発達障害と生きる
2021年11月16日 16時00分 JST

ありのままでいることが許されない子どもたち。彼らの世界を描いた北欧の絵本3選

性の多様性や親の離婚、依存症など、タブーなテーマはないといわれる北欧の絵本。その中から、家庭や学校などの集団生活の場で生きづらさを感じている子どもたちの困難を描いた3冊を紹介します。

数年前から北欧の絵本を紹介するブログを書いています。特に、日本語には翻訳されない、北欧的な視点で描かれた絵本を中心に紹介しています。

児童図書館で働いていたとき、さまざまな人が子どもとの対話のために絵本を求めて図書館へきていました。物語を楽しむというよりも対話のために絵本を読むというのは、当時のわたしには新しい視点で、それがきっかけとなり、北欧の絵本があつかうさまざまなテーマに興味を持ちました。 

 

タブーなテーマのない北欧の絵本

北欧には、子どもの視点から描かれた絵本がたくさんあります。読み手の大人が自分をかえりみて恥ずかしくなってしまうようなものもあります。そしていつでも、絵本は子どもたちの味方です。

また、北欧の絵本にはもうタブーなテーマはないともいわれ、日本だと「こんなテーマを絵本であつかえるの?」といったテーマでも、北欧の絵本は果敢に真っ向から挑んできます。

家族の多様なかたち、性の多様性、親の離婚、難民問題、子どもの人権、いじめ、発達・学習障がい、うそ、親の精神疾患、アルコール依存症、死、ネグレクト、近親相姦。ありとあらゆるテーマを北欧の絵本は描いていて、多くの図書館にはそんな絵本がたくさんそろえてあります。

普段、日常生活や自分の気持ちをそのまま言葉にするのはむずかしくても、フィクションというフィルターを通せば、子どもも読み手も少し向き合いやすくなる。絵本はそんな機会を与えてくれます。

 

ありのままでいることが許されない子どもたち

そんな北欧の絵本の中から、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの絵本を一冊ずつ紹介します。

どの絵本も、主人公の子どもたちが家庭、幼稚園や学校という集団生活の場で、他の子どもたちとすごしながら経験する困難を描いています。

主人公の子どもたちは、さまざまな事情から自分がありのままでいることが許されていません。どの絵本にも、そんな子どもたち自身が感じる世界が描かれています。

『せかいいちのチーム(Verdens bedste team)』作者:Lilja Scherfig 、絵:Lea Hebsgaard Andersen(Jensen & Dalgaard, Denmark/2016年)

■デンマーク『せかいいちのチーム』

ハンネとハッセは仲良しのきょうだい。ハンネはおとなしく本を読んだり、静かに遊ぶ女の子。ハッセはじっとしていられなくて、おもしろい仕かけをつくっては怒られている男の子です。

ある日、そんなハッセにうんざりしきったパパは、お医者さんへ相談に行きます。そしてパパが持って帰ってきたのは、ある薬。これはパパのためではなくハッセのためでした。薬を飲まされたハッセは、まるで魔法にかかったように静かになってしまいます。そして部屋をかたづけ、お手伝いをし、みちがえるようなお利口さんになってしまうのです。

いつもハッセと遊んでいたハンネは、ハッセの変化にショックをうけます。あの楽しいハッセはどこにいったの? わたしはだれと遊べばいいの? 悲しみのあまり、ハンネは薬をトイレに捨ててしまいます。そうして、ハンネはいつものハッセを取りもどすのでした。

 

『トロルはわたしだよ(Deg er jag som är trollet)』作者:Jenny Bergman、絵:Lotta Geffenblad (Bonnier Carlsen, Sweden/2021年)

■スウェーデン『トロルはわたしだよ』

ある朝、幼稚園へ行く途中、主人公のわたしは魔法使いに大きなトロル(北欧に伝わる妖精・怪物)にされてしまいました。トロルになって幼稚園へいくと、大好きな先生は「トロルが幼稚園にきて良いはずがないでしょう!」とわたしを追い返してしまいます。家に帰ると、今度は玄関でトロルを見たママが大声をあげ、扉を閉めてしまいます。わたしはもうひとりぼっちです。

トロルになって何日もすぎたある日、魔法使いが森にいるわたしのもとへやってきました。

「このままトロルを続けるか、それとも子どもに戻るか、どちらにするか決めなさい」

でも、わたしはどうしても決められません。そして悩みながらも、家族やお友だちが恋しくて、わたしはトロルのまま街に足を踏み入れてしまいます。そのとたん、街中の人々は大騒ぎ。そしてトロルは「子どもに戻りたい!」とさけぶのです。

子どもに戻ったわたしは、幼稚園でお友だちに謝ります。

「あのトロルはわたしだったの。怖がらせて、みんなを食べちゃってごめんね」

お友だちは、「もう良いよ。もとにもどったし。なにもかも」。

でもわたしは思うのです。また突然、トロルになるかもしれないと。家でも、幼稚園でも。でもそれもわたし。そんな子は、きっとほかにもいるはずだと。

 

『あなぐまの日々(Grevlingdager)』作者:Gro Dahle 、絵:Kaia Dahle Nyhus(Cappelen Damm AS, Norway/2019年)

■ノルウェー『あなぐまの日々』

ペレは学校に入学する日をとても楽しみにしていました。でも学校が始まってしばらくすると、朝、身体が重く、あちこちに痛みを感じて学校へ行けなくなりました。一日、一日とペレは学校に行けない日が続きます。ママに連れられ、無理して行く日もあったけれど、校庭や教室にあふれかえる子どもたちを見て、そのさけび声や笑い声を聞くとつらくなり、また具合が悪くなるのでした。

毎日があまりにつらかったペレは、ある日突然、あなぐまになってしまいます。あなぐまになったペレは毎日どんどん穴を掘り、穴の中に隠れてしまうのでした。そうして地中深くへと入っていくペレの気持ちを、パパはわかってくれました。パパも子どもの頃、ペレと同じように学校へいきたくなかったのです。

パパとママは先生と話し合うことにしました。ペレが少しずつ学校へ戻るためには、なにができるかを話し合うのです。

大人たちはいいました。

「ペレが学校に合わせるんじゃない。学校がペレに合わせていく。全部は無理でも、なにかを変えていくことはできるはず」

そうして、ペレは学校がまだ静かな時間に、静かな場所で、少しずつすごすようになります。行けない日もあるけれど、得意なことをしながら、少しずつ、少しずつ。

学校図書館には、ペレと同じようなあなぐまたちがいて、静かにすごしていたのでした。 

家庭や集団生活で子どもたちが感じている日常や、声にならない心の声をイラストとともに描いた3冊の絵本。ページをめくれば、読み手である大人は心を揺さぶられるかもしれません。そして、今まで見えていたつもりで実は見えていなかった、子どもたちの日常に改めて気づくかもしれません。

子どもの気持ちに寄り添った物語を、子どもたちは安心して読み進めることができるのではないでしょうか。感じたことを、恐れず素直に言葉にできるような、そんな力を絵本はくれるかもしれません。そうして、わたしたちは、今までとは少しちがった対話を始めることができるでしょう。子どもたち一人ひとりが幸せでいるために。 

(文:さわひろあや 編集:毛谷村真木/ハフポスト日本版)