コロナ専用病棟の医師が、本当は使いたくない「医療崩壊」を語る理由 感染拡大のいま、何が起きているのか

「『医療崩壊』という定義のあいまいな言葉を安易に使うことは避けてきました。しかし…」。
新型コロナ/病院の消毒作業 ※本文の病院とは関係ありません
新型コロナ/病院の消毒作業 ※本文の病院とは関係ありません
時事通信社

「ある患者さんは、入院したときに『やっと入院出来た…2日前が一番つらかった…40度近く出て、頭ももうろうとして歩けず、もう駄目かと思った…』と話していました。

入院時点で酸素濃度が低下し、炎症反応が高く、一歩間違えれば命に関わる状態でした。合併症があり、2カ月前なら診断されたのち、即入院となっていたはずです。」

こう語るのは、神奈川県西部にある足柄上病院(あしがらかみびょういん)で、コロナ専用病棟における治療にあたる医師、岩渕敬介さんです。人口65,000人ほどの足柄上郡の中核病院である足柄上病院で、総合診療医として働いています。

岩渕さんは2020年2月、ダイヤモンド・プリンセスに乗船し感染した患者を受け入れて治療したのを皮切りに、これまでおよそ1年近くコロナの治療に関わっています。

去年4月には、病院の一部を新型コロナの中等症患者(主に、酸素の吸入が必要になるほど悪化した状態)の専用病棟とし、病院を挙げた治療体制の構築を進めてきました。日本において、誰よりも長く新型コロナの治療に当たってきた一人といえるかもしれません。

その岩渕さんにとっても、年明けからの状況は、先行きが見えない強い危機感を覚えるものだと言います。

ニュースでは都市部の病院の集中治療室の状況などが良く報道されます。一方で、足柄上病院のような、地域の中核病院として様々な病気の患者さんを受け入れつつ、コロナ診療に当たっている病院の現状について報じられることは少ないかもしれません。

いま現場はどのような状況にあるのか。現状を聞きました。

(下記内容は、岩渕さんのFB投稿をもとにインタビュー風に書き直し、一部加筆したものです。情報は1月10日(日)午前2時段階のものです)

増やしたベッドもすぐに一杯

ーーまずは、現状に対して現場の医師としてどのように感じておられるか、教えてください。

強い切迫感を覚えています。12月下旬に危惧していたことが具現化していると感じています。

去年の12月下旬、私たち現場の医療者は年末年始のことを心配していました。帰省や年賀の会合において、若い世代と高齢世代が会食をし、その結果として患者が増える。もはや対応しきれなくなるのではないか?と感じていました。

そこで当院では再び感染対応病床を増やし、スタッフを増員してシミュレーションを行いました。それ以来、12月31日と1月2日を除いてすべての日で入院を受け入れてきました。しかし、増やした病床も間もなく一杯になります。

当院は、中等症の重点医療機関として神奈川県全体から入院要請を受けていますが、年末から川崎市内の中等症ベッドがひっ迫しはじめ、年始は入院患者の半数以上が川崎からとなりました。ここ数日は県の全域から要請が入っています。集中治療室のような重症の人が入る病床だけでなく、酸素吸入が必要な中等症の人を受け入れるベッドも、県内全体でひっ迫している感があります。

昨年までは、入院を要請されても時間的余裕があり、余裕を持って入院計画を立てることが出来ていました。しかし年明け以降は、症状が切迫した状態で入院を要請されることから、一刻も早く受け入れるよう求められることが増えています。

ーーベッドを増やしてもすぐに埋まってしまう。そして、いちど患者を受け入れると、ベッドがなかなか空けられなくなる状況もあると聞いています。 

そうです。患者さんが増えているので、良くなった人は早く退院していただいてベッドを空けたいところです。しかしコロナで入院している患者さんは、高齢者だったり、すでに呼吸状態が悪くなっていたり、合併症をもち悪化する危険性が高かったりと、重症化しやすい人がほとんどになっています。入院中に症状が悪化して、酸素投与を開始したり、ステロイド薬を開始するなど、命を守るために長期の治療が必要になる人が多くいます。

また、高齢者施設などで起きた集団感染から入院する場合、施設で濃厚接触者として検査をし、はじめは陰性でも繰り返し検査をして陽性となり、無症候のうちに入院となることがあり(注1)、入院して数日で発症し、一週間後に悪化して治療が必要になる。この場合入院はより長期化します。介護度が高い人の場合、看護師の負担も大きくなりますが、治っていないのに退院していただくわけにはいきません。

注1…新型コロナウイルスは症状が出る前からウイルスを放出するため、早く検査した場合は発症前に陽性になることがある。

足柄上病院で、一般病床に排気ダクトを設置し増床した感染症病棟
足柄上病院で、一般病床に排気ダクトを設置し増床した感染症病棟
岩渕医師 提供

数字通りには受け入れられない 医療現場を襲う負担

ーー県などが発表する「コロナ即応病床」の数字を見ると、まだわずかに余裕がある地域もあるように思えますが、数字通りにはいかないということもあるのでしょうか。

例え病院に10床の空床があっても、1日10人を入院させられるわけではないんです。当院の体制ではいまのところ1日に3人が精一杯です。

入院の受け入れ業務に1時間程度かかります。感染症病棟には医師と看護師以外は立ち入らないため、看護師が患者さんに対して行う業務は、体調の観察、食事・排泄・清拭の介助、薬の管理や点滴などの医療業務だけでなく、配膳や部屋の清掃、荷物の整理や廃棄物の処理まであります。全て防護具を装着しつつ行わなければなりません。

医師は病棟管理、入院患者診療、検査、家族への病状説明、保健所・文書対応、退院準備などに追われます。

入院、移動など、チームで動く時は必ずブリーフィングを行い業務手順を確認します。コロナの病床はこのような積み重ねによって成り立っており、普通のベッドとは大きく異なります。

「即応病床」といっても、安全な複数の導線と訓練されたチームが突然現れたりしない限り、即座に複数の入院を受けることは出来ないため、爆発的な患者増に対応するのは難しいのです。

職員がチームワークを守り、集中を保ち、安全性に自信を持って業務を行える環境でなければ、院内感染のリスクが増すばかりか、ストレスでの離職が増えるでしょう。

「リンクが追えない」 地域でも拡がる感染拡大 

ーー現状でも過重労働なのに、陽性が確認される人は急スピードで増えています。しかも東京や横浜など都市部だけでなく、地域での感染拡大が指摘されています。

ついに、当地域でもリンクの追えない陽性者が増加してきました。当院の発熱外来から連日陽性者を認め、地域のクリニックでもPCR陽性例がうなぎ登りとのことです。地域の施設クラスターが生じていないのが唯一の救いですが、それも時間の問題と思われます。

地域医療を守り通常医療との両立を図りつつ、コロナ診療を行っているため、コロナを担当する医師は内科から兼任含めて3名、他科からの協力1名の4名体制となっています。一方、一般救急の発熱対応ブースは1日5-10件の救急車や紹介患者に対応し、内科からコロナ対応にとられているぶん、他の先生の負担が増えています。

神奈川県全体で見ても、中等症のベッドがひっ迫し、入院のハードルが上がっています。ホテルなどの軽症者用の施設を何千人分も急に用意出来るはずもないため、自宅待機者が急増していると思われます。

それでも、冒頭に示した患者さんのケースでは、保健所がパルスオキシメーター(注2)を貸し出していたので、呼吸状態の悪化が早めにとらえられ、そこからの搬送調整(注3)が迅速で、たまたま当院の病床と時間枠に空きがあったために救急搬送で入院できました。保健所や搬送調整本部は火の車だと思われますが、そんな中でも迅速かつ確実に転送業務を遂行する仕事ぶりに頭が下がりました。

しかし、そのフォローアップを保健所のマンパワーのみで行うのは困難です。状態が悪化しても自覚症状が乏しかったり、症状を正確に伝えることが難しい場合もあり、自宅待機中の死亡のリスクが現実のものとなってきています。

注2・・・血液の酸素飽和度を測る機械。呼吸状態が悪化すると数値が下がる。

注3・・・ベッドの空きがある病院を探し、連絡して調整する業務。

現場の医師が、本当は言いたくなかった「医療崩壊」という言葉を使う意味 

ーー1年近く新型コロナへの対応に関わってこられた岩渕さんがいま感じている危機感を教えてください。

いま、夜中の2時です。本日これから、ある病院で夕方診断された陽性者の入院先が決まらず、30件近く連絡するもすべて断られた、という人を受け入れることになりました。

担当地域外からの、搬送調整本部を通さないこのような依頼はめったにありませんが、この先は、このようなことがよく起こるようになるのでしょう。今日当院が受け入れするのはたまたま空床があったのと、受け入れ調整を担当する部長の「どうにかして状況を打開しよう」という思いのためです。常時夜間受け入れができる体制が整っているわけでは決してありません。

「医療崩壊」という定義のあいまいな言葉を安易に使うことは避けてきました。

しかし、深夜に防護具を着て患者さんを迎えに出たとき、通常なら救えるはずの命が救えなくなったり、必要な医療を受けられなくなったりする人が出る状況が起きつつあるのを肌で感じ、私たちが直面しようとしているこの状況は、局地的ではあっても「医療崩壊」の端緒なんだろうな、と思いました。

高度医療機関、保健所、搬送調整本部、中等症重点病院、それぞれの場所で、限界をこえる負荷がかかっていて、システムのほころびによってこのような事例が生じたということでしょう。

この状況は台風のように明日になれば晴れるものではなく、明日も明後日も感染者は積み上がっていきます。今コロナを診ている病院が専用病床のさらなる拡大をはかるとしても、病床拡張が感染拡大に実質的に追いつくことが出来るか疑問です。いま増やしましょうと言われてもすぐ出来るものではありませんから。

さらにコロナ陽性者を受け入れるのは地域の中核を担う病院が多く、足柄上病院も、他の病院も、新型コロナ診療だけを行っているわけではありません。対応に人手とベッドを奪われ、その他の病気の患者さんの診療や、発熱患者を含む救急対応を停止したり、集中治療のベッドを減らすことになれば、地域への影響は大きいものになります。

ほころびは始まっています。すでにいろいろ削りながらコロナを診ているところばかりなのです。

(取材協力)

岩渕敬介(いわぶち・けいすけ)さん

地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 神奈川県立足柄上病院

総合診療科 医長

感染対策室長補佐

岩渕敬介さん
岩渕敬介さん
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