アートとカルチャー
2021年01月27日 12時32分 JST | 更新 2021年01月28日 08時51分 JST

演劇・映像界の関係者向けに、LGBTQの知識を学べる場所を。勉強会を開く俳優の思い

俳優の和田華子さんは、LGBTQを描いたドラマや映画作品が増えてきたここ数年で、勉強会の必要性を感じるようになったという。

テレビドラマや映画、舞台などでLGBTQなど性的マイノリティが描かれることが多くなった。しかし、作品がつくられる制作現場は、当事者の俳優やスタッフが安心して働ける場所になっているのだろうか。作り手側が、性的マイノリティについて誤った認識をもったまま作品をつくっていないだろうか。

そんな問題意識から始まった、業界関係者向けの勉強会がある。

俳優や映画監督、演出家などの演劇・映像業界に関わるすべての人を対象に、LGBTQへの理解や知識を深めてもらうため、基礎知識や稽古場、制作現場でのアウティングの問題について解説している。主催者は、平田オリザさん率いる青年団に所属する俳優の和田華子さんだ。 

和田華子さん提供
和田華子さん

 

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「作品をつくる以前に、同じ稽古場や現場にもLGBTQは存在していると知ってほしい

舞台や映画作品を中心に俳優として活動する和田華子さん。性的マイノリティの当事者でもある和田さんは、2019年9月から、俳優活動のかたわら定期的に「LGBTQ勉強会」を開催している。 

筆者も、2020年9月下旬に開かれた勉強会に参加した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、勉強会はオンライン会話ツールのZoomを通して行われた。

勉強会の時間は、途中休憩を挟んで約3時間半。3部構成で、LGBTQの基礎知識をはじめ、稽古場などの制作現場で当事者が直面しやすい困難についてなど、さまざまな話が丁寧に伝えられた。

「作品を創作・発信する側の人間として、LGBTQについて理解を深めておくことは、今後より増えていくであろうLGBTQを扱った作品に関わる際に、きっと役に立つ時がくると思います。

また、作品をつくる以前に、同じ稽古場や現場にもLGBTQは存在しているということも知っていただきたく思います」

和田さんが参加者に共有した勉強会の企画書には、このように書かれていた。

 

当事者の人が安心できる場所に

なぜ、勉強会を開くことを決めたのか。 

2019年まで約10年間フリーの俳優として活動していた和田さんは、LGBTQを描いたドラマや映画作品が増えてきたここ数年で、勉強会の必要性を感じるようになったという。

「もともとこの業界でカミングアウトをする難しさは感じていたんですが、ここ2〜3年でLGBTQをテーマにした作品が多くなって。そうした作品を手がける作家のワークショップやオーディションに行ってみると、性的マイノリティが『いない』前提になっている場面にたくさん遭遇しました。

作品の中には存在させるのに、稽古場では『いない』ことになっている。なぜ稽古場では存在してはいけないことになっているんだろう、と思いました」

稽古場やワークショップなどで、性的マイノリティを侮辱する差別やハラスメント行為が繰り広げられたりする場面に遭遇したこともあった。性的指向やジェンダーアイデンティティを本人の了承を得ず第三者に暴露する「アウティング」が起きることもある。

2020年6月に施行された通称「パワハラ防止法」では、アウティングをはじめ、性的指向やジェンダーアイデンティティへの侮辱的な言動は「パワハラに該当する」と位置付けられた。三重県など、アウティング禁止条例の導入を進める自治体もある。

日本社会では、アウティングや性的マイノリティへの差別を禁止したり、規制したりする動きが広がっている。その潮流とともに、演劇界も変わってほしい。和田さんが開く勉強会にはそんな思いが込められている。

本当はある程度地位のある方か、LGBTQに関する作品を作った事のある監督・演出家・劇作家の方にやってほしいなぁ、やってくれないかなぁと思っていたんですけど、いなかった。じゃあ私がやるか。そう思って勉強会を開くことを決めました。

アウティングやハラスメントがこれ以上起こらないために、どうすればいいか。とにかく、当事者の人が安心できるように就労環境の改善をすることを一番の目的としています。ベストな解決策がすぐに見つからなくても、ベターな解決策はある。その手段をいくつか提案することができればという思いで勉強会を開いています」

 

勉強会で伝えられること

勉強会の内容は、LGBTQの啓発活動を行う当事者などにアドバイスをもらいながら構成したという。

第1部では、「LGBTQとは?」をテーマに、性的マイノリティについての基本的な知識を解説。

たとえば、「LGBTQ」や「LGBT」という言葉は性的マイノリティの人を表す総称として使われるが、勉強会ではL(レズビアン)、G(ゲイ)、B(バイセクシュアル)、T(トランスジェンダー)、Q(クエスチョニング、クィア)など、一つひとつの言葉の意味を時間をかけて説明した。

LGBは性的指向(恋愛感情や性的な関心がどの性別に向いているか)、Tはジェンダーアイデンティティ(自分の性別をどう認識しているか)に基づいた言葉だが、ひとくくりに表現することで混同されてしまうこともある。

「何かを題材に作品をつくるとき、取材や下調べをする表現者は多いと思うんですが、LGBTというジャンルに関してはそれをしない人が多いのではないか、という印象がありました。同性愛は異性愛の『逆』をやればいいんでしょうとか、そんな考えで作ってしまう。LGBとTを混同している方もいらっしゃるので、まずはそういう基本的なところから伝えたいと思いました」

和田さんはそう語る。

第2部では、法制度などを中心に、日本社会における性的マイノリティの現状について説明した。

同性同士の結婚が認められておらず、根強い偏見や差別によってカミングアウトがしづらい社会になっていること。トランスジェンダーが戸籍上の性別変更を望んだ時、現行法では心身に大きな影響を与える性別適合手術を受けなくてはいけないこと。女性の社会進出が遅れているという背景から、レズビアンカップルはより貧困に陥りやすい可能性があると指摘されていること。

いま日本に住んでいる性的マイノリティがどんな困難に直面しているのか、丁寧に解説された。

第3部のテーマは、「演劇とLGBTQ」。

芸術作品やメディアを通して性やセクシュアリティがどう描かれてきたか、事例をまじえて説明された。稽古場など制作現場で起こりやすいアウティング対策など、当事者がより働きやすい創作の場を作るための方法も伝えられた。

 

「この表現は良い、悪いと『ジャッジ』することはしない」

和田さんが勉強会を通して意識しているのは、「この表現は良くて、この表現はダメだと『ジャッジ』をすることはしない」ということだという。 

「作品をつくる上で、どんな表現をしたら『ダメ』なのか知りたい、という意見をいただいたこともあります。でも、そこだけを伝えたとしても、基準となるものが自分たちの中で確立されていないと根本的な解決にはならない。

自分たちで判断する能力を育てることが大事なのではないかと思っていて、そのためにも、まずはベースの知識を知ってもらうことが一番なのではないかと思っています。そして、LGBTQに関する基礎的な知識を学んだり、社会の現状を知ったりすることは、作り手にとって表現の深みにも繋がるのではないかと思います」

 

「『特別扱い』ではなく『条件』の一つ」

基礎的な知識が浸透することで、当事者の人にとって働きやすい現場作りにも繋がるのではないか、と和田さんは話す。 

勉強会で印象的だったのが、稽古場でのカミングアウトの話だ。

カミングアウトは、必ずしも周囲から「理解」や「共感」をしてもらうためにするとは限らない。たとえば、トランスジェンダーの人などは、トイレや着替えをする更衣室、お風呂の利用などの相談のためカミングアウトを「せざるをえない」場合もある。

「カミングアウトには色々なモチベーションがあって、ただ就労環境を改善してほしいという思いでカミングアウトをする場合もあります。それなのに、『大丈夫だよ、辛かったね』と過剰な反応が返ってきてしまい、最悪の場合はアウティングにも繋がることがある。

対応を求めると、『特別扱いするのはどうなのか』と言われることもあるんですが、『特別扱い』ではなく『条件』の一つだと考えてほしいと思います。さまざまな条件をもつ人のために選択肢を増やすことは、みんなのためになる。そして、みんなの就労環境が良くなるとパフォーマンスの質も上がるし、結果的に作品の質に結びつく。

稽古場は『仕事場』でもあるので、いろいろな立場の人を包括できるような対策や空間を作ることは大事なことではないかと思います」

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勉強会を受けた人からは、「知ることができてよかった」「稽古場で何ができるか参考になった」など、さまざまな反響が返ってくるという。勉強会は、個人や会社から依頼があれば、いつ、どこでも開催する方針だ。依頼は和田さんのTwitterアカウントで受け付けている。

和田華子さん提供
和田華子さん