、金額だけでは表せない人の思いが詰まってる」と自身の仕事論を熱く語る。

花は、夫の仕事についてほどよく理解が不足していて、その部分を夫に教えてもらうことで「夫上位」のバランスをとっているように見える。

適度に夫に甘え、適度に夫に口うるさい、絵に描いたような人物である花の最大の注目点は、白井国土交通大臣のファンであるところだ。「女性は女性政治家に共感するものだから」という思惑で、白井を党の「目玉」に抜擢したのは、女性票のためであろうことを暗示する役割を花は果たす。こうした描き方は、かなり紋切り型の女性描写と言わざるを得ない。

そんな花も、2013年版では、銀行の妻の会に入って夫のために情報収集するという場面もあったのだ。ところが、2020年版ではそういう活動も鳴りを潜め、かろうじて、半沢の行きつけの小料理屋の女将・智美の正体を示唆する働きをしたのみだった。

このまま花の活躍の場はないのだろうか、気になりながら最終回を待っている。

 

「癒し」的存在である小料理屋の智美

時事通信社
智美役を演じた井川遥さん(=2014年10月08日撮影)

井川遥演じる智美は原作にいない存在である。彼女は東京中央銀行の合併前の不正事件に関与した人々の中で唯一の女性として作られたドラマ版のオリジナルだ。

原作ありのドラマで、オリジナルキャラクターとして女性が出てくる例は時々ある。

例えば、大和田として大活躍している香川照之の代表作のひとつ、映画『カイジ2』。映画では天海祐希が演じている役は、原作漫画では男性である。また、池井戸潤と並ぶヒットメーカー東野圭吾のミステリーのドラマ化『ガリレオ』(フジテレビ)では主人公の湯川(福山雅治)とバディを組む役(柴咲コウ)が女性に変更されていた(ドラマの影響か、放送後の小説でも女性が登場することになった)。

実写化にあたってキャラクターの性別を変えることに対する原作ファンの評判は芳しくない。それでも、「紅一点」という言葉があるように、男性ばかりのなかに女性がひとりいることは昔から当然のパターンとして受け入れられ、映画やドラマもそれに倣ってきた。

『半沢直樹』の場合は、わざわざ新しく作り上げた人物であるにもかかわらず、智美は当初は小料理屋の女将という「癒やし」的存在で、その後、元銀行員だったという正体が明かされても、男性たちの業深く、熱い闘いからは一歩引いた、アシスタント程度の活動しかしない。

 

「お飾り」と言われた白井大臣

所属事務所ノックアウトの公式サイトより
白井大臣役を演じた江口のりこさん

「お飾りだから」

稀有な女性大臣・白井が、半沢と敵対する政党・進政党幹事長(柄本明)からこの言葉を突きつけられた場面は、現実の政治の世界の反映を感じると同時に、『半沢直樹』における女性の扱いをも知らされたような気がしてならなかった。原作だと「客寄せパンダ」と言われている。

当初、珍しい女性大臣として活躍し、半沢たちの強敵になりそうに見えた白井だが、半沢との闘いに負け、責任をとって辞めると幹事長に申し出たとき、辞めることすら許されない。

重要なのは彼女の実務能力ではない。女性初の総理大臣を目指しているという話題性が党にとって必要なのだ。世間の女性の多くが、難しい政治経済のことはわからないが、同性の政治家を「共感」で支持する層を得るためという狙いを幹事長から聞かされたときの白井の屈辱は多くの働く女性の共感を得たことだろう。

「お飾り」扱いされた白井はこのままスポイルされたまま終わってしまうのか。そう思っていたら、最終回の予告では「くたばれっ!」と誰かに向かって叫んでいるカットがあった。

最後の最後に、この、女性が不在の物語に、一石を投じることになるのだろうか。それによって『半沢直樹』における女性観が決まると言っても過言ではない。花と智美はこれで役割終了だとしても、せめて、白井には最後に一発ぶちかましてほしいところだ。

 

「出番」が作られなかった女性の役者たち

『半沢直樹』で唯一、仕事ができて、不正とも闘って、スカッとする結果を出したのは政府系銀行のバンカー、谷川である。政府からの天下り社員ばかりに囲まれ不自由しながら、銀行員の矜持を見せた。

時事通信社
谷川役を演じた西田尚美さん(=2018年06月04日撮影)

そういう人物をひとり出したのだから、このドラマがジェンダーギャップを乗り越えられているのかといえば、それは通用しないだろう。

それこそ、西田尚美の芝居がすごい、江口のりこの芝居がすごい、というように、堺雅人や香川照之たちと並んで語られるような出番を作ることこそ、『半沢直樹』が、今この2020年にやるべきことなのではないだろうか。本放送の間に1回挿入された、裏話などを出演者が語る特別番組に、女性の俳優がひとりでも参加してほしかった。

江口のりこや西田尚美は、これまで映画や演劇などの世界で「お飾り」ではない芝居を演じてきた。それは、大声、顔芸、見事なアドリブとは限らない。

上戸彩はかつて、ドラマ『3年B組金八先生』(TBS)では性同一性障害の役をその信念の強さで演じきり、『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』では夫がいながら恋をして多くのものを失いながらもがむしゃらに生きていく情念を演じている。『半沢直樹』で、彼女たちの主体性をもっと尊重するような役割を与えることができなかったことが惜しい。 

ただ、ジェンダーの問題に関して『半沢直樹』にも評価できることがある。2013年には参加していない女性演出家が1人、2020年版では参加していることだ。原作者、脚本家、演出家、プロデューサーが全員男性だった2013年と比べると、女性スタッフがひとり加わったことは一歩前進といえるだろう。

唯一の女性演出家、松木彩の演出回は6話と8話で、単独演出は6話(8話はチーフの福澤克雄と共同演出)。黒崎(片岡伊之助)が再登場した回で、微妙な表情の変化など心情描写があった。

今の時代、こんなことが実際にまかり通っていたら問題であろうことが多く描かれてきたドラマ『半沢直樹』。高い視聴率と人気を誇った一方、表現に関しては、これはいかがなものかという問いが止まらないということは、対話を促すことでもある。賛否両論、多くの問題提起があるからこそ話題作となったとも言えるだろう。

 

(編集:若田悠希