児童養護施設で育った女性が厚労省に入った。信念は「出会いで人生が変わる」

2年前の就活では「入社するなら親のサインが必要です」と企業に言われ、内定直前で辞退したことも
|
「出会いで人生が変わる」と話す高橋さん
「出会いで人生が変わる」と話す高橋さん
福祉新聞

今春、児童養護施設出身者が厚生労働省に入省した。高橋未来さんは、東京都渋谷区の広尾フレンズで育ち、静岡大に入学。現在、医薬・生活衛生局で、血液対策を担う。

実は2年前、大手鉄道会社を受験していた。しかし内定直前に「入社するなら親のサインが必要です」と言われたという。

動揺した。小学校以来親とは疎遠で、選考過程でも生い立ちを話していなかったからだ。

「それはちょっと」

「え、何で。誰に育ててもらったの」

そんな押し問答をするうち頭が真っ白に。その場で辞退し、大学も休学。そのうち漠然と福祉の仕事を考えていたことを思い出し、翌年、厚労省を受けた。

高橋さんは1996年生まれ。児童養護施設には小学4年の時に入った。当時身長は高い方だったが、体重は平均以下。家では毎日白米とふりかけだけを食べていた記憶がある。「実は」と言いながら前髪を上げると、くっきりと額に傷があった。

「今、親に対する気持ちは“無”なんですよ」と高橋さんは言う。プラスでもマイナスでもない。何も思わない。しかし人にはずっと恵まれたと思う。

就職直前、高知で柑橘農家に転身した施設の元職員に会いに行った。その元職員は小学校から高橋さんを知る数少ない大人。「大学時代に連絡はしていませんでしたが、人生の節目に自分の成長を誰かに話したかったのかも」と振り返る。別れ際、渡された手紙には「これからも応援しているから」とあった。

大学2年の時に出会い、毎月食事に行く関係になった静岡県内の夫婦。就職を伝えると「よかった」と泣いてくれた絵画教室の先生。大切な人とのエピソードは次々にあふれ出る。

高橋さんは言う。

「出会いで人生が変わるというのは信念です。社会への反骨心は自分にはなくて、多くの人によって生かされたと心から思える。だから、今度は自分も」。

これまで高橋さんは自分の生い立ちについて学校や職場で明かしたことはなかった。それなのに今回、取材を受けてくれた。

「施設出身で国家公務員になることがニュースにならない世の中になればと思って」。

理由を聞くと、こともなげにそう言って肩をすくめた。

就職で世界はさらに広がり、これからも多くの出会いが、きっとある。