特集
2021年07月20日 07時36分 JST

「中国製EV」日本で浸透し始めたのはなぜ?共通点は「国産も検討したけれど...」

したたかな中国メーカーの戦略が、日本で奏功しつつある。日本メーカーは対応すべき?

『中国製EV、日本に本格上陸』

『日本メーカーに脅威か』

2021年4月ごろ、こんな見出しがTwitterを賑わせた。

主役は佐川急便だ。配送用の軽車両をEV(電気自動車)に切り替える計画を発表したのだが、製造委託先が中国メーカーだったことから話題を呼んだ。

「なぜ日本の会社を選ばないのか」「中国に抜かれている現実を見ろ」...など反応は様々。とはいえ、なぜ中国製EVが日本に上陸しているのかは確かに気になる。

現場を取材すると、佐川急便の事例以外にも中国製EVが浸透し始めていること、そしてその背景には、中国メーカーのしたたかな戦略と、中国政府の10数年に渡る政策の後押しなど、複数の要素が絡み合っていたことが分かってきた。

Fumiya Takahashi
平和交通のBYD社製EVバス

■「安全性」以外の理由も

千葉県千葉市稲毛区。閑静な住宅街を走るのは、動力の全てを電力で賄う中国・BYD(比亜迪)社製の「EVバス」だ。

普段、私たちの乗るディーゼル車のバスと比べれば確かに静かかもしれないが、大きな差は感じない。乗り心地はあくまで自然。「降りるときに『これEVだったの?』と気づくお客様もいます」とバス会社の担当者は話す。

このバスを運行するのは稲毛区に本社を置く「平和交通」。2021年にBYDのEVバスを3台購入し、5月から実際に路線投入している。

最初は、環境問題への意識がきっかけだったという。

「バス事業は車両が仕事道具。排気ガスが環境に与える影響は大きいと、会社全体で課題感を持っていました」と平和交通の藤原浩隆・課長代理は振り返る。古いバスの買い替え先として「EV」が浮かんでいたところ、日本進出していたBYDから声をかけられた。そこから2年余りに及ぶ検討が始まった。

Fumiya Takahashi
平和交通の藤原浩隆・課長代理。自身もバス好きだという

「一番重要視したのは安全性です。例えば電池に釘を刺しても爆発しないなど、耐久テストの結果も重視しました」と藤原さん。国土交通省の補助金も受け、大型バス「K8」を2台、小型の「J6」を1台購入した。

軽油を電気に変えたことで、1年間で約130万円の燃費削減を見込む。割合にして38%ほど節約になる計算だ。課題だった二酸化炭素(CO2)排出量も45トン減少するという試算もある。

「数字についてはまだ分かりません。例えば冬の場合。ディーゼル車はエンジンを回す熱から暖房が取れますが、EVではヒーターを回すため電池の使用率が高くなるのでは、といった考えもあります。1年間使ってみて、今後EVバスを増やすかどうかを考えたいです」と藤原さんは話す。

Fumiya Takahashi
充電が行われるのは夜間。災害時の給電設備としても期待される

他のバス会社からも視察の要望が来るなど、EVバスの導入は業界内でも注目されている。日本ではまだ耳馴染みのない中国メーカーを選んだのには、安全性以外の理由もあるという。藤原さんが明かす。

「日本の国産で、夜だけ充電すれば1日路線を走れるという、実際の運行に耐えられる車両が検討当時はまだありませんでした。安全性も含めて検討した結果、BYDに決まったということです」

■「技術で勝負」はしないBYDの戦略

そのBYDは、2021年7月現在で53台のEVバスを日本で販売している。「2030年までに4000台が目標です」とBYD日本法人の花田晋作・取締役副社長は明かす。

BYDは中国・深圳発祥。元々は携帯電話のバッテリー製造から始まったが、今はEVの車載用電池や車両そのものも手がける。深圳ではバスやモノレールなど、公共交通にBYD社製の車両が採用されている。

Fumiya Takahashi
BYDの花田晋作取締役副社長

そのBYDが日本進出したあと目をつけたのが「バス」だった。

「スタートは2013年。我々は日本の公共交通の仕組みが全く分からなかった。国交省や公共交通機関を訪問し勉強を重ねていきました」と花田さん。ゼロからの出発でも、バス事業にこだわったのには戦略的な裏付けがある。

「日本は海外から入ってくるものには警戒心が強い。一番重視されるのは品質に問題がないか、でしょう。その点、公共交通の車両は最もストレス(負荷)をかけて運行されます。使われて問題がなければ品質も評価されると考えました」

BYDのバスは、2015年に京都府の会社で採用されたのを皮切りに導入実績を増やしていく。その一番の武器は、スタートアップの都・深圳らしく「技術力」...ではないという。

「アフターサービスです。EVは比較的シンプルな構造のため、いずれ後から参入するであろう自動車と大きく品質の差は出ません。ではどこで差が出るか。公共交通機関とは納入した後のお付き合いの方が長い。そこでいかに満足してもらうかです」

アフターサービス対策として、故障が発生しても48時間以内に必要な部品が届く体制を国内で構築した。「仮に中国との物流が途絶えたとしても問題ありません。京都で6年間、BYDのバスが走っていますが、6回の四季を経験したことが強みになっている。先々、この経験値が勝負になってくると踏んでいます」

Fumiya Takahashi
平和交通の車両。ハンドルにはBYDのロゴがあった

「中国メーカー」という点がハードルに感じたこともあったというBYD。それでも、EVバスという領域に手応えはある。

「(身構える人も)多かったです。我々が中国メーカーであるというよりも、メイド・イン・ジャパンがいいという方も多いのかもしれません。だから納入後、アフターサービスに問題がないかは非常に注目されましたし、我々も経営資源を投下しました。すると『BYDは中国製だけど、サービススピードもあるし、日系企業と変わらないクオリティだ』と信頼が生まれていきます。一気にはいきませんが、ゆっくりと伝わっています」

■「国内には存在せず」

BYD社製のEVバスを導入した平和交通と、中国メーカーに製造を委託する佐川急便。両者の間にはよく似た構図がある。

佐川急便が導入するのはEV車両7200台。配送の最終段階、いわゆる「ラストワンマイル」に使用される。運転手の要望を反映させ、荷台部分に台車用のスペースなどをとりつけた。日本のベンチャー・ASF(東京都港区)が企画やデザインを手がけ、中国・広西チワン族自治区柳州市の「五菱汽車」が製造する。

佐川急便提供
佐川急便に導入される予定のEV車両。配送の「ラストワンマイル」を想定する

最初の共通点は環境への意識だ。佐川急便によると、CO2排出量は年間約28000トンの削減を見込む。これは同社車両から排出される量のおよそ1割に相当する。

そしてもう1つが、検討材料に国産も考慮していたことだ。最終的に製造先を五菱汽車に決めた理由について、佐川急便はこう説明する。

「国内には当社が求める仕様のEVは存在していませんでした」

■日本は焦らない方が良い?専門家の視点

2つのケースからは、日本メーカーがまだ十分に力を入れているとは言えない領域のEVを、中国メーカーがカバーしている現状が窺える。

ではなぜ、中国側が需要にあった車両を供給できるのか。

中国のEV事情に詳しい日本総研の程塚正史・シニアマネジャーは、中国政府が産業政策としてEV産業を重視していたことが背景にあると指摘する。

Fumiya Takahashi
日本総研の程塚正史シニアマネジャー

程塚さんによると、中国は2000年代から政策としてEV開発に力を入れていた。

「まずは完成車や電池メーカーなど『作る側』への研究・開発支援が始まりました。『十城千両(10都市に1000台)』という計画でしたが、実際にはもっと多く、各地方政府に公用車として2500台程度を導入させました」

当時の性能は、同時期の日本メーカーが作ったものと比べて劣っていたとみられる。しかしこの経験が、中国メーカーの技術的な下地を作るきっかけになったという。

中国政府が当時からEVに公費を投入していたのには理由がある。

「ガソリン車では、中国国内ですら、合弁企業として進出してくる外資系に勝てないという構図がありました。中国の消費者にとって『純中国製の車はあまり品質が良くない』という認識もあり、ガソリン車以外の領域で戦いたいという意識が官民双方にありました」

つまり、EVに注力したのは産業政策的な意味合いが大きい。脱炭素は「後付け的に重視されている」程度だという。

政府がEV産業を後押しする姿勢を見せたことで、商機を見出した事業者が一斉になだれ込んだ。

「スマホや太陽光パネルもそうですが、これから伸びるという分野では、雨後の筍のように色々なプレイヤーが出現し、色々な製品を作ります。そして自然に淘汰され生き残った会社は強い。BYDの場合、地元・深圳市が公共交通などに導入したことも大きかったと思います。(成長した企業が)海外進出も視野に入れるのは必然的な選択です」

では、バスや配送用車両などの分野で、中国メーカーが存在感を見せ始めている現状はどう見るのか。程塚さんは、経営戦略の観点では、日本勢はEV化を焦りすぎるべきではないと指摘する。

「日本でEV化が進まない一番の理由は、ガソリン車市場に強いメーカーが数多くいるからです。現時点でEVは利益率も高くないですし、今後中国メーカーから生産ノウハウを吸収することもあるでしょう」

「日本・アメリカ市場で、ガソリン車とハイブリッド車で稼げているのであれば急激な変化は必要ではありません。中国で日本車の比率が高まっていく中で、そこに合わせる形でEV化を進めていき、アメリカ市場、そして日本がEV化だとなった時に準備ができている、という順番で進める戦略だと思います」

日本ではまだ活発ではないEVシフト。そこで、以前からEV化に力を入れてきた中国勢がバスや配送用トラックなどの領域で存在感を見せ始めている。

日本国内にも動きはある。熊本大学は、環境省などと提携し市販のバスに日産「リーフ」のモーターとバッテリーを組み込みEV化。横浜市で実証試験として運行させた(現在は終了)。日野自動車も小型EVバスを2022年春に発売する予定だ。

今後どうなるのか。現場と専門家の意見は一致している。中国メーカーがいち早く浸透し始めた分野でも、競争が始まる気配がある。

「今すぐ導入する場合は中国メーカーが合理的な選択肢かもしれません。ただし、3年後は分かりません」(程塚さん)

「今後は他の日系や外資系もEVバスを出してくるでしょう。今はディーゼル車の市場を取らなくてはいけませんが、もう5年経ったら『競合はどこですか』と聞いてください」(BYD・花田さん)