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2020年12月02日 09時02分 JST

検索される恐怖に怯えた日々。夫の逮捕でブログ急上昇【加害者家族の告白】

実名報道記事が出た当日。数百程度だったアクセス数が数万に跳ね上がった。

加害者家族について取り上げた記事に対して、1通のメールが届いた。

送り主は、公務員の夫(当時)が逮捕され実名で報じられた関東に住む女性。家族として謝罪し「つらい気持ちを吐き出す場もなく苦しかった」とつづられていた。

話を聞かせてもらいに、女性に会いに行った。

夫が実名報道された影響は、ブログの急上昇という形で表れたという。

「(女性の名前)」「夫」「逮捕」

管理画面には、自分を調べようとするワードが並んだ。女性が明かした検索される恐怖とは、どんなものだったのか。

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる女性

まさか夫が... 音を立てて崩れた

始まりは2015年冬。

まさか、夫が常習的にのぞきをしていたとは、疑ってもみなかった。

夜中に出勤したはずの夫が、職場に来ていないという連絡が寄せられた。まず疑ったのは交通事故。重傷を負ったのか、亡くなってしまったのか。

幼い子供もいて、あてもなく飛び出すわけにもいかない。明け方になっても見つからなければ、捜索願を出さなければと考えていた。

朝5時。警察署からの電話。「ある事件の被疑者に服装が似ているので、話を聞いているだけ」と伝えられた。その時はまだ、すぐに疑いが晴れて釈放されるだろうと思っていた。

期待は裏切られた。

「電話がかかってきて、『逮捕しました』と。本当に腰が抜けると言うか、地べたに座りこむような心境でした。口の中がカラカラになって、血の気が引いていく。ガラガラと音を立てて崩れるというは、まさにこれだという感覚でした」

「実名で新聞記事にも載るだろうし、組織でどれぐらいの話が広がるのか想像がつくので、『終わった...』と思いました」

夫に対する勾留請求は却下され、逮捕の翌日に釈放された。家に帰って謝罪する夫に事の顛末を聞くと、他人の住居に侵入した容疑だった。

公務員のため、実名で逮捕されたことが新聞記事で報じられた。ネットにも掲載され、知人など多くの人に知られる羽目になった。

事件はのぞき目的で、女性は後になってから、夫が常習的にしていたことを知った。

Image Source via Getty Images

ブログのアクセス急上昇

実名報道の影響は、ブログの急上昇という形でも現れた。

当時、自宅を職場としていた女性は、Facebookやブログに個人情報を載せていた。報じられたニュースと、自分が発信していた情報とが紐づけられ、ブログのアクセス数が急増。もともとは数百程度だったのが、記事が出た当日は数万にも跳ね上がったという。

管理画面を開くと、アクセスした人が検索したワードとして、「女性の実名 夫 逮捕」といった単語が並んでいた。

「何で調べられているのかも分かるんです。検索ワードを見るたびに、ブログを開くのも発信するのも嫌になりました。夢を持って、仕事を一生懸命頑張っていたのですが、それも精神的に続けることが難しくなりました」

自分のことを調べようとする「検索」は、数カ月にも及んだという。

また当時、日常的に投稿していたFacebook。唐突に更新をやめると、不審に思われて、事件のことを知られてしまうかもしれない。そんな不安から、それまでと同じように更新を続けたという。

ネットは見ない方がいいと分かっていても、どうしても気になってしまう。女性が検索すると、不祥事をまとめたサイトにたどり着いた。

あるコメントで、女性や夫について触れ「この人、事件があったのに普通にスーパーにも来ている。よく(夫と)一緒に住んでいられるものだ」などと書かれていた。

文面から、近所に住む友人としか思えない書き込みだった。

それ以上は書いて欲しくない。

女性は、誰だか気付いていない振りをして「申し訳ありません。私たちにも生活がある。個人が特定されるようなことは書かないでください。何か迷惑をかけていることがあれば、直接言ってきて欲しい」と書き込んだ。

返ってきたのは、「あなたたちの存在が迷惑だ」という辛辣な言葉だった。

「私はそれでも気付かないふりして、水に流すというか、今はその人と仲良くしています。かなりショックでした」

Facebookやブログもその後にアカウントごと消去した。

polygraphus via Getty Images

自然と出た「申し訳ありませんでした」

女性は責任を感じた。公務員なのに、手錠をかけられた夫への痛ましさもあった。夫の母親に報告する際、「申し訳ありませんでした」という言葉が出たという。

「私が謝る話じゃないですけど、何をどうすればよかったかという答えは未だに分かりません。何となく妻として、責任の一旦を自然と感じていました」

3人の子供たちには迷わず伝えた。当時中学1年、小学3年、3歳だった。

「噂にもなるでしょうし、特に中学生の子には、外から聞くよりもあらかじめ知らせておく方がいいと思いました。父親がいなくなったら不審に思うじゃないですか。隠しきれることではなかったです」

実際、長男は中学校で先輩から、父親の名前や家にいるのかどうか聞かれたという。

子どもに何かある前にと学校に連絡すると、こちらが事情を伝える前に既に知られていた。情報が広まる早さにもショックを受けた。

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる女性

誰も直接、声をかけてくれなかった

ネットの反応とは対照的に、近所や周囲の人たちの自分たちに対する態度は「腫れ物に触るよう。視線が刺さるようで痛かった」と振り返る。

「大丈夫?」と声を掛けてくれたのは、1人しかいなかった。

加害者家族は、家族が逮捕されたという負い目や、人に危害を加えたという理解を得られない内容から、周囲に相談できずに孤立してしまう。

女性も当時、誰にも相談できない苦しみを抱えていた。

「経済・社会的な制裁は家族も同じように受けるわけですけど、声を発することをはばかられるところがある。本当に非日常的なことなので、そこを耐えているということも知ってほしいです」

親や近い友人に話そうとしても、反応に困った様子や話題を変えようとする素ぶりを感じとり、それ以上は話すことはできなかったという。

女性は「加害者家族もつらい思いをしています。ただただ、話を聞いて欲しかった」と訴える。

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる女性

法廷にも立ち、被害者からは訴えられた。

夫は事件が原因で職を追われた上、慰謝料を求めて被害者から訴えられたという。

「家計に関わることなので、任せていたらしょうがない」と、女性が前面に立って対応した。

減刑や被害者との示談交渉のために弁護士に助言を求めたり、妻として法廷に証人出廷したりもした。家族を守るため、考えつく限りの手を尽くした。

少し後になってから、周囲から声を掛けられた際「なぜそこまでして支え続けるのか」と聞かれることもあった。

悪気のない、励ましの言葉だとは分かっている。それでも、「自分の気持ちを反映した言葉ではなかった」という。

「特に子供たちがいて、持ち家があり、生きて行かなといけない。(自分の)収入もこれから作ろうというところに大打撃でした。自分の気持ちなんかは後回しにせざるを得なかったんです。選択の余地はありませんでした」

それに見合った夫の反省の態度や感謝は、女性には感じられなかった。

夫の再就職も難航し、女性も自宅でしていた仕事を続けることができなくなり、新たに会社に就職した。

生活圏内で事件のことが知れ渡っていた。気持ちの切り替えがうまくできず、誰かの幸せそうな姿を見ると、自分の状況と比べて落ち込むことも多かったという。

「その環境から卒業したい」

家も買って間もなかったが、夫とも別れ、身を隠すように違う土地へと引っ越した。

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる女性

だからブログに助けを求めた

見るのも嫌になって、一度は消去したブログが、女性を助けることになる。

つらい気持ちを吐き出す場を求めて、新たにアカウントを開設した。鬱憤を晴らすように、事件のことや心境を匿名で、いくつもいくつも書き連ねた。

ある時、急にアクセスが伸び始めたという。再び注目されることに恐怖も感じた。でもこの時は、自分への好奇の眼差しとは違う。他の加害者家族からの共感や、応援の声だった。

「連日数万アクセスがあり、すごい反響でした。同じ境遇の人ばかりが見ているわけでないと思いますが、『私も実は夫が逮捕されて...』『全く一緒です』というコメントやメッセージをたくさんもらいました」

事情を知る人やブログを見た人からは「前向きですね」という言葉をかけられるという。今回の取材の際にも、自分の身に起きたことに正面から向き合い、力強く語っている印象を受けた。

本人の捉え方は違う。

「マイナス思考で、いつも半泣きになっている感覚」と明かす。

「足がすくむような未来のことを考えると、『消えて無くなってしまいたい』『死んだほうが楽かな』と思ったことも何回もあります。死ぬようなことではないと思われるかもしれませんけど、疲れてしまい、ふとそう思うことはあります」

そんな中でも、自分の経験を伝えることで、救われている人たちがいるのを知った。

「読んだ人から、『励まされた』『プラスのエネルギーをもらった』といったようなコメントをもらった時は、すごく勇気付けられました。そう言ってもらえるのは、私の喜びでもあります」

「もちろん、批判的なコメントをする人もいました。それに対する恐怖心よりも、応援してくれる人たちの存在の方がはるかに大きかった。そういう人のためにも、発信していくことの意味を感じました」 

加害者家族で、自責の念にかられる人は少なくない。

世間の風当たりも強い。被害者を憐れむ気持ちが、激しい処罰感情となって降りかかってくる。そうして、加害者家族はどんどん追い込まれていく。

女性も心無い言葉を浴びせられた。迷惑をかけてはいけないと直接謝罪をした人からは、土下座すべきだと言われたこともある。

「(その人たちは)明日は我が身だということを分かっていません。自分は大丈夫と思っていても、ある日突然、家族が死亡事故を起こしてしまうということだってある。そんな時に、心無い言葉をかけられたらどんな気持ちになるのか。自分に置き換えることが全くできないのだと、驚くしかありませんでした」

Rio Hamada / Huffpost Japan
取材に応じる女性

ハフポスト日本版では、加害者家族について、みなさんの考えや体験談を伺いたいと思います。こちらのアンケートにお寄せください。

 

アンケートは全15問、5分〜10分程度です。

 

また、ハフポスト日本版にご自身の体験を語ってくださる方がいましたら、rio.hamada@huffpost.jpまでご連絡をお寄せください。