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2021年10月21日 07時55分 JST | 更新 2021年10月21日 07時55分 JST

衆院選、始まる。「餓死か泥棒しかない」という声を政治はどう受け止めるのか

この一年半、住まいも仕事も所持金も失った人たちの声に、相談会などで耳を傾けてきた。彼ら彼女らの言葉を要約すると、「餓死か自殺かホームレスか刑務所か」という「最悪の四択」になる。そんな社会は、はっきり言って終わっている。

時事通信社
岸田文雄首相=2021年10月18日

衆院選を前にして、発足わずかの岸田内閣がさっそくボロボロだ。

10月8日の所信表明演説では「分配なくして次の成長なし」とブチ上げていたのに、その3日後にはなぜかそのフレーズが「成長なくして分配なし」に変化。

また「新自由主義からの転換」という巨大花火も打ち上げていたのに、金融所得課税強化は見送り。

そうして選択的夫婦別姓は、いつのまにか検討すらしない方向のようだ。

そんな岸田首相に関して、非常に腑に落ちる言葉に出会った。「週刊金曜日」10月15日号の中島岳志氏と山本太郎氏の対談だ。ここで中島氏は、岸田首相を「彼が一貫しているのは、ぶれることのみ」と評している。

「目の前にいる人に合わせるっていうだけの人で、それで嫌われないということによって出世していく」

確かにまったくその通りで、そんな処世術によってとうとう総理大臣にまで登りつめたのだから、なんだか今の時代を象徴しているようである。

さて、そんな「ブレる男」岸田首相、所信表明演説で「人生百年時代の不安解消」や「働く人への分配機能の強化」「中間層の拡大」「少子化対策」などと言っているが、その一番の近道は、誰が考えても安定した雇用ではないだろうか。

最近、国税庁が2020年の「民間給与実態統計調査」の結果を発表したが、それによると、正社員の平均年収は496万円であるのに対し、非正規は176万円。男女別で見ると、非正規男性は228万円、非正規女性は153万円。強調したいのは、今や働く人の4割が非正規であり、女性は半分以上が非正規ということ。2000万人を超える人々が、平均すれば100万円台の年収しか得ていないことである。

「少子化が問題だ」と言うのであれば、岸田首相はこの額で子育てできるかどうか、考えてみればいいだけのことだ。

ちなみに40代、ロスジェネの私は、同世代の非正規の人々から「正社員として長く働けるなら、結婚や出産について前向きになれる」という言葉をもう、うんざりするほど聞いてきた。仕事さえ安定していたら、1年後、5年後、10年後を予想してライフプランを立てることができる。

しかし、ロスジェネの中には、20年以上前の90年代から今に至るまで、ずーっと「3ヶ月先の生活がまったく不明」という人が多く存在する。非正規化によって生み出された層だが、「たかが雇用形態」が結婚や出産という人生の選択肢に大きな影響を及ぼしていることを政治はこれまで完全に放置してきた。

それだけではない。非正規ゆえ、ローンが組めない、賃貸物件の入居審査に落ちるなど、もはや「身分制度」のようになっていることをどう考えているのか。非正規は、もはや雇用だけの問題ではまったくないのだ。だからこそ、「中間層の拡大」とか言うのであれば、ここに目を向けてほしいのだ。というか、自民党政治が長年かけてここまで非正規を増やし続けてきたのだ。誤った政策の犠牲者に対して「自己責任」と言い続けるだけで放置してきた罪は、絶対に問われなければならないと思う。

さて、私がこの一年半目撃しているのは、そんな非正規層の中からコロナが「トドメの一撃」となり、深刻な貧困状態に陥ったり、住まいを失ったりしている人が続出していることだ。

新型コロナ災害緊急アクション」に「ホームレスになった」「所持金が尽きた」とSOSメールをくれるほとんどが、非正規。ついでフリーランスや自営業。

しかし、支援団体に出会えた人はまだ幸福と言える。そのような情報にたどり着けず、自ら命を絶っている人は確実に存在するし、ひっそりと路上に出て、空腹から窃盗などをして捕まる人も出ている。コロナによる貧困ゆえに起きた事件。思えばこの一年半、そんな事件を多く見聞きしてきた。

例えば20年4月には横浜で不動産業者の女性を刺し、バッグを奪ったとして20代男性が逮捕されている。男性は新型コロナの影響で仕事がなくなり、ネットカフェにも泊まれなくなり路上生活になっていた。

20年8月には、福岡で30歳の女性が恐喝未遂で逮捕されている。真珠販売店でカッターナイフを店員に向け、現金を脅しとろうとした容疑だ。女性はコロナでうどん屋の仕事を失い、たちまち家賃を払えなくなり、公園で寝泊まりする日々に。紙に「食べ物をください」と書いて路上に立つこともあったという。事件を起こした時の所持金はわずか257円だった。

20年11月には熊本県で53歳の男性が、本屋でコミック一冊を万引きして交番に自首、逮捕されている。男性は5月まで機械製造会社で派遣で働いていたもののコロナによる不景気で契約を打ち切られ、「家と食べ物に困っていて、警察に捕まりたかった」と話したという。

一方、昨年にはコロナで生活苦に陥ったベトナム人実習生を風俗で働かせたとして経営者が逮捕されているし、家畜窃盗に関与した疑いで外国人が逮捕された事件もあった。

どれもこれも、「公助」がマトモに機能していたら、決して起こらなかった事件だろう。

ちなみに、コロナ禍で犯罪自体は減少している。20年の犯罪は17.9%減。特に「窃盗」は21.6%も減っている。外出の機会が減ったことで、犯罪そのものも減ったようである。

3・11の時、暴動や略奪が起こらなかったことが世界から驚かれたように、この国では、どんなに生活が厳しい人が増えても、途端に盗みが増えて治安が悪くなることはなかった。

しかし、このまま放置しておけば、そんな「日本の神話」だって崩れかねないだろう。そうして一度悪くなってしまった治安をもとに戻すには、膨大なコストがかかる。

だからこそ、公助が必要なのだ。今のように「若いから」と追い返されたり時に人格を否定されるのではなく、助けを求めたら「大変でしたね」と手が差し伸べられるような、そんな福祉が必要だと思うのだ。

この一年半、住まいも仕事も所持金も失った人たちの声に、相談会などで耳を傾けてきた。彼ら彼女らの言葉を要約すると、「餓死か自殺かホームレスか刑務所か」という「最悪の四択」になる。この中で、もっとも「公的」っぽいのは刑務所だ。そんな社会は、はっきり言って終わっている。

さて、衆院選公示の前日、厚労省で「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」の記者会見をした。

昨年4月に始まったこの相談会は、10月23日で10回目を迎える。2ヶ月ごとに開催される相談会では私もずっと相談員をしてきた。相談会ではこれまで1万人以上の悲鳴を受けとめてきたのだが、コロナ禍が始まってから時間が経てば経つほど労働相談は減り、生活苦の相談が増えている。同時に増えているのは相談者における無職者の割合だ。

そんな相談会に寄せられる相談を、昨年8月から「貧困研究会」が分析をしているのだが、事態の悪化が如実に表れているのは預貯金額だ。例えば昨年8月に電話してきた人の預貯金額は、平均値で232万円。しかし、直近の今年8月には、平均額が67万円まで下がっていた。中央値は昨年8月で16万円。今年8月で0円。

また、今年8月に電話をくれた中で、預貯金額について回答があった226人のうち、54.9%の124人が預貯金・手持ち金が0円。10万円までが全体の71%を占めている。

この電話相談では国の対策についての評価を聞いているのだが、今年8月、「全く評価しない」が43.3%で過去最高となった。「評価しない」は25.4%。実に7割近くが国の対策を評価していないのだ。

一方、最近目立つのは、緊急小口資金、総合支援資金などの貸付金をすべて借り切ってしまい、どうにもならないという相談だ。例えば以下のようなもの。

「緊急小口も総合支援資金も利用し、合計155万円。年を越せない。餓死か泥棒しかない」(男性)

貸付金を借り切った人には「生活困窮者自立支援金」という制度があるにはあるが、支給額は一人世帯で6万円が最大3ヶ月。はっきり言って焼け石に水だし、支給要件が厳しいことから以下のような声もある。

「緊急小口、総合支援資金で200万円借りたが生活できない。自立支援金は要件満たず。派遣で働いているが、もうすぐ期間3年で終了となる」(女性)

そもそも困窮者に給付ではなく貸付をするという支援策自体、最初から無理があることは多くの人が指摘していたことだ。一方、8月と言えば第5波の真っ只中だったので、コロナに感染した人からの相談もあった。

「コロナに感染した。症状が治れば働いていいと言われているが、家賃が払えない」

「一人親方。コロナにかかって今日で12日目。ホテルに空きがなく自宅療養。酸素飽和度は一時90にまで下がった。昨年一時仕事が半減し、その後復調していたが、コロナに罹患して今は無収入。収入減った際に、特例貸付を枠いっぱい借り、サラ金等から合計200万円の借金がある。毎月の保険料も払えない」

このような事例が報告された記者会見の場で、700件以上の駆けつけ支援をしている「新型コロナ災害緊急アクション」の瀬戸大作さんは、最近の傾向に触れた。

7〜9月にかけて、「住まいがない」「所持金が尽きた」などSOSメールをくれる人の65%が20代と若年化していること。生活保護申請同行に至っては、4割が女性であること。シェアハウスからの追い出しも見られること。また、一年前に支援し、生活保護に繋げた人たちの多くが、今も仕事が見つかっていないこと。正社員になっている人はゼロであること。また、ここに来て生活保護の申請を追い返す「水際作戦」が増えていること。

そうして、厳しい生活の中、やむにやまれず万引きをしてしまい、捕まる人が出ていることについても触れた。

もちろん、罪は償わなければならない。しかし、経済的に追い詰められて万引きすれば「前科者」となり、生活再建はさらに茨の道となってしまう。万引きを考えるくらいなら役所に行って助けを求めればいいと思うが、役所の中には助けを求める手を振り払うところもある。ある意味、刑務所より役所の窓口の方がハードルが高くなってしまっているなら、それはセーフティネットが機能しているとは到底、言えない。

このような限界状態の支援の現場を、どれほどの政治家が知っているだろうか。

さて、そんなコロナ禍で始まった衆院選。

なんとかして、岸田政権に大きな打撃を与えたい。

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「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」
10月23日(土)10:00〜22:00
(無料・全国いっせい)
TEL: 0120-157930
https://www.atpress.ne.jp/news/272016

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 (2021年10月20日の雨宮処凛がゆく!掲載記事『第572回:衆院選、始まる。「餓死か泥棒しかない」という声を政治はどう受け止めるのか。の巻(雨宮処凛)』より転載)