夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定について、最高裁大法廷は6月23日、「合憲」と判断した。 15人の裁判官のうち、「違憲」としたのは4人。夫婦同姓は女性差別に関わる問題だが、15人いる最高裁判所判事のうち、女性判事は2人だけだ。
女性が約1割という男女比の偏りについて、識者は、少なくとも3割が女性であることが望ましい、と指摘する。
最高裁判事、女性の割合は約1割
今回、「違憲」の意見を示したのは、15人のうち4人。そのうち1人は、女性裁判官の宮崎裕子氏だった。宮崎裁判官は、最高裁判事で初めて旧姓を使用しているという。
宮崎裁判官は宇賀克也裁判官と共同で反対意見を示し、夫婦同姓を婚姻の成立要件として課すことについて、「当事者の婚姻をするについての意思決定に対する不当な国家介入に当たる」などと指摘した。また、旧姓の通称使用は「不利益を一定程度のみ解消させるものでしかない」などとも述べた。
しかし、多数は前回の2015年大法廷判決を踏襲し、「合憲」という判断を下した。
15人の最高裁判所判事のうち、女性の割合は約1割。決定後の会見では、弁護団から男女の偏りを指摘する声も上がった。
「最高裁の半分が女性だったら、このような結論には絶対にならないと思う」
「最高裁の裁判官になる方が、(旧姓使用の)大変さやトラブルを知って判決を書くのと、全くそんな苦労は知らない人が書くのとでは、違うということだと思います。足を踏んでいる側と踏まれている側では違う、ということだと思います」(弁護団長の榊原富士子弁護士)
女性裁判官が加わる重要性「別姓を使うことの不利益を経験している圧倒的多数は女性」
一方で、今回の最高裁決定では、女性裁判官の意見は割れた。
宮崎裕子判事は「違憲」、岡村和美判事は「合憲」と判断した。
なお、岡村裁判官は、深山卓也・長嶺安政両裁判官と共同で「補足意見」を述べている。補足意見では、「事情の変化によっては同姓規定が立法裁量の範囲を超えて憲法24条に違反すると評価されるに至ることもありえる」としつつも、「2015年の大法廷判決の判断を変更すべきものと認めるには至らない」と指摘。その上で、選択的夫婦別姓制度について、国会での「真摯な議論がされることを期待する」と述べている。
労働法、ジェンダー法を専門とする早稲田大名誉教授の浅倉むつ子さんは、「男性にも女性にも、様々な考えを持つ人がいます。女性裁判官が、女性差別の問題解消に繋がるような『良い判決』を出すかといえば、必ずしもそう単純な話ではない」とした上で、こう強調した。
「だからと言って、男性と女性の比率に偏りがあるという状況が望ましくない、ということに変わりはない」
「別姓を使うことの不利益を経験している圧倒的多数は女性。とりわけこういった夫婦別姓の事案などに関しては、経験が物を言うところもあり、女性裁判官が議論に加わることは非常に重要です」
「6人が女性であることが望ましい」
最高裁は3つの小法廷で構成され、それぞれの小法廷に5人の裁判官が所属するが、現在は第二、第三法廷に女性が1人ずつ。中には、女性が1人もいない小法廷もある。
5人の裁判官のうち、少なくとも2人が女性であることが理想だと浅倉さんは指摘する。
「研究では、3割がクリティカル・マスだと言われています。少数派であっても意思決定に影響を与え、自然体で世の中を変えるための発言ができるためには、3割が必要だというのです。加えて、3つの小法廷に複数の女性配置をと考えれば、15人の最高裁裁判官のうち少なくとも6人が女性であることが望ましいと考えます」
「平等な機会が与えられない社会には不備がある」
浅倉さんは、女子差別撤廃条約の選択議定書批准をめざす市民団体「女性差別撤廃条約実現アクション」で共同代表を務め、最高裁裁判官の女性割合を増やすよう、日弁連などに要望書も提出している。
なぜ、女性裁判官の数を増やすことが重要なのか。
法律は女性を含む、すべての国民に適用される。しかし、その法律を扱う法曹界では、長らく男女の偏りがあるのが現状だ。1936年に弁護士法が改正されるまで、女性が弁護士や裁判官になる道は閉ざされていた。
「もし平等な機会が与えられ、教育水準も平等になり、能力も平等に評価される社会であれば、男女半々になるはずです。それが実現していない社会というのは、そもそも女性たちが不利益を被っているという構造的な問題があり、不備がある」
浅倉さんはそう指摘する。
「できる限りすべての人が公正に評価され、生きられる社会にするためには、そうした構造を変えていく必要があります。法曹界でも、それは同様に求められています」
(文・生田綾 グラフィック・高田ゆき/ハフポスト日本版)